208.新しい依頼
俺の名前はヴィル・クラフト。
どこにでもいる一般的な鍛冶師だ。
八宝斎という著名な職人だったじーさんから、その役割と神鎚ミョルニルを受け継いだ俺は、鍛冶師として王都で働いていた。
しかしある日弟に婚約者と店を奪われ、追放されてしまう。
全てのしがらみから解放された俺は、自由に物作りライフを送ることにする。
前回は南の島で炎の勇者ヨウが持つ聖剣が、ウィニーちゃんっていう悪いやつに奪われる事件に遭遇。
俺と六聖剣の勇者達と協力し、見事に敵を倒して見せたのだった……。
さて。
島を出た俺は、南の国フォティヤトゥヤァを出て、大陸へと戻った。
馬車に乗ってのんびりと旅をする……。
「ヴィル様」
「ん? どうしたーポロ?」
俺の隣を歩く、ケモミミ美少女はポロといって、俺が助けた獣人の女の子だ。
現在、彼女は闇の聖剣 夜空と、光の聖剣ルクスの所有者……。
つまり、勇者なのである。
「どうして歩きなのでしょうか? ヴィル様はどんな乗り物でも作れましょうに」
確かに竜車をはじめとした、あらゆる物を俺は作れる。
俺の右手……黄金の手を使えばな。
「たまには歩いて旅するのもいいだろう。馬車に乗ってるときには、気づけない発見もあるしな」
俺はしゃがみ込んで、道ばたに咲く花を見つめる。
こういう、何気ないものから、新しいものづくりのアイディが浮かんだりするのだ。
「乗り物や竜車は■に入ってるから、ま、疲れたらまたそれに乗って旅すれば良い」
「なるほど……そういえば、ヴィル様の旅は過程を重んじるものでしたね」
そう。
俺が旅してるのは、新しい神器を作るため……。
ようは、新作のアイディアを練るための旅だ。
アイディアを欲して旅するのではなく、旅の途中で思いつくアイディが目的なのである。
旅は目的ではなく手段。
結果ではなく過程なのだ。
「ぷらぷら~っと歩いて、新作のアイディアが浮かんだららっきー、みたいな軽いのりの旅なんだし、先をいそいでるわけでもない。てことで、徒歩でもよいのだ」
「なるほど……あ! ヴィル様!」
ポロが耳をぴくんっと側立てる。
「悲鳴が聞こえました!」
「おー、マジか。そんじゃ……」
「行ってきます!」
ばびゅん! とポロが音のした方へと走り出す。
もうすっかり、彼女も勇者の仲間入りだなぁ。前は困ってる人が居ても助けないような子だったのに。
色んな勇者とふれあううち、色々考え方が変化したのだろう。
いいことだ。
「ヴィルさまぁー!」
ぶんぶん、とポロが離れたところから手を振っている。
俺は彼女の元へと向かう。
「むきゅ~……」
「この子は……魔族?」
ポロが小さな魔族の女の子を抱きかかえている。
「この子が魔物に襲われてるところを、私が助けたのです」
「なるほど、よくやった」
人間、ラブ&ピースが一番だからな。
「んじゃどうしてこの子倒れてるの?」
「それはその……」
ぐぅう~……。
「はら……へっ……た……」
おお、お腹空いてるんだなぁ。
ちっと待て。
俺は■から、こないだ作った魔道具を取り出す。
手のひらサイズの水袋だ。
「水……ですか?」
「ただのお水ではない。名付けて、10秒チャージゼリーだ」
俺は水袋の口を、少女のもとへもっていく。
ずぞおぉお……と女の子がゼリーを吸う……。
「ぷはぁああ! いきかえったー!」
さっきまで空腹で死にそうだったのに、今は肌つやも元通り。
「ゼリーに必要な栄養素をぎゅーっと圧縮、少し飲むだけでエネルギー、水分などを一瞬で摂取できるっていう魔道具だ」
「す、すごいです! ヴィル様の作る魔道具は、いつもながら最高です!」
しかしこれ栄養は補給できるけど、食べる楽しみがなくなるのが難点だ。
なかなか凄い魔道具を作るのって、むずかしーんだなぁ。
「このようなすごいものを作り出すなんて……おぬし! よもや八宝斎ではないか!」
幼女魔族ちゃんが俺を見ていう。
「あれ? 俺のこと知ってるの?」
すると幼女ちゃんは俺の前で頭を下げる。
「頼む! わらわの家……魔王城を! 新しく作っていただけないだろうか!」
……な、なにぃい!?
魔王城を作って欲しいだってぇえ!
「もちのろん!」
この子が誰だとか、どうして追われてたのかとか、そんなのどうだってよかった。
ただ、魔王城が作れる……! それだけ聞いて、俺はわくわくしてるのだった。




