20.魔物化してしまった村人を治す
俺は皇帝から【ディ・ロウリィ】という領地をもらった。
領地の見学に来たところ、そこでモンスターに襲われていた女の子と遭遇。
この領地の話を聞くため、【ロリエモン】の村に向かうのだった。
「ここが、人の住んでる……村?」
「うん! そうだよ! あたしたちの村!」
幼女ちゃんが笑顔で言う。
しかし……ひどい有様だった。
どの小屋もボロボロだ。
手が全く付けられていない。
村の中に人が一人もいない。
魔物よけの柵も、適当に棒とロープで囲ってつくってあるだけ。
「こんなんじゃ魔物が入ってきて大変だろう?」
「ううん!」
え、否定……?
どういうことだ……と疑問に思った、そのときだ。
「ノーア! 何をしてる!」
「おじいちゃん!」
声がしたので、そっちを見たころ……。
ポロがぎょっと目を剥いた。
「ま、魔物……!?」
幼女ちゃんは、ノーアちゃんって言うらしい。
彼女を呼んだのは、紛れもなく魔物だ。
二足歩行するトカゲ……蜥蜴人だ。
「ばかな! 魔物の気配はしなかったのに! ヴィル様、お下がりください!」
ポロが剣を抜いて、蜥蜴人をにらみつける。
だが、彼はびくんっ、と俺たちに怯える表情を見せた。
なんか……変だ。
「おねえちゃんやめて!」
ノーアちゃんが蜥蜴人の前に立ち、両手を広げる。
「おじーちゃんをいじめないで!」
「ノーアちゃんどいて! そいつは蜥蜴人……危険なモンスターよ!」
しかしぶんぶんと首を振るノーアちゃん。
やっぱり……変だ。
「ポロ、剣を引いてくれ」
「しかし!」
「さすがに変だ。蜥蜴人って、人の言葉しゃべれないだろ?」
「た、たしかに……ランクの低い魔物は、知性を持たず、言葉をしゃべれなかったはず……」
そのとおりだ。
つまりは、この蜥蜴人には特別何かがある。
「俺らを殺す気なら、向こうから襲ってくるだろ? でもそうしない。知性がきちんとある。それに……見てみろ、ノーアちゃんの顔」
彼女は涙ぐみながら、両手を広げて、蜥蜴人をかばおうとしてる。
こんな必死な表情を、させるくらいに、このモンスターとは仲がいいってことだ。
「話聞いてあげようぜ。な?」
「……わかりました」
ポロが剣を抜いて、鞘に収める。
ノーアちゃんが安堵の息をつくと、その場にくたぁ……へたりこむ。
「おお、我らを見逃してくれるのか、旅人よ?」
「ああ」
「なんておやさしいお方じゃ……! 感謝いたします!」
平に伏して、蜥蜴人が言う。
「俺はヴィル。ヴィル・クラフト・ディ・ロウリィだ」
「! ディ・ロウリィ……まさか、この領地の新しい領主様ですか?」
「そうなるな」
じわ……と蜥蜴人が目に涙をためた後、頭を下げながら懇願してくる。
「お願いします、新たなる領主様! どうかこの村の住人を、お助けください!」
……何があったんだろうか。
わからないが、その必死の形相を見ていると、かわいそうに思えむげに断れなかった。
とりあえず話を聞くため、俺はノーアちゃんと蜥蜴人といっしょに、ボロ小屋へと向かった。
「わしはこのロリエモンの村の長をやっております、セバースと申します」
セバース村長は深刻な表情で、この村のことを話す。
「実は、この村はある【呪い】にかかっているのです」
「呪い……?」
「はい。それは……見せた方が早いですな。ノーア。背中をお見せなさい」
セバース村長に言われて、ノーアちゃんがくるんと俺たちに背中を向ける。
村長が服をめくると……。
「! トカゲの……鱗……?」
ノーアちゃんの肩甲骨のあたりが、村長と同じく、は虫類の鱗で覆われていた。
村長が服を戻す。
「ここら白竜山脈の麓にある村人たちはみな、この【竜化の呪い】にかかっておるのです」
呪いが進行すると、村長のような全身が蜥蜴人になってしまうらしい。
「大人の方が呪いの進行が早く、この村の大人達はみな、蜥蜴人になってしまっているのです」
「原因はわかってるのか?」
「はい……あの白竜山脈にすまう、【白き竜神様】のせいですじゃ」
「白き……竜神……?」
山に竜神ってやつが住んでいるらしい。
そいつが巻き起こす風にあたると、みな呪いにかかってしまうんだと。
「大昔、この大陸には1つの大きな国があったそうです。白き竜神様はその国の王を心から愛していた。しかし……王が死んで悲しみに暮れた竜神様は、山に引きこもり……そして悲しみにとらわれ、荒ぶる呪いの神へと変貌してしまったのです」
「ふーん……人を愛する竜なんているんだな」
つまりこの山には呪われた竜がいて、そいつの起こす竜化の呪いのせいで、ディ・ロウリィの領民は困っていると。
「どうにかしようとは思わなかったの?」
「ディ・ロウリィにくる領主様には、毎回お願いしてました。しかし、話を聞いてはくれないのです。この姿なので……」
なるほど。モンスターを怖がって、ディ・ロウリィの領主どもは相手してくれなかったのか。
たぶん問題も放置していたんだろう。
相手が呪われた神なんだ。
ふれたら、逆に自分が祟られるって。
まあ気持ちはわからんでもないが、領民達が苦しんでるのに、問題を上に報告しなかった領主達には、結構むかっ腹がたつぜ。
「アルテミス陛下も大変だなぁ……」
陛下が悪いんじゃない。
報告してこなかった連中がだめなだけだ。
「ヴィル様、いかがなさりますか?」
ポロがこれからの方針を尋ねてくる。
ま、でも俺のやることはかわらんよ。
「助けるさ。このディ・ロウリィの領民達も……それに、その白き竜神様とやらもな」
「おお! 我らをお助けくださると! ありがとうございます! 領主様……!」
ポロが首をかしげながら言う。
「領民はともかく、原因となってるその竜神まで、助ける必要あるのですか?」
「だって話聞いてる限り、かわいそうじゃん」
好きな人が死んで悲しみ、呪いにとらわれてしまった。
きっと今もなお、その神は救われず苦しんでるだろう。
俺は、どうにもそういうのを放置できないタチなのだ。
「まずは村長さん、あんたから治すよ」
「し、しかし……大丈夫でしょうか? 大金をはたいて、闇市で手に入れた最高級の聖水でも、呪いは解除できませんでしたのに」
俺は神槌ミョルニルを取り出す。
セバース村長さんを見やる。
すると、俺の前に魔法陣が出現した。
「やっぱり、見える。不具合が」
アルテミス陛下の病気(と老化)を治すことができたのだから、今回もできると思った。
この魔法陣は、その人(物)の設計図だ。
不具合である箇所が、俺の目にはわかる。
このエラーを起こしてる箇所が、呪いにかかった細胞。
この呪われし細胞を……。
「壊して、再構成する!」
魔法陣をハンマーでたたき割る。
一度壊して、細胞を作り替える。
すると、セバース村長のとかげの見た目が、みるみるうちに元通りになっていく。
やがて……。
「お、おじいちゃん! もとにもどってるよー!」
ノーアちゃんが村長に抱きついて、うれしそうに言う。
「信じられない……! 最高級の聖水でも直らなかったこの呪いを、一発で治してみせるなんて! すごすぎます! 領主様!」
前の俺には無理だったろう。
しかし今の俺は職人としてのレベルが上がっている。
人を治療し、病を治した。
呪いの妖刀を、聖なる剣に作り替えた。
そこから、呪われし細胞(物)を、正常な状態(細胞)へと作り変えるという着想を得たのだ。
今まで俺が、たくさんのものを作ってきた経験があったからこそ、呪いを解くことができたのだろう。
「さすがです、ヴィル様! やはり、あなた様は最高に素晴らしいおかたです!」
ポロに褒められて、気恥ずかしい思いをしながら、俺はセバース村長に言う。
「村人をみんな連れてきてくれ。俺が治療する」
白き竜神様を助けるのは、そのあとだ。




