184.狂気
ウィニーはヴィルに邪魔されて決定打となる攻撃を放てないでいた。
相手は明らかに時間を稼いでいる。
特に水の勇者、そして氷の勇者は力を貯めているのがわかった。
早めにとどめを刺す必要があったのに……。
『ヴィルてめええええええ!』
ウィニーの体を構成する神器を溶かし、それを超圧縮する。
神器が秘めた超パワーを無理矢理圧縮して……。
『くたばりゃぁああああああああああああああああああああああ!』
前方に向かって熱線を放つ。
『灼熱地獄光!』
炎、光、2属性の極大魔法を合成して放つ……複合極大魔法。
通常、極大魔法を合成させることは不可能だ。
右を見ながら左を見るようなもの。
しかしウィニーはやってのけたのだ。
自分の中に2つの人格を作ることで、それを可能にしたのである。
『どうだぁああああああ! ヴィルぅううううううううううううう!』
ウィニーの放った極大の熱線……。
大気を焦がし、山を、海を、星を穿つほどの威力を孕んだ熱線を前にして……。
ヴィルは……。
「す、すげええええええええええええ!」
まるで新しいオモチャを見つけたような、無邪気な笑みを浮かべていた。
「複合極大魔法!? スゲえ! 体の中に二つの自我を芽生えさせることで実現させてるのか! うぉー! すげー!」
……いや、すごいのはこいつだ。
初めて見る魔法を、一瞬でその構造を理解して見せたのだから。
そして……。
「万物破壊!」
ヴィルは逃げることなく、熱線を真っ正面から受けるようだ。
黄金の手に宿るスキル、万物破壊。
それを神鎚ミョルニルに付与し、そして、熱線めがけて振るった。
……正気を疑った。
生身で受ければ魂まで蒸発するような、凄まじい威力の熱線。
それを前にして避けるをしなかった、その胆力に度肝を抜かれる。
……そして何より。
灼熱地獄光を破壊して見せた、その、恐るべき力……。
「いいねえ複合極大魔法かぁ! 今ぶっこわして完全に構造理解したぜ! 新しいインスピレーションくれて、さんきゅーな!」
……自分の命がかかっていたというのに、彼は笑っていた。
狂気。
だが、その姿は、どうしようもなく、ウィニーに彼を作った親の存在を想起させる。
七福塵。
父の……存在を。
『くそ……くそぉ! なんで……パパを思い出すんだよ! くそ! ボクが……ボクが……パパの娘にふさわしいのにぃい!』
どうしようもないくらい、ヴィルと七福塵は似ていた。
それこそ……本当の親子のように。
それがウィニーにとっては許せなかった。
父の寵愛を受けるのは、自分だけであるべきだと思ってるから。




