176.ヴィルの弱点
ヴィルは神鎚を手に難しい顔をしていた。
『う゛ぃるぅうううう! どうしたぁ、かかってこいよぉおおおおおお!』
巨大な炎の魔神が殴りかかってくる。
灼熱の拳が近づいてきても、しかしヴィルは空気の塊を使って足場を作り、避けたのだ。
ヨウは魔法矢を打ち込んで敵の攻撃の軌道をずらしながら……。
おかしいと思った。
ヴィルには神器を無限に複製するスキルがあったはずだ。
神器は1つ1つが絶大なる威力をはらんでいる。
それをぶつけるだけで魔神には大ダメージが入ったはず。
今のも単に敵の攻撃にたいして、神器を複製してぶつければ、相手をひるませることができたはず……。
と、そこまで考えて、ヨウは思い至る。
敵は炎の魔神だ。
並の武器ならドロドロにとけてしまう。
それか……!
『ひゃははは! う゛ぃるぅ! どうしたよぉ、かかってこいよぉ! おらおらおら……!』
魔神が調子に乗って連打を加えてくる。
ヴィルはその全てを体術のみで裁いていた。
……確定的だ。
ヴィルは多分、畏れているのだ。
己の作った武器を、敵にぶつけることで、武器が溶けてしまうことを。
ヴィルは物にも心があると考えるタイプの職人だ。
ゆえに、武器を無為に炎にくべるようなことをしたくないのだろう。
……なら、ここは弓使いの自分が。
と思うが、そもそも聖剣ファイア・ローがなければ一〇〇%の力が出せない、ヨウ。
ローを回収するためには敵をひるませる必要がある。
けれどそのための決定打をヴィルが、打てないで居る。
……万事休すか。
『死ねぇええええええええええええええ!』
魔神が噴石の雨あられを降らせるなかで、その合間に拳を振ってきた。
ヴィルにその攻撃が当たろうとした瞬間……。
ぎゅぉおお! 炎の拳が消滅したのである。
『なんだぁ!?』
「ヴィル様……! はせ参じました!」
しゅた、と空気ブロックの上に、獣人ポロが華麗に着地する。
その両手には光と闇の聖剣が握られていた。
今の闇の聖剣の効果。
あらゆるものを飲み込む闇の力で、敵の炎を吸い込んだのである。
「三人であの化け物をやっつけましょう!」
なんと、心強いことか。
ヨウはうなずいて、武器を構える。




