171.腹の中
《ウィニーSide》
ウィニーは、このふざけた態度の男を、ヴィルをできるだけ苦しませたあとに殺すつもりだった。
会話で時間を稼ぎ、そして作り上げた機構を発動させる。
「が……は……!」
「ヨウ……?」
ヨウと呼ばれた砂漠エルフ(ダークエルフ)の少女はその場に崩れ落ちた。
喉元をかきながら、白目を剥いて悶える。
「おろ……?」
ヴィルもまたよろめいた。
いいぞ……狙い通りだとウィニーが内心でほくそ笑む。
「どうしたヴィルうぅううう!? 苦しそうじゃあないかぁ……! なぁ……!」
そのまま訳もわからず苦しんで死ぬがいい。
「あ、なるほどぉ! そういう仕組みかぁ……!」
ヴィルはなんだか笑顔になると、壁に向かってハンマーを叩きつける。
どがん! という音とともに風が部屋の中に入り込んできた。
「ガハッ……! はぁ……! はぁ……! はぁ……!」
「ヨウ、大丈夫か?」
「な、なんとか……」
ウィニーは驚愕する。
ヴィルは、この一瞬で部屋の仕掛けに気づいたというのか!?
「酸素を部屋から除去してたんだな」
「くっ……!」
この部屋とウィニーとは同化している。
つまりここは彼女の腹の中と同義。
腹の中の空気だけを抜いて、外に出していたのだ。
……まあ、バレてしまったのだが。
「けど……これで終わりと思うなヴィル……!」
ウィニーの手に、火の聖剣ファイアー・ローが出現する。
「ロー!!!」
元の持ち主であるヨウが叫ぶ。
そういえばあの女から聖剣をうばったのだと遅まきながら思い出した。
「それで何する?」
「こーすんだよぉ! 死ねええ!」
ウィニーは火の矢を放つ。
今、部屋の中は無酸素空間から、一気に酸素が入り込んでいる状態だ。
通常よりも酸素密度が高い。
そんなところに、火を放てばどうなるか……。
「燃えろぉ!」
ドガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!
……激しく燃え上がる炎は、ヴィルたちを丸焼きにした。
「しゃしゃしゃー! 僕の勝ちだぁ!」
「いやぁ、ナイスコンボ!」
「なにぃいいいいいいいいいいいいいいい!?」
激しい炎の一撃を受けても、ヴィルはけろっとしていた。
あり得ない……確実に殺したはずだったのに!
「なるほど、無酸素空間で敵に窒息させる。よしんば空間から脱出しようとしたら、今度は火により丸焼きにするかぁ、考えたなぁ」
……余裕綽々で、解説してみせるヴィルが、心底恐ろしかった。




