12.雷の勇者を楽勝で倒し、求婚される
俺たちは村を出て、草原を進んでいた。
離れた場所には山が連なってるのが見えている。
そんなのどかな田舎道を、俺たちを乗せた馬車が走っていた。
御者台には獣人のポロが座っている。
「良かったですね、ヴィル様。馬車をもらえて」
「ああ、あの村の人たちには感謝だなぁ」
村長のアーサーじーさんから、村を助けたお礼ということで馬車をただでもらったのだ。
しかも食料や生活用品ももらってしまった。
その上……。
『空気が美味しいのぅ~。外って最高じゃ!』
ポロの腰には、闇の聖剣・夜空がつけられている。
アーサーじーさんから、聖剣は俺たちに託したいと言われたのだ。
村の中で腐らせておくのは実にもったいないってね。
俺は剣を使わないので、ポロに装備させることにしたのだ。
『のぅ、我が創造主よ。どこへ向かっておるのじゃ?』
「今は帝国に向かってるよ。マデューカス帝国」
デッドエンド村で地図を見せてもらった。
どうやら俺たちが さっきまでいたのは、元いた王国の端っこの村。
俺は王国に戻る気はないので、隣にある帝国を目指すことにした。
帝国には妖精郷っていう、珍しい森があるからな。
ちょっと見てみたいのだ。
ま、そうはいっても気ままな旅。
何か他にいいものが見つかったら、ふらっとそっちへ行ってもいい。
とにもかくにも、王国にとどまっていなければそれでいいや。
と、のんきに構えていたそのときだ。
「! ヴィル様、ドラゴンです!」
馬車の窓から外を見やる。
緑色の鱗を持ったドラゴンが空を飛んでいた。
あれは……。
「緑竜だな」
『ほぅ、ドラゴンとな。強さはどの程度だ?』
「知らん。あれの鱗はいい防具の素材になるんだよ~」
『……我が創造主はどうやら、モンスターを素材としか見ておらんようじゃのぅ』
え、違うの?
「ヴィル様。ここは、私にお任せください」
ポロが馬車を止めて、夜空に手を置く。
「ヴィル様のお手を煩わせるわけにはいきません」
『それは同感じゃ。ゆくぞ、ポロ』
「はい!」
ポロと夜空がアレを倒してくれるらしい。
まあいいか。
夜空の性能も確認しておきたいし、任せよう。
ポロは夜空を抜いて構える。
夜空には持ち主の剣の技量を底上げする力がある。
どれ、どんなものか……。
「ギシャァアアアアアアアアアアアアア!」
緑竜がポロめがけて急降下してくる。
デカいドラゴンを前に、しかしポロは一歩も引かない。
「はぁ……!」
たん! とポロがジャンプ。
上空へ飛び上がったポロは夜空を振るう。
ザンザン……!
ポロが剣を振るうと、緑竜のぶっとい首が切断される。
そのまま地面に倒れるドラゴン。
そして、その上にポロが華麗に着地して見せた。
ううん……2撃かぁ。
「やりました、ヴィル様! どうでした?」
初めてにしては上出来だ。
褒めておこう。
「いいんじゃないかな。お疲れさん」
俺が馬車から降りてポロの頭をなでる。
一瞬頬を赤く染めたものの、ポロは尻尾をしゅんと下げる。
「だめですか?」
『だめだめじゃな!』
夜空からのダメ出し。
あらー……言っちゃうのな。
『我の力の、1%も引き出せておらぬ!』
たしかになぁ。
闇の聖剣を完成したとき、夜空のスペックはだいたい把握していた。
緑竜【程度】を一撃で倒せていない。
夜空の力を持ってすれば、あんなの瞬殺できないとな。
「やはり……そうですか。そうですよね……夜空様のバフがあっても、使い手の私が剣の素人ですし」
「まー、これからよこれから。な、夜空?」
『うむ。きちんと鍛練を積めばより強くなれるじゃろう。精進せよ』
ポロがこくんとうなずいた、そのときだ。
「見ぃいいいいいいいいいつけたあぁああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
上空から何かが、高速でこちらに突っ込んでくる。
俺はポロの首根っこを掴んで、後ろにジャンプ。
どごぉおん! という激しい音と衝撃。
俺は離れた場所にふわりと着地。
「……いったいなにが……?」
『敵じゃな。上空から降ってきて、武器で攻撃してきた。それを我が創造主がいち早く気づき、ポロを掴んで距離を取ったのじゃ』
どうやら夜空には見えていたらしい。
ポロが悔しそうに歯がみする。
「全然反応できませんでした……」
「いや、あれはしょうがないよ。だって【雷】の使い手だしな」
「い、雷……?」
さっきまで俺らがいた場所に巨大なクレーターが出きていた。
その場所に立っていたのは、ワイルドな格好の女。
虎柄の腰巻きに、黒いタンクトップ。
右目には眼帯をつけており、長いオレンジの髪を結んでチョンマゲ(極東の武士の髪型)にしていた。
粗野な見た目に、豊満なボディ。
タンクトップからは、巨大な乳がこぼれ落ちそうだ。
少し日に焼けた肌に、凶暴な笑みを浮かべる、ワイルドな姉ちゃんに……。
俺は見覚えがある。
「会いたかったぜえ! 【先生】ぇ……!」
ワイルドな見た目の美女が、さらに笑みを濃くする。
獲物を見つけた肉食獣みたいだなぁ。
「先生……? あなたは誰ですか!」
一方でポロが臨戦態勢を取る。
「こらこら、相手は敵じゃあ……」
「先生に女? てめえが先生にふさわしい女かどうか、あたいが試してやるよぉ……!」
ワイルド姉ちゃんは腰に付けていた武器を手に取る。
「それは……鞭、ですか?」
「応よ! あたいの相棒、【雷聖剣サンダー・ソーン】さ!」
剣って名前がついてるけど、形は鞭っていうね。
まあ聖剣ってみんなが夜空みたいに、剣の形していないんだよなぁ。
「聖剣……もしや……あなた様は……」
「は! ぼやっとしてると消し炭になるよぉ! おらぁ……!」
ワイルド姉ちゃんが鞭を振る。
その瞬間、鞭が高速で飛翔する。
「ヴィル様! おさがりください!」
「あ、おい待てよ。あいつは……」
ポロが夜空を手に持って、鞭に斬りかかろうとする。
だが鞭は生き物のように軌道を変えて、ポロの足にからみつく。
「おぅら! 一本釣りぃ!」
ワイルド姉ちゃんは鞭を魚釣りの要領で持ち上げる。
ポロは空中へ。
「このぉ!」
ポロが鞭を斬ろうとする。
だが鞭は頑丈で、切断できないでいる。
「なんだなんだ! 聖剣の使い手のくせに、【この状態】の鞭ですら切れないのかぁ!?」
「くぅ……!」
ポロが鞭を何度も切りつけるも、切断できない。
鞭がしゅるん、とポロの足から抜ける。
超上空から、ポロが落ちてくる。
ワイルド姉ちゃんは鞭を思いきり地面にたたきつける。
「はっはー! これでもくらいな! 【雷撃】!」
バチィン……! と鞭が地面にたたきつけられると……。
その瞬間、前方に向かって雷の衝撃波が発生した。
鞭から発生させられた雷は、地面をえぐりながら、空中のポロへ向かっていく。
『いかん! ポロ! 避けるのじゃ!』
「おせえよ!」
ポロでは反応ができていなかった。
あぶねえなこりゃ。
「そい」
俺は神槌を手に取って、空中に向かってハンマーを振る。
「【錬成:空気→空気ブロック】」
大気中にただよう空気を固めてブロックにする。
ブロックはすっ飛んでいき、ポロの前で止まる。
空気のブロックと、姉ちゃんの雷撃がぶつかる。
雷撃は激しい音を立てながらはじかれて、明後日の方向へと飛んでいく。
ずずぅううん…………という大きな音が遠くからする。
音のした方を見ると、さっきまであった山が消えていた。
『し、信じられぬ……山が一つ消し飛びおった! あの雷の一撃で……!』
夜空が驚愕していた。
まあ驚くのも無理ない。
あれが聖剣の本来の力。
それを初めて見て驚いているのだろう、新米の聖剣と、聖剣使いは。
落ちてきたポロを俺がキャッチする。
「もうしわけ……ありません……」
「気にすんな。相手がちと悪かったな」
俺はポロを下ろす。
はぁ……とワイルド姉ちゃんがため息をついた。
「先生、だめだよ、その女。弱すぎ。あと聖剣もよわっちすぎ」
「そういうな。まだこの夜空は生まれたばっかりなんだよ」
「そんな弱い女より、強いあたいと付き合ってくれよ、先生」
にか、とワイルド姉ちゃんが笑う。
ポロが恐る恐るたずねてきた。
「ヴィル様……このお方、もしかして……?」
「ああ。帝国に所属する聖剣、【雷聖剣サンダー・ソーン】の所有者にして、雷の勇者【ライカ・サンダーソーン】さんだ」
「帝国の……勇者。ライカ……」
ライカはニィと笑って、鞭を手に取る。
「先生、約束おぼえてるな? あたいが勝ったら、あたいの婿になれ!」
「え、ええ!? 婿ぉ!?」
ポロが驚く。
俺はため息をつく。
「まだそんな冗談言ってるのか?」
「冗談じゃあない! あたいは本気だ! 先生……あたいは、今日こそあんたを婿にする!」
ライカは雷聖剣を振り上げて、さっきよりも強く地面にたたきつける。
「【四雷撃】!」
さっきの雷撃が4本、俺に向かって襲いかかってくる。
俺はさきほどと同じく空気のブロックを目の前に作った。
雷撃はブロックにはじかれて四方に飛び散る。
どっごぉおおおおん! と大きな音を立てて……。
『山が四つ消し飛びおった! あやつ……我らとの戦いの時、全く本気ではなかったのじゃ……!』
「それをたやすく受けるなんて……さすがですヴィル様!」
ライカは実にうれしそうに、にぃと口の端をつりあげる。
「やっぱり先生はすげえや! じゃあこれはどうだ! あたいの新しい必殺技!」
ライカが鞭をぶん回す。
すると上空に雷雲が発生した。
雷雲にエネルギーが溜まってくる。
ありゃ、ちょっとまずいな。
「落ちよ! 【雷天竜】!」
雷雲から、巨大な雷の竜が顔を覗かせる。
山を砕くさっきの雷より、規模も威力も桁外れだろう。
『まずいぞ我が創造主! あれが落ちたらここいら一体が焦土となる……!』
「それはまずいな」
俺はハンマーを、思い切り上空に向かって投げる。
「スキル【万物破壊】……レベルMAX【万物破壊】」
黄金の手に宿る、5つの物作りスキルの一つ。
万物破壊。
文字通りすべてを破壊する強力なスキルだ。
普段は制限を付けて威力を下げている。
しかし今は、その制限解除。
破壊の力をまとったハンマーが、上空めがけて飛んでいく。
ハンマーは黒い炎をまといながらブンブンブン! と高速で回転しながら飛んでいき、竜と激突。
パキィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!
「うそ……雷が、破壊された……?」
『しかも、あの雷雲も消し飛ばしたじゃとぉ!?』
山をも砕く雷の竜も、それを発生させていた分厚い雷雲も、俺の投げたハンマーがぶち抜いて破壊した。
炎をまとったハンマーは、ブーメランのようにして、俺の手元へと戻ってくる。
スキルを解除する。
ふぅ……。
「す、す、すげえーーーーーーーーーーーー!」
ライカが笑顔で俺の元へやってきて、正面から抱きついてくる。
そのままの勢いでライカが俺を押し倒す。
「やっぱすげえよ先生は! 勇者の全力の一撃を、こうもあっさり打ち破るなんて! なんて強い漢だ! 素敵!」
「はは、どーも。また一つ強くなったなぁ、ライカ」
俺の腹の上に馬乗りになったライカが、にかっと笑って言う。
「ありがとー! うれしー! 結婚してー!」
「それは断る」
「くっそー! けど絶対先生に勝って、婿になってもらうからな!」
「はいはい」
ライカは出会った当初からこんな感じなんだよな。
まあ冗談で言ってるんだろうけどさ。
そこへ、ポロが悔しそうな顔をしながら言う。
「……あんなにお強い雷の勇者様を、あっさり倒してしまわれる。本当にヴィル様お強いです。……あんなに強い人に武器を作ってもらったのに、このていたらくなんて」
『落ち込むなポロ。我も悔しい。一緒に、強くなろう』
「夜空様……はい! ふたりで強くなりましょう! 素晴らしいヴィル様に、ふさわしい聖剣使いになれるように!」




