合戦のあと
元気四年六月
姉川の戦いにあと、長政はむなしく空を仰いだ。
確かに途中までは我が浅井軍が押していた。何がおこったのか、朝倉軍と戦っていたはずの徳川軍がこちらにむかってきた。この戦いで遠藤直経はじめ、浅井の名のある将が討たれた。
とにもかくにも敗残の兵をまとめ、帰城の途につた。
城に帰れば、無言で出迎える人々の前を通り過ぎた。出迎える人々も、また、無言だ。
気がつくと、お市が平伏している。せり出した腹ではその姿勢は辛そうだ。具合も悪そうだ。おそらく、無理をして出てきたのだろう。
「お市、局どころで休んでいろ」
それだけ、声をかけた。
お市は茶々の手をひいて立ち上がって、去ろうとする。茶々が側によってこようとしたが、私のただならぬ様子に察したのか、泣き出した。ちらっと茶々をみたが、そのまま、その場を去った。
自室に戻ると具足をはずし、横になった。
織田軍はもう攻めてはくるまい。浅井郡の被害も多かったが、織田軍の被害も少なくない。それだけの力はない。だが、横山城を奪われ、そこに木下藤吉郎が入り、以後、長政はこのことにより、経済封鎖に悩まされることになる。
戦死した者、負傷したものそれらのもののために感状をもって走り回って慰撫に務めなくてはならない。街や村の手当もしなければならない。敗戦したとはいえ、やることは山積みだった。