浅井長政
元亀元年4月
お市は 夫、浅井長政より離縁を告げられた。
「な、長政様、なぜ・・」
離縁状を渡し、そのまま、去っていこうとする長政に追いすがった。
お市に目を落とし、長政が言った。
「小豆袋」
「!」
「理由は、それだけ、いえば十分であろう」
そのまま、長政は去って行った。
「ああ・・・」
それでも、部屋を出て行った長政を追った。
「お待ち下さい」
振り返った長政の顔は悲しみに満ちていた。
「私が兄に小豆袋を送ったのは」
「もうよい。そなたは兄者を選んだのだ」
「違います。私は長政様と兄と争ってほしくなかっただけなのです」
「・・・・・」
一時、間をおいて長政が言った。
「政略で娶った妻と幾人、子をなそうと心を許してはならぬというが、私は、多少、期待していた。だから、このたびの出陣のことも隠さずそなたに告げた。もしかして、そなたが私を選んでくれるのではと」
「だが、期待は裏切られた」
「長政様は兄と戦って、浅井の家が無事に済むとお思いですか」
「私が負けると・・」
「はい。知略も武略も長政様の方が上です。ですが、兄にあって長政様にないものがあります」
「そなたの言いたいことはわかった。今、兄者と私が戦わずにすむ方法がひとつだけある」
「そ、、それでは」
「そなたが言いたいのは浅井家の粛清であろう」
「は・・はい」
「父はじめ、朝倉よりのものを粛清することだ。そのものたちの首を信長殿のもとに送り、恭順の意を示せば、信長殿も私と戦おうとはいうまい」
「そのような、そこまで・・」
「そなたが言っているのは、そういうことだ」
「妲己のような女だな。そなたは」
「ああ・・」
そのとき、お市はめまいに襲われ倒れてしまった。