94 魔術師、してやられる
室内に転移すると、トールが剣を構えて男と対峙していた。その横で魔術師が驚愕の表情で固まっていた。ノアは棍棒に偽装して見えない剣を構えている。状況を理解する間もなく、反射的に光の針を魔術師に降り注いだ。2人の魔術師はひとたまりも無くその場に崩れ落ちた。トールと対峙していた男は、突然出現した僕に注意を奪われた隙に、トールの突きに胸を貫かれて倒された。
「大丈夫か、ノア」
「魔道具のおかげだね、なんともないよ」
「もうひとり剣士がいたらあぶなかったな…」
トールの言葉を聞き、テレポートの直前に1人倒していたことを思い出した。剣を抜いていたので剣士だったはずだ。ふたりの説明を聞いた。
2階で爆発音がしたと思ったら、天井の一角が吹き飛び、そこから敵が飛び込んできたのだ。魔術師がふたり、剣士がひとりだ。ノアに斬りかかろうとする剣士をトールが阻止をした。魔術師のひとりがノアに火球を飛ばす。もう1人は手をノアに向けているが魔法を撃たない。
1人の魔術師では、魔術師2人に干渉魔法の射程内に踏み込まれれば勝ち目はない。1人を魔法で倒せばもう1人に干渉魔法でやられてしまう。魔法を使わなければいいが、敵の実魔法が防げなくなる。相手の2人は勝利を確信していたに違いない。もっとも、自分も死ぬ可能性は五分五分である。ゾンデルの人望か、あるいは恐怖か、手下への支配力は大した物だ。
しかし、そこにノアの持つ魔道具があれば話は別だ。外部からの魔法を無効化してしまう。驚いて固まってしまうのも無理はない。剣士がもうひとりいれば、魔法と同時に剣での攻撃が出来ただろう。見えない剣があっても、ノアの腕では対処できたかあやしい。危機一髪だった。
なんとか敵の奇襲をかわして、僕は扉から外に出る。エマは1人で戦っているのだ。
僕の姿を見た奴らは、奇襲が成功しなかったことが判ったのだろう。散り散りになって引き上げていった。
それを見て屋内にもどると、天井の穴からアリサが顔を見せた。
「ゾンデルらしき男も、戦いを見張っている者も、近くには見当たりませんでした」
そういって中に降りてきた。
「奇襲してきたこいつらは、死ぬ覚悟で襲ってきている。それにしては外の連中があっさり引き上げるのはおかしくねぇか」
トールの言葉に、ふと、ターニャのことが思い浮かんだ。
「宿だ!ターニャがあぶない!」
トールたちのことも忘れて、僕はひとりで宿の部屋にテレポートした。
表通りに面した部屋の窓が吹きとび、大きな穴が開いていた。怪我をしたウェルナー氏とリーザさんをソアが手当てしている。重傷ではなさそうだ。
「なにがあった!」
転移するなり、僕は叫んだ。
「落ち着いてください、ミスター。敵にしてやられました」
「どうしたんだ、これは」
「敵の一団が宿にやって来たのです。1階で宿の受付で押し問答をしていたかと思うと、階段を登ってくる音がしたので、ウェルナーさんたちを扉から離して、ゴードが廊下にでたのです。わたしもゴードのサポートに入ろうとしたとき、後ろの窓が吹き飛ばされ、ターニャちゃんたちもその場に倒れたのです。壁の穴から数人の敵が入ってきて、ターニャちゃんを連れ去られてしまいました。あっという間の出来事で、阻止できませんでした…」
「ソアとゴードは怪我はないのか」
「廊下にいたゴードは無事、わたしもかすり傷です。しかし、壁の近くにいたウェルナーさんとリーザさんが負傷してしまいました。お二人が壁になってターニャちゃんは無事だったと思いますが、連れ去られてしまい…」
そこへアリサがやって来た。ウェルナー宅から走ってきたのだろう。
「連中は馬車で街道を飛ばしています。おそらく隣町のゾンベルグへ向かっているのかと」
「ゾンデルの町か…」
遅れてトールとノアが戻ってきた。
「ミスター、一緒にテレポートしてくれりゃあ…」
いいかけたトールが、状況を見て取った。
「怪我はないか、ソア、ゴード」
もういちど同じ説明をするソア。聞き終わるとトールが言った。
「ウェルナー一家がこっちにいることは、奴らは知らないはずじゃぁなかったのか、ミスター」
「そのはずです。僕のテレポートは知らないはずですから」
「じゃぁ、どうして…」
「想像ですが…ゾンデルという奴は、よほど慎重なのか、どちらにターニャがいようと大丈夫なように両方を襲う計画を立てたのだと思います」
「慎重と言うよりも偏執狂だな」
「そうでもなけりゃ、ターニャのような子どもに執着はしねぇだろう」
「そう…なの…」
ノアが僕の方を見て言った。
いや、僕は違うからね。残念王女のことは、あくまでも…
「さて、どうしたら…」
僕の言葉に
「とりあえず、急いでウェルナー宅にもどり、奴の安全の確保だ。エマがついているが、また襲われて取り替えされたり消されたりしたら切り札を失っちまう」
トールの言葉に、あわててエマのところにテレポートした。
「無事か!」
「何事ですか、主殿」
「…どうやら思い過ごしだったか」
「ターニャちゃんは?」
「してやられた。敵に連れ去られてしまった。こっちにも再度の襲撃があるかと思って急いで戻ったんだ。とりあえず宿に戻ろう」
僕は捕虜とエマを連れて、もういちど宿にテレポートした。
★★ 95話は1月30日00時に投稿
外伝を投稿中です
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王女と皇女の旅 ~魔術師は魔法が使えない 外伝~




