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91 魔術師、敵を捕らえる

翌日、宿のトールの部屋でターニャをどう守るか、みんなで集まって話をしていると、アリサが戻ってきた。


「お疲れ、アリサ。上手くいったかい」

「ゴロツキ風情におくれは取りません。奴は馬を借りて隣の町ゾンベルグまで行き、ゾンデルの屋敷に入りました。それから、キーファーは見かけませんでした」


キーファーの件はアリサも疑いを持っているようだ…


「早速餌に食いついたという訳だ。隣町まで夜道を往復したのか、大変だったな」

「マスターがお気になさる必要はありません」

「いや、感謝するよ。ゆっくり休んでくれ」

「お気遣いありがとうございます」


「アリサー、お疲れだねー。それで、これからどうするの?」

「何もしないよ、ノア。ただ待つ」

「えー、なんでー」

ノアの疑問にトールが答える。

「騒ぐな、ノア。証人も証拠もねぇんだ。俺たちからは動けねぇ。だから相手の出方を待つ」

ソアが続ける。

「相手はわたしたちが証拠をつかんでいるかも知れないという不安があるはずです。必ず何かやって来ます」

「何かやって来たら、それでどうするのよ」

「わかりません。相手次第です…」

「まぁ、何かやって来たら臨機応変でってやつだ。こちらに切り札がねぇんだ。仕方がない」

「でも部屋にずっとこもってるってのは…退屈しちゃうよ」

「誰も部屋に閉じこもっているなんて言ってないよ」

僕が答える。

「とりあえず、僕はウェルナー氏の所に行ってゾンデルについて詳しい話を聞いてくるよ」

「あたしも行くー。ターニャちゃんに会いたい」

「俺はゾンベルグの町についてギルドで聞いてくることにしよう。ゴードとソアは一緒に来てくれ」

「私も主殿について行こう」


アリサは…言うまでも無いか…

先手を打って、アリサに言う。


「アリサは部屋にいてくれ。証拠を取り戻そうと部屋を荒らしに来るかもしれん。アリサなら寝ていても気がつくだろうから安心だ」

「おまかせください」


理由をこじつけてアリサには休んで貰うことにした。おそらく昨夜から寝ていないはずだ。



ノアたちと一緒にウェルナー氏の家を尋ねると、間が悪く、ウェルナー氏は行商の商材を仕入れで留守であった。代わりに出迎えてくれたのがターニャの母親のリーザさんだった。ウェルナー氏が話題にしていなかったので何となく察していたが、やはりターニャの父親は亡くなっていた。ターニャがまだ物心つかないときに病気で死んだという。リーザさんはウェルナー氏の実の娘で、旦那が死んでからは娘と一緒にウェルナー氏の所に身を寄せているのだという。ウェルナー氏の家は街中の一角にあり、リーザさんは服の直しなど裁縫の腕を活かして暮らしているそうだ。リーザさんはウェルナー氏から事情を聞かされていたが、山賊を退治したことなど、これまでの経緯をリーザさんに追加で説明した。その途中でノアが警告を発した。

「この家を見張っている人がいるかも」

「どうした」

「大勢の人が感知されるんだけど…」

「そりゃあ街中だからな、通行人やご近所の人でいっぱいだろう」

「そうなんだけど、近くにいて、さっきからずっと動かない奴がひとりいるんだよ」

「アリサがいれば…しかたがない。僕が周囲を探ってこよう。上空高くからなら気ずかれることもないだろう」

「表じゃなくて、家の中から見張ってたら」

「そのときはまた考えるさ。そいつは家のどっち側にいる?」

「南側だね」

僕は北側の窓の前に基準点を置き、さらに窓から顔を出して空を見ると上空にテレポートした。すぐに浮遊体勢に移り、ウェルナー氏の家の南側を探った。路地や建物の陰、通りの端など観察したがそれらしい人物は見つからない。仕方なくもとの部屋に転移する。

「見つからない。どうやら建物の中から見張っているようだ。上空からでは判らん」

「もういちど。今度はあたしも連れてって。位置が判るから」

「そうだな…」

僕はノアの手を取ると、再び上空にテレポートした。

「高い!怖いからしっかり抱いていてね」


十分近くにいれば、身体に触れている必要がないことは知っているはずなのに…

ノアのやつ…

まぁ、いいか


僕はノアを引き寄せてだっこをした。ノアは僕の首に両手を回す。前に一緒に偵察飛行をしたときと同じだ。


「さて、どこの建物にいるんだ」

もういちど南側の建物の上空までゆっくりと飛行した。

「あの、3階建ての家だよ」

「何階か判るか」

「ええと、離れてもいいから高度を落として…」

その建物から100メートルほど離れた場所に移動して、高度を下げた。あまり下げると周囲の人に見つかって騒ぎが起こるかも知れない。そうなると見張りに気づかれてしまう。

「たぶん、3階だね。高い位置にいる。どうする、やっつけちゃう?」

「捕まえてみるか…」

僕は再度ウェルナー氏の家に戻ると、エマに言った。

「ちょいと手伝ってくれ。見張っている奴を捕まえに行く」

「主殿の言うことならば喜んで」

「ノアはターニャちゃんを連れて入り口からちょっと姿を見せて注意を引いておいてくれ」

リーザさんが不安そうな顔をしたので、安心させる。

「外にはでません。入り口で姿を見せるだけ、ご心配は無用です」


ノアがターニャちゃんの手を引き、入り口の前に立って扉を開けた。そこでターニャちゃんと何か話し出した。その間に僕とエマは、北側の窓から外に出て、大回りをして見張りのいる建物の横の路地に行った。

「この建物の出入り口は表通りの扉だけだ。奴は3階にいるから窓から逃げるのは難しい。僕は中に入って奴を捕まえるから、エマはここから表の扉を見張ってくれ。万一奴が逃げ出してきたら捕まえてくれ」


エマを残して僕は建物の裏側を浮遊して調べる。残念ながら開いている窓は無かったが、屋根に明かり取りの窓があった。そこから除くと廊下の床が見える。視認できればテレポート可能だ。すぐに転移した。そこはちょうど見張りがいると思われる部屋の前であった。そっと鍵穴から覗くと、通りに面した窓の下に男がひとりうずくまり、窓から表を伺っている。おとりのノアたちに気を取られているようだ。手に小さな荷電粒子の塊を作り出し、男のすぐ後ろにテレポートした。男が僕の気配に気づいたときは手遅れで、僕の手の荷電粒子から流れた電流で身体を硬直させた。スタンガンだな。加減が判らなかったが、殺さずに済んだようだ。僕は窓から顔をだして叫んだ。

「うまくいったぞ」

気を失った男を担いで表通りにでる。もちろん重力をコントロールしたので男の体重はほとんどゼロだ。

「主殿は力持ちだな」

エマが合流し、僕が軽々と大きな男を担いでいるのを見て感心している。

「なに、ちょっとした手品だ。手をだして」

僕はエマの手を取ると、テレポートした。男を担いだまま100メートルほど上空に。


直接ウェルナー氏の家に転移したほうが早いけれど、ちょっとしたいたずらだ。テレポートの経験は何度かあるエマであったが、部屋に転移すると思っていたのだろう。予想したことだが、いきなり空中に出現したエマは、声こそ上げなかったが、とっさにしがみついてきた。エマの身体が僕に密着している。


ノアよりもずっと豊かな…

ソアにも負けていないな…


「どうだい、空を飛ぶ気持ちは。手を離しても落ちたりはしないよ」

すぐに平常心をとりもどした様子だったが、僕の身体に回した両腕を離すことはなかった。そのままウェルナー氏の部屋に転移。


しまった!

エマに抱き浮かれた僕をノアが見つめていた。


「あー、違うから、早まるな!ノアさん!」


あぶなく、また、火だるまになるところであった…


★★ 92話は1月24日00時に投稿


外伝を投稿中です

https://ncode.syosetu.com/n3559hz/

王女と皇女の旅  ~魔術師は魔法が使えない 外伝~

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