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90 魔術師、不安を感じる

山賊を殲滅した僕たちは総出で山賊の骸の始末を始めた。洞窟はつぶすつもりなので、亡骸はその中に放り込む。奥の方ではまだ燻っていて、煙が充満していた。


「わしは依頼人に討伐達成の証拠を持ち帰らなきゃならん。悪いがボスの死体は貰っていくぞ。こいつは賞金首だ。こいつの死体で討伐の証になるじゃろう」

キーファーがトールに言った。

「かまわんぞ、俺たちは依頼というほどじゃぁねぇ。ただ、山賊のお宝はもらえる訳だったが…みんな焼けちまってるよな…」


キーファーは、ばらばらになった小屋の跡から毛布だったぼろ切れと縄を拾ってきて、ボスの死体を包んで縛り上げた。

「わしはこいつを担いでいかにゃならん。悪いが先に帰らせてもらうが、いいか」

「いいぞ、ひとりで大丈夫か」

「この辺りには大した魔物もいないからな、大丈夫じゃ。それよりも後始末を任せちまって済まねぇな」

「気にするな、ギルドに戻ったら酒でも奢ってくれ」

「ありがてぇ、酒くらいいくらでも奢るぞ。それからミスターとやら、あんたとはギルドでゆっくり話がしたい。待ってるぞ」

ぼろ切れで包んだボスの身体をかつぐと、キーファーは森の中に消えていった。

「やったー、これで帰りはミスターのテレポートで楽ができるね」

ノアが嬉しそうに言ったが、すぐにまじめな表情になった。

「あの女の人の身内とか判らないかなぁ…」

「まだ燃えていて奥まで行けないからな…」

「水魔法とかで火を消して行けば」

「そうしても身体は焼けてしまって身元もわからないだろう。おまけに、いつどこで掠われてきたかも判らない。家族がいたとして、まだどこかで生きていると思われているほうがいいかもしれないな。彼女もこんな身の上を家族に知られたくはなかっただろう」


ばらばらになった小屋の残骸や山賊の死体をすべて洞窟に放り込むと、ノアを制して僕はプラズマ球を中に撃ち込んでいった。3発目で洞窟の天井が崩れた。その後は、ノアの土魔法で周辺の土を覆い被せて洞窟をすっかり覆ってしまう。すぐに草で覆われ、洞窟があったことも判らなくなるだろう。


「あー!証拠!」

ノアがふいに叫んだ。

「ああ、ゾンデルが山賊に関わっている証拠がないね」

「洞窟の中なら、あったのかな」

「今となってはどうしようもない。僕たちが証拠をつかめなかったことは奴には判らんから、はったりでなんとか尻尾を出させるしかないな」

「どうやって…」

「とりあえず僕たちが山賊の根城を壊滅したってことを吹聴して回れば、僕たちが何か証拠を握ったかも知れないと、奴の方が勝手に思い込んで何か仕掛けてくるんじゃないかな。そこにつけ込めば、なんとかなるかもしれない」


後始末に時間がかかったせいか、すっかり日暮れになってしまった。しかし、テレポートで帰るには好都合だ。キーファーより先に着くと疑念を持たれるかもしれない。山賊との戦いで見えない剣は使ってしまった。乱戦の最中でキーファーが気がつかなかった可能性もないわけじゃないけれど、期待はできない。出来るだけこちらの手は隠しておきたいのだ。僕はみんなに向かって叫んだ。


「僕の方に来てくれ。テレポートで町に戻ろう」


町から10分ほど離れた街道の脇の森の中に、皆を追って町に来たときに設置した基準点がある。全員あつまったところで、転移した。6人が一緒でも、転移だけならたいしたことはない。一瞬で転移は完了した。あとは街道に出て、何食わぬ顔で町に向かえば良い、



「俺はギルドに行って、報告してくる。ミスターは一緒に来てくれ。他の者は宿に行っててくれ」

「あたしも行くー」

ノアも付いてくる気だ。アリサは当然のように付いてくる。



ギルドに行くと、奥のテーブルにキーファーが1人で座っていた。僕たちは入り口を挟んで反対側の奥のテーブルに席を取った。トールは席に着かず、受付に向かった。


「山賊を討伐したので報告したい」

わざとなのか、ギルド内の全員に聞こえるような声でトールが話をする。

「あちらのキーファーさんからも、先ほど討伐したとの報告がありましたが…」

「ああ、一緒にやったんだ。依頼主は別で、それぞれ別の依頼として報酬が設定されているはずだ。俺たちの依頼主はウェルナーという爺さんだ」

「ウェルナーさんの依頼の方ですね。こちらは報告だけで達成扱いです。それでは報酬は…あれ、銅貨1枚…え?」

「それでいいんだ。そのかわり山賊のお宝はこっちで貰っていいという条件だからな」

「は、はい。それでは銅貨1枚。こちらになります」

「残念なことにお宝の方は洞窟の中で焼けちまって何も持ち帰れなかった」

「キーファーさんからも、そのように伺っています」

「いちおう依頼主に見せようと、山賊たちの死体や小屋の残骸を漁って、手紙やら書き付けやらは残らず持ってきている。まだ見てはいないが、山賊の仲間のことが判るかも知れん」

「それもギルドに提出して頂きたいのですが…」

「まずは依頼主に見せて、許可が出たら持ってきて提出するよ。何かいいネタが出るといいんだがな…」

余りにわざとらしいので、はったりだとばれやしないかと思っていると、ノアが脚をちょんと蹴ってきた。なにごとかと思って振り向くと、ノアが視線で入り口の方を示す。


先ほどまで入り口の脇のテーブルにいた男の姿がない。

「トールの話を聞いて、あたふたと出て言ったよ」

ノアが小声で言うのを聞いて、僕はアリサに指示を出した。

「アリサ、すまんが跡をつけてくれ。行き先だけ判ればいい」

そっと出て行くアリサを見てノアがつぶやいた。

「あの格好で良く尾行とか出来るよね…。あんなに目立っているのに」


言われてみれば…こんどアリサに聞いてみよう。どうなっているのか…



先ほどから無視をしていたキーファーの視線がきつくなってきた。しかたがない、話でもしてくるか。

「すまん、ちょいとキーファーと話をしてくる。ちょいと待っててくれ、長くなるようなら先に宿に行ってくれ」

そう言って、キーファーの座っているテーブルに向かった。後ろからノアが付いて来ている。言っても聞くまい。好きにさせるか。そう思っていたら、エマまで席を立ってこちらに向かってくる。まぁ、仕方が無いか…


キーファーの所まで行くと、後ろの2人を見てキーファーが言った。

「魔術師の嬢ちゃんに氷のエマも一緒か…。まぁ、いい。座ってくれ」

キーファーの正面に座ると、ノアが僕の右隣に座る。エマは僕の左後ろで立ったままだ。

「氷のエマまで相手にするのは、ちょいときついか」

キーファーのつぶやきに

「戦わなければ問題ないぞ」

と答えた。キーファーは僕の言葉を無視して続ける。

「見たぞ。その剣で山賊を相手の剣ごと一太刀で切り裂いたところを。最初はあんたの剣の方が折られたと思ったのだがな。なんだ、その剣は?」

「自分の切り札を解説して回る馬鹿な冒険者がいると思うのか」

「そりゃぁ、そうだな。馬鹿な質問だった」

「僕は剣の腕はからきしだからな、武器の性能に頼るしかないのさ。知られてしまっては、もうあんたには通用しないだろ。違うか?」

「武器防具も実力のうち…エンダーが言ってたな」

「僕の剣を見せようか?」

キーファーが戦うのを諦めてくれればと思って言ってみた。

「そいつは有り難い。是非見せてくれ」

そう言って立ち上がると、受付に向かって言った。

「裏口はあるかい、受付のねえさん」

受付の女性がカウンター横の扉を指さした。

「表で見せてもらおうか」

僕の返事も聞かず、キーファーは裏口に向かった。

「なんのつもりだ、主殿。剣を渡したところで仕掛けられたらどうするのだ」

「そのときはエマが頼りかな」

「…もちろん主殿に指一本触れさせるものではない」

少しの間をおいてエマが答えた。

「ならば問題ないな」

僕は立ち上がって、キーファーの後を追った。

「あたしだって…」

ノアが続き、その後をエマもついてきた。


ギルドの建物はどの町でも同じような造りだ。周りの建物からは路地で分離されている。裏口から出ると、めったに人が通らないような路地にでた。キーファーがこちらを向いて待っていたので、僕は腰の剣をキーファーに鞘ごと差し出した。

「拝見する」

剣を受け取ると、僕の剣を抜いた。

「雑な剣だ。妙に軽い…」

僕はダガーを取り出すとキーファーに向かって放った。キーファーが僕の剣でダガーを弾いた。しかし、剣はあっさりと砕け、はね飛ばされたダガーは二つに切断されていた。

「驚いたな、なんだこれは」

キーファーが柄だけになった剣を見て、左手を見えない剣に向かって伸ばそうとした。

「あぶないぞ、止めておくんだ。指が落ちるぞ」

僕の言葉に手を止めた。

「そのまま剣があると思って振って見ろ」

そういってもう一度ダガーを放る。

キーファーが柄だけの剣でぎこちなくダガーを払う。音もなく、ダガーは二つに切断され、足下に落ちた。

「鉄の剣は偽装だ。鞘みたいなもんだ。今あんたが持っているのはその中身。見えないほど細い剣だ。見えないほど細いが何でも斬れるぞ。今目にした通りだ。初見の一撃を避けられる奴は少ない。あんたなら問題なく避けるとは思うが」

「驚いた。見えないが…剣があるのか。見えないほど細い…それでどうして斬れる…」

「見えないほど細い糸のような剣だ。僕の剣の腕じゃぁ、相手の意表を突かないと通用しないからな」

「すごい剣だ。謙遜することはない、これを持っていることも実力のうちだ」

ノアが言う。

「早く返して!」

「嬢ちゃんが心配しているぞ、いい嬢ちゃんだな。わしがこれを返さないと心配しているのか」

エマが無言で背中の槍を取り出して構えた。

「心配しなくとも良いぞ、嬢ちゃん。わしも勝つためには卑怯なこともいとわんが、相手にもよるんだ」

そう言うと、見えない剣と鞘を足下に置いて、後ろに下がった。僕はキーファーから目をそらさないようにして、ゆっくりと剣と鞘を拾い、錬金術もどきで鞘代わりの鉄剣を再生し鞘に戻した。


「驚かされることばかりだな、それは錬金術か。おとぎ話の世界だな」

「他言無用で頼む」

「言っても誰も信じないさ。エマもこれを見せられたのか」

「違う。こんなことで自分の人生を捧げたりはしない」

「男のわしには判らんことか…」

ノアとエマを交互に見てキーファーが言う。


エマのときのことを思い出すとかなり恥ずかしい…


「で、どうするんだ」

「果たし合いはやめておこう。エマが同時に相手では勝ち目がない。あのアリサとやらを同時に相手にしたエンダーは凄いな。勝つ自信があったのか…。わしも、まだまだだな。次に会うときは…」

そう言ってキーファーは去って行った。



残された僕たちはギルドに戻った。

口には出さなかったが、ふと、不安がひとつ頭をよぎった。


キーファーの依頼人はゾンデルだったのではないかと…

山賊の討伐は証人を消すつもりだったのではないかと…



★★ 91話は1月22日00時に投稿


外伝を投稿中です

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