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89 魔術師、山賊を殲滅する

槍のキーファーが一緒に行くことになって、せっかく山賊の根城近くに基準点を設けたのに使えなくなってしまった。戦いを挑まれる可能性がある以上、こちらの手を明かすことは出来ない。そのため、翌朝暗いうちからの出発となった。ノアが不満そうであるが、さすがにテレポートのことは口にしていない。


街道の途中から山越えの道に入り、さらに森の中を進む。森に入ってからは僕がひとりで100mほど先行し、熱源感知で敵を探りながら進んだ。山賊の見張りがいるかも知れないからだ。僕ならば敵の魔力感知に引っかからずに済む。ノアの魔力感知では、感知されたことが相手にも判ってしまうので、奇襲には使いにくい。残念王女が魔力感知遮断の魔道具でも発明してくれると良いのだが…。


幸いにも、山賊の見張りなどに出くわすことなく、根城から100mほどの所までやって来た。ノアの魔力感知の射程が100mだ。この距離なら山賊に感知されることもないだろう。


以前に、ノアが魔法の射程について話てくれたことによれば、魔力感知の射程は魔力量には依存せず、どの魔術師も同じくらいだと言っていた。今となって見れば、ノアの謙遜だったと判る。確かに、感知の射程は魔力量に寄らないが、魔術師の技量に若干の影響を受けるようだ。ノアの火力感知の射程は1. 2割くらいだが平均的な魔術師よりも長い。ノアよりも優秀な魔術師が山賊の仲間にいるとは思えない。つまり、この位置なら山賊に感知されないということだ。


「どうする、ミスター。ここから魔法で殲滅する?」

ノアが聞いてくる。それが出来れば楽なのだが…

「話さなかったかな、捕らわれているらしい女性がいるんだ。彼女もろともという訳にはいかないだろう」

「その女は人質か?奴隷に売ろうと捕らえているのか、山賊は」

「そうは思えないな、キーファー。飯を作らせたり洗濯させたりと、山賊たちの世話をさせているようだ。暴力も受けているようで、様子はひどい有様だ…」

「身の回りの世話…夜の相手もか…」

キーファーがつぶやく。

「かまわず魔法で殲滅したらどうだ?その女もそれを望むのじゃないか」

「そうはいかん。身内だって探しているかも知れん」


洞窟の前の広場の小屋からは、ときどき男が出入りしているが、彼女の姿は見えない。このまま正面から戦いを挑むか?


戦力的には問題ないと思う。問題は彼女を盾にされたときだ。そのときは…仕方が無い、キーファーにテレポートを見せてしまうが、僕がテレポートで彼女を救い出すことにしよう。盾として連れてきてもらえれば、隙を突いて奪い返せるだろう。


「ここで待っていても仕方がない。正面から行こう」

「俺とゴード、それにミスターが正面から行く。ノアとソアは俺たちの後ろに。エマは左、キーファーさんは右を頼む。ひとりも逃がさないように、囲んで行くぞ。アリサは少し離れていて、万一、逃げ出したやつがいたら始末してくれ」

それぞれ武器を手に、山賊の根城に向かって進み出した。


すぐに山賊の魔術師の感知範囲にはいった。

「感知された」

ノアが言う。

「急ぐぞ」

トールが走り出し、遅れじと僕たちも続いた。森から洞窟前の広場に出ると、何人かの山賊が武器を構えてこちらに向かってきた。

「ノア、魔術師を頼む。吹き飛ばしてやれ!」

山賊は誰も同じような格好で、魔術師かどうかわかりにくいが、前の方に出てこず、剣も抜いていない奴がいれば、魔術師なのだろう。ノアがそいつらに向かって火球を飛ばし始めた。


爆発で何人かの魔術師らしい山賊が吹き飛ぶ。ノアの次の魔法発動の隙を狙って、相手も火球を飛ばそうとする。狙いはノアだ。しかし、火球を放つ前にソアの矢がその魔術師を倒した。


僕たちはノアの前で、山賊と剣を交えている。前に出てきた山賊は、意外に剣の腕が確かで、トールも一撃でというわけにいかず、切り結んでいる。剣の構えから僕を与しやすいと見た男が向かってきた。安物の鉄剣に偽装した見えない剣を振りかぶり、男に向かって振り下ろす。その素人まるだしの振りに、避けるまでもないと考えたのであろう。僕の剣をはじき飛ばし、返す剣で両断、勝利を確信した相手の顔が驚愕の表情に変わる。相手の剣に弾かれた僕の鉄剣は、いくつかの破片に砕け散ったが、その中に仕込まれた見えない剣は、相手の剣を抵抗もなく切断し、男を袈裟義理にした。


相変わらずの初見殺しである。


左右の山賊もエマとキーファーの槍に次々と倒されている。魔術師を倒し終わったノアが小屋に向かって火球を飛ばし始めた。粉々に吹き飛ぶ小屋の破片と一緒に山賊も吹き飛んでいる。ばらばらに…


洞窟の外での戦闘が終わろうとするころ、洞窟の中から女を連れた男が姿を現した。

「てめぇら、戦いを止めろ!この女がどうなってもいいのか」

後ろから首を腕で絞めながら、男が叫んだ。女の表情は生気が無く、恐怖すら見せていない。


生き残った山賊たちは、その男の周りに集まる。僕たちは戦いを止め、山賊たちと洞窟の前で対峙した。


山賊のボスなのであろう。女を人質に取った男が僕たちに言った。

「抵抗を止めて、俺たちに黙って殺されろとはいわねぇ。俺たちを見逃して、黙って帰ってくれれば言い。俺たちはここから出て行く。二度と戻らねぇ。これで手を打たねぇか。そうすりゃ女は殺さねぇ。なんなら自由にしてやってもいい」


キーファーが聞く耳貸さずといった風で、槍を構えて前に出ようとしたが、トールがそれを止めた。僕はテレポートで女を救出すべく、隙を作る手段を考えていた。一瞬でいいのだ。何か隙を…


そのとき、女の顔に表情が戻った。笑い顔とも泣き顔とも判らない複雑な表情だ。キーファーの動きに気をとられたのか、男も油断したのであろう。その隙でテレポートと思ったのと同時に、女が男を振り払い、洞窟に向かって掛けだした。


女を追って、数人の山賊が洞窟の中に入っていった。

「いまだ!」

トールが叫んで外に残された山賊たちに襲いかかる。再び剣を交え始めたとき、洞窟内から鈍い爆音がして、黒い煙が吹き出てきた。煙の中に、オレンジ色の炎が見えている。


「おかしら!あいつが油に火を…」

黒く煤けた男がひとり、洞窟から出てきた。その男に続き、全身火に包まれた男がよろめきながら出てきて、その場に倒れた。


ノアが火球をむちゃくちゃに飛ばし始めた。残った山賊たちはたちまちのうちに討伐された。


すべての山賊が倒れ、静かになった洞窟の入り口にノアが近づいていく。熱気で立ち止まる。

「あの人が…」

「生きていく気力も残されていなかったのだろう…キーファーの言った通りだったな」


洞窟から吹き出ている黒い煙を見ながら、僕は立ち続けていた。



★★ 90話は1月20日00時に投稿


外伝を投稿中です

https://ncode.syosetu.com/n3559hz/

王女と皇女の旅  ~魔術師は魔法が使えない 外伝~

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