85 魔術師、依頼を受ける
「わしは、この山の向こうのソリトという町に、娘とその子、孫のターニャと3人で暮らしております。町と言っても、みな農業と山仕事で暮らしている小さな町ですじゃ。わしは毎週、隣町のゾンベルグの朝市で商いをするために出かけますじゃ。何時もはひとりで出かけるのじゃが、時々は孫にねだられて、今朝のように一緒にゾンベルグの町に連れて行きますじゃ」
ウェルナー氏が話しをつづける。
「今朝も日の出前から街道を通ってゾンベルグの町に行き、朝市で商いをはじめたのじゃ」
「お孫さんはお手伝いですか?」
ソアが訪ねると、ウェルナー氏は首を振った。
「いや、売り物を並べて置くだけでな、手伝うほどのことはないのじゃ。わしが商っている間は、朝市の他の店を見て回るのが何時ものことですじゃ。ソリトの町には店ひとつないのでな、珍しいのじゃろ。朝市が開かれる場所は治安も良くて、不良どもに孫が何かされる心配も無く、いつも通り無事に朝市が終わったのじゃが、今朝はそこで災難が…いや、問題が起こったのじゃ」
ここでウェルナー氏は、少しの間、孫娘の方を見て、言葉をつづけた。
商いを仕舞いにして帰り支度をしているところに、ターニャを連れた見知らぬ男がやって来たという。ターニャが誤ってその男にぶつかり、朝市の骨董屋で購った壺を割ってしまったという。男はゾンベルグの町の評議員でゾンデルと名乗った。この町の町長の息子だった。壺はそれほど高価な物ではなく、ウェルナー氏のその日の商いの稼ぎをはき出せば弁償できる金額であったという。
「わしは弁償を申し出て許しを請うたのじゃが、ゾンデルは購った金額の弁償では済まないと言うのじゃ。骨董屋の品物じゃから代金を弁償されても同じ物は購えんというのじゃ」
「そんなこと言っても、ないものはしょーがないじゃん。どうしろっていうのよ」
ノアの言葉に、
「弁償の代わりに、孫のターニャを自分のところの使用人として奉公にだせと言うのじゃ」
「そのゾンデルという方は、何かご商売をなさっているのでしょうか」
ソアが聞く。
「親の財産で暮らしているだけじゃ。商売なんぞ何もしとらん」
「仕事もしていないのに、使用人って…」
「話し合いでなんとかしようと思ったのじゃが、ゾンベルグはやつの地元じゃ。好きなようにされちまう。その場しのぎで、奉公に出すにしてもターニャの母親と相談してからと言うと、3日の猶予をくれるというのじゃ。相談と言っても出来ることはありゃあせんがな」
「何とかならんかと、町のギルドに相談して、弁償する金額に色をつけることで納得してもらえんか、ギルドから持ちかけてくれるというのでな、ギルドに泊めて貰って相手の返事を待ったのじゃ」
「それで返事は?」
「夜遅くになって、10倍の金額ならば弁償を受けるとのことじゃった。3日以内に用意できなければ孫を奉公にださにゃあならん。娘もわしらが昨日のうちに戻らんので心配をしているだろうし、金の工面に時間も必要じゃ。最悪、工面できないときは、母親も連れてよその町に逃げようと思ってソリトの町に急いで帰る途中という訳じゃ。ブラッドは、たまたまその場で話を聞いていて、ソリトの町に急ぐなら自分を護衛に雇って山越えで帰れば早く着くと言ってな、格安で引き受けてくれたのじゃ」
「そのくらいの金額なら、わたしたちで用立ててもいいのでは」
「ソアの言うように用立てたとしても、それで終わりにはならないだろうね」
僕がそう言うと、ノアも言う。
「ゾンデルってやつが、山賊の一味と通じているんじゃぁないかな。逃げようって気配を察して、逃げられないように途中で拉致するためにブラッドに声をかけさせたんじゃぁないかな」
「決めつけるのはよくありませんよ、ノア」
僕はウェルナー氏に尋ねる。
「ゾンデルって人の評判は聞いている?」
「あまりよろしくないですじゃ。話では商売もしとらんし、それほど大きな屋敷でもないのに、大勢の使用人を雇っているらしいですじゃ。それも子どものような若い娘ばかり。おまけに使用人が外出しているのを見た人はいないとか…」
「町長はその息子のゾンデルの評判を聞いているのでしょうか」
「評議員の何人かが町長に話をしたらしいのじゃが…」
「なかなか面倒な様子だな…」
話をじっと聞いていたトールが口を開いた。
「とりあず2人をソリトの町まで送りとどけて、俺たちがどうするか決めよう。山賊連中も一度で諦めたりはしねえだろう。町に着いても安心とは限らねぇ。ウェルナーさん、ソリトの町にギルドの支所はあるかい?」
「いちおう、町長がギルドの長を兼ねていますじゃ」
「そいつは信用出来るやつか?」
「わしの幼なじみで親友じゃ、信用せんでどうする」
「そういうことなら、送り届けたあと、山賊の討伐をギルドの依頼として俺たちを指名してもらうってのはどうだ」
「わしらの町は貧乏でな、そんな依頼料はだせんぞ」
「なに、銅貨1枚でもいいさ。その代わりに山賊がため込んでいる物があれば俺たちの物にしていいってことにしてくれればいいし、山賊の中に賞金首もいるかも知れん。どうだ、みんな」
「いいね、ついでに山賊と通じているっていう証拠でも出ればゾンデルってやつもやっつけられるじゃん」
「それじゃ、この後の町までの護衛はみんなに任せて、山賊のアジトを偵察するよ。僕なら敵に魔力感知されないから気がつかれない。僕も敵を魔力で感知することはできないけど、熱源の感知はできるから山賊を見つけることは出来ると思う」
「そうだな、お願いしよう」
トールが言うと、
「見つけても、ひとりでやっつけちゃわないでねー」とノア。
「無理をなさらずに、安全第一で」とソア。
「…」とゴード。
「護衛の方はお任せください」とアリサ。
「山賊など寄せ付けないゆえ、心配無用」とエマ。
僕は上空にテレポートすると、山頂に飛行して山裾に向かってらせん状にスキャンし始めた。
★★ 86話は1月12日00時に投稿
外伝を投稿中です
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王女と皇女の旅 ~魔術師は魔法が使えない 外伝~




