81 魔術師、再び冒険に
皇帝との和平交渉を無事に済ませて、荒れ地の屋敷に戻ってきた。留守の間に王国からの使者がやって来ていて、屋敷に泊めているとテイラーから報告を受けた。早速、使者と会って話を聞いた。
王国も帝国同様に、僕たちの建国を承認するとのことだ。王から貰った王都の屋敷は没収されていたが、もちろん返して貰い、帝都にもらう予定の屋敷同様に、敷地内の治外法権を認めさせた。賠償金はなしだ。その代わりにテイラーさんとオルガさんの名誉および王国での地位の回復をしてもらった。居城のことを2通の書面にまとめて僕が署名をし、使者に託した。14日後、その書状に王が署名をしたものを持って使者がやって来た。これで王国との友好が結ばれたことになる。今後、僕たちの国がある限る、両国間に戦争は起こらないだろう。王国、帝国、双方に兵に大きな損害はでたけれど、両国の民が苦しむ戦争を避けることが出来た。王女の計画通りである。
王国の使者を待つ間に、帝国の魔道具も届けられた。早速、王女が解析を始め、なんと、10日もしないうちに、二つの魔道具を個人がポケットに入れて持ち運べるほどの小型化に成功した。さすがは残念王女、いや天才王女である。
「どうだい、ミスター。ボクの才能を見直しただろう」
「まったくだ。性能の方はどうなってるんだ」
「さすがに馬車に積む大型のものと比べるわけにはいかないよ。防御の方は人ひとりを囲む範囲がせいぜいだ。しかし、ノア君の本気の魔法でも防御できる。さすがに都を消し飛ばすほどの極大魔法には耐えられないとは思うけどね」
「もう一つの魔法の阻害は?」
「こちらは褒めて貰いたいね。半径50メートル以内の全ての魔法の発動を阻害する。ただし、魔物の魔法にも効果があるのかは実験してみないと分からない。干渉魔法の麻痺と似たような原理で、広範囲に効果を及ぼすようになっている」
「もう少し効果範囲が広ければ申し分ないが…それで、効果が聞いている時間はどのくらいなんだ」
「所持者の魔力量に依存するね。ノア君クラスなら半日はいけると思う、普通の魔術師だと30分がやっとかな」
「量産できるのか?」
「さすがに無理だね。例の曲玉の材料となる飛竜の魔力臓器の化石、あれが必要だ。曲玉でもいい。ソアさんが持っていた曲玉を貰って、3つだけ作ることが出来た」
「そうか、それじゃぁ、エイダとクレア、そしてノアの三人に持って貰うことにしようか」
「ボクとしては3つめはオルガに与えたいのだけど、ひとつお願いを聞いてくれたらノア君のものにして良いよ」
「願いというのは」
「ミスターの持っている見えない剣、あれをボクとクレアにも作ってくれないか」
「まぁいいか…、すぐに作ろう」
「じゃぁ、これをノア君に渡してくれ給え」
そういって、ピンポン球サイズの黒い球体をひとつボクによこした。
「これひとつで、魔法の防御と発動阻害の効果を発揮させることが出来る。ノア君には後で使い方を説明しておくよ。ノア君ならすぐに使いこなせるようになるさ」
「材料さえあれば、ソアやアリサ、エマの分も作ってもらえるか?」
「作れるけど、魔力が十分にないと使えないからね。優秀な魔術師以外が持っていても意味は無いよ。ソアさんでも微妙なところだね」
帝国からもらった現物ひとつだけで、ここまでのものを作れたのは天才としか言いようがない。恐ろしい14歳だ。
ところで、ちょうど周囲には誰もいなくて、僕と王女の二人だけだ。確かめて起きたいことがあった。
「二人だけでちょうどいい。確かめたいことがある」
「ふたりだけで確かめたいことかい、ここじゃなくてミスターか僕の寝室に行った方が良くないかな」
「変なことを考えるな、そうじゃない」
「なんだ、残念。では何を確かめたいのかな」
「君が愛しているのは僕じゃぁない」
「愛は育てるものだと言ったと思うが…」
「君にはもう愛している者がいるだろう」
「誰のことかな…」
「君はクレアを愛しているのさ、間違いない」
「ボクもクレアも女だよ」
「女同士でもおかしくはないだろう、この世界ではまだ認められていないかも知れないけどね」
「この世界って…まるでミスターは別の世界から来たみたいに言うね」
「クレアの方はどうなんだ」
「クレアはミスターを…」
「誤魔化さなくてもいいぞ、クレアが愛しているのは君だ、僕じゃぁない、今のところは…」
「言葉の終わりに君の願望が出てしまっているね。安心していいよ、ボクもクレアもいずれ君を愛するようになるから」
「君の言うとおり、ボクとクレアは愛し合っているよ、もう1年以上前からだ。この荒れ地で魔法の共同研究を始めたのがきっかけさ」
「君とクレアがいくら愛し合っていても、王や皇帝が許すはずがない。それどころか認めることさえ考えられない。そこに僕が現れたってことか。王から僕に嫁げと言われて、今度の計画を思いついたって訳か。クレアも共犯か」
「クレアは関係ない。ボクの計画だよ。もっとも、うすうすは察していたかも知れないけれどね」
「ヘタをすれば両国の全面戦争だったぞ。僕の仲間だって無事で済んだか分からない」
「巻き込んでしまってすまないと思っているよ。でも成功には自信が、いや確信があった。そしてちゃんと成功しただろ」
「僕も女同士の関係なんか認めないという可能性は考えなかったのか」
「その場合でも、クレアの意思に反してボクと無理矢理引き離すなんて出来ないだろう、君には」
「そうだね…」
「がっかりしたかい、ボクとクレアを離縁するかい?」
「いいや、離縁はしないよ。帝国一の美少女に王国一の知恵者だ。これ以上頼りになる仲間はいないからね」
「そこは王国一可憐と言って欲しかったね、それと仲間じゃなくて愛する伴侶とね」
「ノアたちには黙っておくことにしよう。君もクレアも黙っていろよ」
「ミスターが望むなら黙っておくよ」
「それじゃ、話は終わりだ。これから僕の寝室に誘ったら来るかい」
「君はそんなことはしないさ、まだしばらくはね」
「僕の性癖じゃなかったのかい」
「性癖もあるけど…重要なのは君の人間性、それにノア君の存在だよ。ノア君より先にボクやクレアを誘うなんて、あり得ないだろう。君がどれほどクレアに恋していてもね」
「そうだな…」
今回の問題も、何とか無事に落着したようだ。もう少しここで様子を見てから、もとの冒険者家業にもどろうと思う。トールたちも賛成してくれるだろう。この領地は残念王女の英知とクレアの実力に任せれば心配ない。あのガーベラもいる。ここを出たら、今度は帝国を回ってみるのも良いかな。帰ろうと思えばいつでもここには戻って来られる。王女が言うように、二人が僕を愛するようになったその時は…
二ヶ月の後、僕はトールのパーティーと一緒に、この地を去って帝国に向かった。
★★ 82話は年明けになります。1月4日00時に投稿予定
★★ 本篇の外伝
https://ncode.syosetu.com/n3559hz/
「王女と皇女の旅」
の投稿を始めました。
こちらは不定期に、しかしあまり間隔を開けずに投稿の予定です




