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77 魔術師、アリサを連れ戻す

荒れ地に横たわった亡骸の後始末を終えて、アリサを迎えに王都のギルドに向かった。市民エリアと違って、この時刻では中央区に人通りはいない。それにも関わらず街に緊張感が漂っている。ただごとではない雰囲気だ。幸い誰にも見られることなく、ギルドまでいくことが出来た。アリサは奥のテーブル席に座わり、入り口に立つ僕を見かけると席を立った。ギルドから出ると、後ろからアリサが近づいてきた。

「お手間をおかけして申し訳ありません」

「人に見られたくないので、すぐにもどるぞ」

そう言って、周囲に人がいないことを確認し、アリサと一緒にテレポートで荒れ地の屋敷に戻った。


僕は居間の椅子に座り、アリサの報告を聞くことにした。

「アリサが留守の間に王国軍と帝国軍との戦闘があった。王国軍は退却させ、帝国軍は殲滅した。その間に王都で何をやっていたのか聞かせてくれないかな」

「マスターの緊急時に勝手な行動をとり、申し訳ありませんでした」

「それは問題ない。正規軍相手の戦闘はアリサの得意とするろころではないからね。それよりも報告だ」

「はい。王国では13の有力な貴族家で王を補佐する貴族院を構成しています。そのうち、帝国に対して強硬派が6家、穏健派が4家、中立は3家となっています。このたびのマスターの建国宣言に対処するため、現在、これら貴族家の当主が王都の屋敷に逗留しています。ただ、強硬派のひとりが病気とのことで領地に留まっているので、王都にいる強硬派の当主は5人でした」

「でした…?」

「はい、5人ともこの二日間で亡くなられています。あとを継ぐ当主6人は強硬派は4人、穏健派と中立派がひとりずつです」

「つまり、貴族院で穏健派の方が多数になったということか…」

「はい」

「中立派が強硬派に付くことは?」

「それはないかと思います。むしろ心情的には穏健派に近いかと。新しい当主たちの家督相続の手続きが終わり次第、貴族院が開かれ、新しい方針が決まるはずです」

「穏健派が多数と言うことは、ボクたちの主張が認められると言うことか…」

「まず間違いなく」


強硬派ばかり6人が死ぬのは偶然ではありえないことだ…

つまり、これはアリサが…


「当主たちの死因は?」

「わたくしが出来ることを成しただけです」

「ずいぶんと無茶なことをしたな。護衛や警備の兵もいたろうに」

「それも仕事の内です」

「そうか…助かったよ、ありがとう。ゆっくりと…」


ゆっくり休めと言いかけたところで、目の前のアリサが崩れ落ちるように倒れた。驚いて人を呼ぶ。真っ先にソアとエマが駆けつけてきた。倒れているアリサに駆け寄ると、ソアが言った。

「エマさん、すぐにアリサを部屋に運んでください。ミスターはオルガさんを呼んできてください」


エマがアリサを抱きかかえ、部屋のベッドに横に寝かす。ソアがアリサのメイド服を脱がし始めた。

「オルガさんを呼んでくる」

僕は慌てて部屋を出て、オルガさんを探しに行った。



オルガさんを連れて戻ると、ベッドの上に裸のアリサが寝かされていて、ソアが回復魔法をかけていた。

「オルガさん、回復をお願いします。軽い傷はすべて直しましたが、この腹部の傷は深く、わたしの魔法では治療できません」

アリサの腹部に大きな傷が見え、出血の跡がある。一糸まとわぬアリサから目をそらすと、ソアが僕に向かって言った。

「ミスター、アリサから目をそらさないでください。わたしの回復ではアリサさんを助けることはできません。オルガさんがいなければアリサは命を落とすところです。アリサに何をさせたのですか」


言葉が出るまで、少しの時間が必要だった…


「さっき報告されるまでアリサが何をしに王都に行ったのか知らなかった…。何をするつもりだったのか、今にして思えば分かったはずだった。分かるべきだった…」

「何をしたのですか」

「僕たちに兵を差し向けた強硬派の貴族家当主5人を暗殺してきたんだ…」

「暗殺…」

「そのおかげで、強硬派の当主が代替わりをし、穏健派が貴族院で多数派になった」

「つまり、王国はミスターの建国を認めるということですか」

「アリサによれば、そうなるだろうとのことだ」

「この傷は…」

「おそらく護衛と戦いになったのだろう。詳しい事は聞いていない」

「無茶なことを…」


騒ぎを聞きつけたノアが部屋にやって来た。いつもなら裸のアリサを見ている僕を放っておくはずがないノアも、アリサの様子と部屋にただよう緊張感のためか、何も言わない。


ソアから治療を引き継いだオルガさんが言う。

「まったく無茶ですね。死んでいても不思議ではない傷です」

「助かるのか?」

「大丈夫、助かります。しばらくは寝ている必要はあるでしょうが」

「そうか、ソアにオルガさん、アリサを頼む…」

そう言って、僕は居間に戻り、腰を下ろすと目をつむった。


「アリサはどうしたの…」

僕について居間にやって来たノアが聞いてくる。

「僕たちに敵対する強硬派の貴族を暗殺してきたんだ…」

「ミスターが頼んだの?」

「いや、アリサがひとりで…」


アリサが自分から…

そうじゃない、僕がやらせたも同然だ。

僕はまた、失敗してしまった…

前にノアを失いかけた時に決意したはずなのに…

もう遠慮はしないと。

それなのに、アリサでまた…


王女の計画を聞いたとき、その計画に乗って穏便にことをすまそうと考えてしまった。

ここに立てこもって交渉などせず、僕が城で王に直接迫れば良かったのだ。要求をのまなければ王都を消し飛ばすと言って…

王城を更地にして見せれば否応もなかったはずだ。

こんなことでは、いつか本当に誰かを失うことになる…


黙り込んだ僕の隣にノアが座わり、僕の頭を抱きかかえた。そのまま長いこと、ノアは僕を離さなかった。そのままの姿勢で二人並んでじっと座っている。


翌朝になるまで、居間に来る者は誰もいなかった…



★★ 78話は12月18日00時に投稿

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