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73 魔術師、国の形を示す

なんとか無事に荒れ地にある王女の屋敷に全員を連れてくることが出来た。もう後戻りは出来ない。僕たちは居間に集まってあたらしく作る国について話をしていた。


「ねぇ、王様はもちろんミスターだよねー」

ノアの言葉にエイダが答える。

「中立という前提ですから、ボクやクレアじゃまずいだろうね」

クレアは王には反対のようだ。

「王ではなく皇帝で…」


まぁ、人口13人で領民はゼロだからね、王でも皇帝でも名前だけだ。でも、ここはちょっと譲れない。


以前、誘拐犯として討伐した青年と冒険者を思い出した。ママゴトみたいなレベルで済まないけれど、君たちが命をかけた理想を実現してみようか…


「この国は共和国にする」

「キョウワコク?」

「王も皇帝もいない、もちろん貴族もいない、みんなが平等の国だ」

「それでは国の政はどうするのですか?」

「みんなで話し合って決める。みんなといってもここにいる13人しかいないけどね」

「では、王国や帝国に対するときの代表者はなんと称するのでしょうか」

「ちょっとこそばゆいけれど、僕が大統領になろう」

「ダイトウリョウって?」

「一番の親分ってことかな。ほんとうはお互いで選んで、選ばれた人がなるのだが…当面は僕がやるしかないだろうね。そのうち国として安定したら、みんなで交代でやることにしようか」

「あたしは遠慮したいなー、めんどくさそう」

王女が

「なに、すぐに人は増えるさ」

というと、テイラーさんが

「領民がやってくる可能性はありませんよ。この荒れ地では作物はつくれませんし、家畜も飼えません」

「やってこなくても、自然に増えるさ」

そういってオルガの方を見る。オルガさんが目を伏せた。

「君とオルガがいるからね。それに落ち着けばミスターの子がたくさん…」

「あー、王国と帝国の出方によっては戦いになるかもしれない。一応、屋敷の防備を固めておこうじゃないか」

王女の言葉をあわてて遮り、話題を変えた。


ノアやアリサだってギリギリなのに、王女が相手では犯罪だ。僕の倫理観がそう言っている。でもソアやエマだったら…そして、クレアだったら…

本物の魔法使いになれなくなりそうだ…


しかし、残念王女は本当に14なのか。

とても14の女子が言うことじゃないぞ。

おまけに見かけは12くらいにしか見えない。

くそー、可愛いなぁ…



「ところで…」

トールが口をはさんだ。

「俺たちはどうとでもなるが、姫さんたちの食事とか身の回りの世話、屋敷の掃除とかの雑用はどうするんだ?」

「ボクの世話か…」

「当面はともかく、建国がうまくいって僕たちが冒険者の活動でここを留守にすると、屋敷に残るのは…クレアさんとクレアの従者、テイラーさん、オルガさん、ガーベラさん、そしてエイダ様の6人か…」

「城に残っているボクのメイドたちを引き抜こう。辺境だが給金を倍にすれば喜んでくると思うぞ」

「王国のお城勤めを辞めてまで来てくれるかな?」

「まちがいなく来るね。なにしろ主である王女のボクを箒の柄でひっぱたくようなメイドだちだ。ボク以外の貴族に仕えるなんてことは出来やしないよ」

「それは…エイダ様がおかしい…でも、それなら大丈夫そうだね」

「うん、というわけだからミスター、あとでテレポートで城から掠ってきてくれたまえ」

「誰がエイダ様のメイドか分からないんだが…」

「お茶会で茶を運んできたメイドは分かるよね。そのメイド宛にボクが手紙を書くから渡してくれ。他のメイドたちに話をして、こっちに来る気のある者を、日時を決めてあの庭に集めさせるから。全員来てくれれば7人だ。この屋敷をまかなうには充分な人数だと思うぞ」



それから三日間、平穏な日々が過ぎていった。すでに王にも皇帝にもギルドから書状は渡っているはずだが、おそらく市民は何も知らされていないのだろう。何度か食料や日用品をトールの町まで買い出しに出かけたが、何の騒ぎも見られなかった。さすがに王都には買い出しには行かなかった。偵察以外で王都に出かけたのは2度、王女のメイドを連れ出すときだけだった。王女の言うとおり、メイドたちは全員こちらに来ることになった。これで屋敷での生活は快適になることだろう。


それにしても…大統領自らがお使いとは…

まぁ、テレポート出来るのは僕しかいないから、仕方が無い。


王国も帝国も、そろそろ何らかの動きを見せても良いころだ。帝国にはテレポートの基準点がないのでまだ行ってないので様子は不明だ。しかし、王都に偵察に行ったときに、強硬派の貴族たちが王を説得して、第三王女と僕を連れ戻すべく、それぞれが兵を出すことまでは探り出せた。その兵がもうじききここに到達することだろう。


さらに三日後、とうとう王国の兵が姿を現した。さぁ、独立戦争の始まりだ。戦後を考えると、できるだけ相手の犠牲者を出さずに兵たちの恨みを買わないようにして、それでいて完膚なきまでに叩かないといけない。なかなか面倒なことだ…



強硬派の混成軍は屋敷から500メートルほど離れた位置に前衛が位置し、その後ろに陣を張っている。こちらにノアやテイラーさん、オルガさんという強力な魔術師がいることを知っての布陣だ。帝国側の荒れ地には、まだ敵は見えない。しかし、遅かれ早かれやってくることに間違いは無い。左右から挟撃される形になる。そうなるまえに、王国の兵をどうにかしたいものだ。


居間を司令室にして考えを巡らせていると、見張りに出ていたトールがやって来た。

「ミスター、王国軍から使者が来たぞ。どうする」

待っている三日間で屋敷の周りには簡単な城壁と空堀が土魔法で作ってある。城壁と行っても、2メートルほどの高さの壁だ。軽装の歩兵なら簡単に乗り越えられる。それでも騎馬で一気に突入されることはないし、重装歩兵も乗り越えられないだろう。相手もその城壁を見て一気に突入して終わりには出来ないと思ったのだろう。使者がなんと言ってくるのか、とりあえず話を聞いてみることにしよう。屋敷の入り口のホールで出迎えることにした。

「使者を入り口ホールに連れてきてくれ。そこで出迎える」

そう言って僕はホールに向かった。


アリサとエマが僕に同行し、クレアとエイダには居間で待っていてもらう。クレアのもと乳母はクレアから離れようとせず、居間で茶の用意をしていた。ゴードとガーベラはその護衛だ。メイドたちを安全な場所に避難させうようとしたが、仕事がありますと言って、いつも通りの仕事をしている。ソアとノアは屋敷の最上階で周囲を見張っている。魔力感知があるので近づく者を見逃すことはないだろう。テイラーさんとオルガさんも一緒だ。


入り口ホールで待っていると、トールが使者を連れてきた。兵がふたり護衛についている。

僕は仰々しく、使者に声をかけた。

「ようこそ、使者殿。婚姻の祝いの品でも持参されたのかな」




★★ 74話は12月10日00時に投稿

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