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72 魔術師、国を興す

翌日、ギルドから僕宛に手紙が届けられた。差出人はない。あけて見ると武器屋で話を聞いてもらったことの礼だけが書かれていた。もちろん話の内容は書かれていない。クレアからの手紙だと言うことはわかるが…


手紙を読んでいると、ガーベラが尋ねてきた。

「ミスター殿の恋しい方から手紙がきているかと思いますが」

そう言いながら僕の手元の手紙に目をとめた。


ずっと見張っていたのか…


「今届いたところだ。これは何かの暗号か?」

「暗号など使っては、それだけで怪しまれます。それはただの私信です。愛していますとでも書かれていましたか」

「そ、そんなことは…」

「内容はどうでも良いのです。手紙が届くこと自体が合図です。ここにエイダ様からの茶会への招待状があります。これを持ってすぐに登城願います」


招待状を受け取ろうとすると、まだ何の動作も始めていないのに、ちょうどの位置にちょうどのタイミングで招待状が差し出されてきた。


これも予知なのか…



ガーベラが去ったあと、トールたちに招待状を見せ、第三王女に策があるらしいとだけ言い、同行してくれるように頼んだ。ノアにソア、そしてアリサは前回の茶会で知らされているが、まだ知らないふりをしてくれていた。


全員で第三王女に会いに行く。例の庭で全員を前にして王女が話を始めた。


「クレアの準備が整ったようだね。彼女からの恋文が届けられたろう、ミスター殿」

「恋文だったら良かったのですが」

「何が書かれていたとしても、恋文だよ、クレアがしたためたのは」

「そんなことより、作戦を…」

「まぁ、あせらないでくれたまえ。テイラー卿も来るはずだから、茶でも飲んで待とうじゃないか」

王女はそう言うと茶を飲み出した。僕たちも目の前のカップを手にとった。


ほどなくテイラーさんがやってきた…が、オルガさんが一緒だ。

「おや、オルガも一緒に来ちゃったのかい?」

「どうしてもと言って…断ったら王に報告をすると言うので仕方なく」

「オルガはボクたちのプランを知っているのかな」

「いえ、知りません。ただテイラー卿の様子がおかしいので…」

「そういうことか…よく見てるね、テイラーを」

「それは…」

「きたからには君も一蓮托生だよ」

「承知しております」

「まぁ、君はテイラーと一緒なら何があってもかまわないんだろう」

「しかし、オルガの家が…」

「この話のすぐ後、両親に縁を切ってもらうことにします」

「それがいいかもね。責任はテイラー卿がとってくれるよ」

「まってくれ、それは…」

「テイラー卿は、オルガが今まで縁談を全部断ってきたのは何故か分かっていると思うのだが、違うのかい」

「それは…」

「ちょうど良いかもしれないね、オルガ。こんなことでもないと、こいつはいつまで経っても変わらないぞ」

「はい、エイダ様」


「それじゃぁ、計画にとりかかろうじゃないか。そこの三人も計画は知っているのかい?」

答えようとするトールを制して、ボクが代わりに答えた。

「トールとゴード、それにエマには何もはなしていません」

「そうか、じゃ、三人に決めてもらう。ミスターは帝国の皇女を娶ることになる」

「それじゃぁ、帝国と戦争に…」

「ミスターはボクも娶る。さらに婚約中のノア君やソアさん、アリサさんも娶る。なんならエマさんも。まさか他にもいたりするのかな。ハーレムだね、ミスター。嬉しいだろう」

「それで解決するのか」とトール

「それだけでは解決しないよ。だからボクは国を捨てることになる。そして皇女のクレアも」

トールが驚きで固まっている。代わりにエマが尋ねる。

「それは皆で逃亡するということか」

「この大陸には王国と帝国しかないんだ、逃げる場所はないよ」

「それではどうするのだ」

「国を作る」



「国境沿いにあるボクの実験場は帝国の皇女クレアの実験場と隣接している。そしてクレアとボクは親友なんだ。この実験場がボクらの領土だ」

計画を聞いたオルガが聞いてきた。

「あんな土地に国は作れません。領民もいないし、作物もつくれません。どうするのですか」

「あー、国というのは建前だ。単にミスターがハーレムを作って住むだけの話さ。ミスターたちは今まで通り冒険者として暮らせばいい。ボクはそこに住んで魔術の研究をする。王女は廃業だ。いや、新しい国の王妃になるのかな。テイラーとオルガの新居もつくろう。いままで通りテイラーはボクを手伝ってくれればいい。あ、婚姻という事実は残るからね、ミスター、そこ忘れないように。毎週一回は帰ってきて夫としての義務を果たしてくれたまえよ。転移魔法が使えるんだ、簡単だろう。毎日でもいいぞ」

「そんなこと王も皇帝も許すはずがありません」

「許すも何も、ボクらがあそこの屋敷に入ってしまえば、王国も帝国も手は出せないよ。何しろ帝国一番の魔術師クレアと、天才魔術師ノア君に、奇跡の魔法をあやつるミスターがいるんだから。それに王が秘匿している防衛の魔道具は持ち出せないけれど、劣化版なら屋敷に設置してあるんだ。ボクの発明だよ。褒めてくれたまえ。まぁ、劣化版だから屋敷程度しか守れないけど、ボクたちにはそれで充分さ。周囲は荒れ地で、守るべき市民はいないんだから」

「エイダ様がミスターを連れて荒れ地の研究所にいくなど、あなたの姉君たちが許すはずがありません」

「研究所を見せたいと言ってミスターを連れ出すのさ。ミスターの転移魔法があるからね、片道一日、往復で二日あれば大丈夫といって説得するさ。というか、すでに王の了解はとったよ。あの屋敷に着いてしまえば、あとは何とでもなる、クレアとボクとミスターの婚姻を宣言し、国の独立も宣言する。中立国としてね。実を言えば、王国の穏健派の貴族たちはボクという厄介者がいなくなって喜ぶんじゃないかな。クレアも帝国の貴族に好かれていないからね。きっと帝国の穏健派も喜ぶと思うぞ、戦争が回避できて。それにあの荒れ地なら放棄しても何の影響もないからね」


「ソアとノアがいいのならば、俺は文句はないよ」とトール。

「同じ…」とゴード。

「マスターの御心のままに」とアリサ。

「主殿に従う」とエマ。


ノアが残念王女に問う。

「エイダ様はミスターが好きなの?愛しているの?」

「嫌いじゃないよ、愛しているかと言えば今はどうかな…」

「そんなのでいいの、愛してもいないのに…」

「君はお子様だね。恋と違って愛は後からいくらでもはぐくめるんだよ」

ソアが口をはさむ。

「わたしの父と母は、婚姻の日まで名前しかしりませんでした。でも、わたしが物心ついたときには、深く愛し合っていました」

「でも…」

「貴族家に生まれたら、相手は選べない。家長の選んだ相手と婚姻を結ぶ。嫌いじゃない相手なら十分幸せなんだ。愛は育てるものさ」

「じゃぁ、クレアは?」

「クレアの気持ちはわからないが、きっとボクと同じさ。それからミスターは確かにクレアに恋しているね。でも、ミスターが愛しているのはノア君じゃないのかい。ボクにはそう見えるのだが」


王女の言葉に、ノアはしばらく無言で下を見ていたが、何か感じるものがあったのか急に元気になって言った。


「なにがお子様よ。あんたよりあたしのほうが年上なんだから。あんたの方がお子様じゃない。あんたなんかに負けないんだから」

「歳は下でもボクの方がノア君より大人さ。ミスターもそう思わないかい」

そういって王女が胸を張ると、

「大きければいいってもんじゃないんだから。あたしだってすぐに…」



お子様どうしの口げんかが納まるのを待って、ボクたちは王女の実験場へと移動した。もちろん僕のテレポートで。最初に王女を道案内に短距離テレポートを繰り返して、実験場の屋敷に着くと、基準点を設置して王城にもどる。王女の庭にも基準点を設けた。それから全員をつれて一気に実験場までテレポートする。


実験場についてからも、王女と一緒に城との往復を繰り返し、王女の荷物を運び出す。怪しまれないギリギリまで運びだした。その間にクレアと元乳母だという従者の二人が到着した。冒険者のクレアの荷物は残念王女にくらべれば無いも同然だった。


出発前にオルガさんは家長の父親宛に家を去る旨、手紙をしたため、王女のメイドのひとりに預けていた。テイラーさんはすでに両親は他界していて、身内は家長のテイラーさんひとりだけだそうで、王宛に爵位の返上と国からの離脱を願う書状を書いて託した。


結局、新しい国の住民は、僕やエマを含めたトールのパーティーメンバーの他、クレア、エイダ、テイラーさん、オルガさん、そしてエイダの従者であるガーベラの総勢13人だ。


二日の後、僕はクレアとエイダを娶って新しい国の建国を伝える書状を王と皇帝宛ての2通したため、テレポートでトールの町のギルドに託した。数日後には王国と帝国がどうするか判明するだろう。


★あとがき★


★ショート・コント(撮影現場にて)はしばらく休載します。


★★ 73話は12月8日00時に投稿

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