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07 魔術師、買い物をする

朝はギルドが一番混む時間だとか。冒険者が新しい依頼を探しにくるので当然と言える。

昼過ぎにはめぼしい依頼はすべて受注済みになってしまうのだ。条件のいい依頼を受けるには朝一番でギルドに行く必要がある。ギルドに入った時には依頼が張り出してある壁の前は人でいっぱいだった。良い依頼を探すには遅すぎる時間のようだ。


トールは受付に直行し、昨日の護衛の報酬を受け取っている。彼の話では、依頼を完了した後は必ず3日は休むというのがトールたちのパーティーのルールなんだとか。だから今日は依頼を必死に探す必要はないということなのだろう。報酬を受け取って帰ろうとするトールに、受付のお姉さんが声を掛けた。

「あの、トールさんに指名で依頼があるのですが」

「指名?誰の依頼だ?」

「タルトさんが先日往復した町へもういちど行くので、また護衛をお願いしたいそうです」

「今日は休む予定なんだが、タルトさんか…。みんな、どうする?」

「タルトさんには義理もあります。指名ということであればお断りする理由はありません」

「あたしもいいよ」

「いい…」

「ミスターは?」

「いいですよ。わたしも保証人になってもらった恩がありますから」

「よし、決まりだ。幸い前回の護衛はトラブルもなく楽だったからな。休みなしでもいけるだろう」

トールは受付のお姉さんの前にいって依頼を受けることを伝えた。

「では正午に広場の馬車のところに行ってください。タルトさんには連絡をしておきます」


受付のお姉さんも女将ほどではないけれど、なかなかの美人さんだ。名前はなんていうのだろうなどと思ってお姉さんの方を見ていると、トールに気づかれた。

「受付に手をだすなよ。冒険者全員に袋だたきにされるからな」

「手なんかだしませんよ。万一向こうから言い寄られてもちゃんと断りますから」

「なるほど、彼女を振るってわけだな。彼女を泣かすやつはやっぱり袋だたきだな」

「それって、どうすりゃいいんですか。どうやっても袋だたきじゃないですか」

「誘わない。誘われない、これしかない」

「誘わないのは出来ますが、誘われないってのは…」


昨日まで、日本にいたときなら100パーセント誘われない自信があったんだが…

ソアやノア、エリカさんのことを考えると万一があり得るよなぁ…。

できるだけ眼を合わせないようにしよう。

女と縁がなかった僕なのに、どうしてこうなった!?


「それじゃぁゴード、いつも通り食料の調達はまかせたぞ」

「いつも通り2日分でいいか…」

「ああ、往復で2日だ。あ、4人分じゃなくて今度からは5人だからな。ミスターの分を忘れるなよ」

「忘れない…」

「ノア、ポーションはまだあるか?」

「前回使ってないから余裕だね」

「ソアの回復魔法だけに頼るのは危険だからな」

「ミスターの分の地図は?」

「昨日と同じコースだからな、俺の持っている地図を渡しておくか」

「何があるかわかりませんから、やはり全員が持っている方がよいのではありませんか」

「そうよ、どうせいずれは必要なんだし、集合まで時間があるからミスターの分も買っておこうよ」

「そうだな、ではノア、地図を買っておいてくれ。ついでにミスターも連れて行って、地図屋の場所を教えておいてくれ」

「わーい、また一緒だね」

「わたしも一緒に行かせてもらいます、ノアとふたりだけでは間違いが起こるといけませんから」

「なんにも起こらないよー。ふたりだけで問題ないよー」

「いえ、一緒にいきましょう」

「まぁ他に用もないし、3人で行ってこい。集合時間に遅れるなよ。場所は広場の馬車置き場だからな」


「さてと、俺はミスターの寝袋とか諸々を調達してくるかな。ソアもノアも舞い上がって、すっかり忘れているようだからな、あいつの野宿の用意を」



ソアとノアに案内されて地図を買いに来ているのだが、この二人と一緒に歩くと、すれ違う冒険者の視線が痛い。並んで歩いているだけでもこれなのに、ノアはすぐに腕をくもうとする。そうすると周囲の冒険者どころかソアの視線まで痛くなるので、あわててふりほどくのだけれど、ノアが大きな声で文句を言ってますます周囲の注目をあびてしまう。

どうすりゃいいんだ。


「地図屋に着きました」

「ここが地図屋だよー」


ひとり言えばわかるんだが…


店の中に入ると、書棚も何もなく、店主らしき爺さんがひとり座っている。

「よういらっしゃった。どこの地図がお望みじゃ」

「トール街道の地図をお願いねー」

「トール街道か。ほれコレじゃ」

「おいくらですか」

僕の分なので、僕が出すのが当然だ。

「金貨4枚じゃ」


たけぇ~!

払えないことはないけど、

金貨4枚っつたら、ええと96000円か。

めちゃくちゃ高いじゃん!


「ずいぶん高価なものなんですね」

「職人が上等な羊皮紙に1枚1枚手書きで書いて、着色もしておるんじゃ。金貨4枚でも安いくらいじゃぞ」


そうかぁ、紙も印刷技術もない世界なんだよな。まぁ高くても買うことは決まっているしな。今の返答じゃぁ値切らない方が良さそうだな…


「では金貨4枚」

腰にさげた巾着袋から金貨を4枚出して渡す。

4枚くらい数えなくてもわかりそうなものだが、じいさんは1枚1枚慎重に数えてから脇の箱にしまいこむと、巻物になった地図を僕の方に押し出した。それを手に取り、鞄とか何も持ってないことに気がついた。広場に向かう途中で買えるような店があったら、ひとつ調達することにしよう。護衛の旅にも役にたつだろうから無駄にはならないと思う。


ついでに聞いておこう。

「他にはどこの地図があるんですか?」

「この王国内のすべての街道と町の周辺の地図があるぞい」

「町中の地図はないんですか」

「それはどこの領主も作るのを許してくれんからの」

防衛上の理由かな。それに今王国っていってたよな。王様がいるのか…。

「王国以外の地図はありませんか?」

「隣の帝国の地図があるぞい、といっても主な街道と大きな町だけじゃ」


なるほど。いずれにしても地図は高価で貴重品って訳だ。

なくさないようにしよう。


地図屋を出てから二人に尋ねた。

「どこかに鞄とか売っている店はありますか?」

「あたしが知ってるよ」

「知らない人はいませんよ、ノア」

「ミスターは知らないじゃん」

「ミスターはまだ町にきたばかりでしょう」

「だから案内するのよ」

「では一緒に行きましょう」


なんだこの会話は…


ふたたび3人で町中を歩く。


早く町の外にでたい…


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