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65 魔術師、王女と話す

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「あのときの少女はお主なのか」

第三王女の後ろにいた女にわたしは話しかけた。


王城に泊まった深夜、わたしは女の部屋を尋ねた。部屋の場所はアリサに聞いた。

「隣の部屋でエイダ様がお休みになられています。王女のメイドの部屋を許可もなく深夜に訪れるなど、ただでは済みませんよ」

「人を呼ぶのか、死人がでるぞ」

「…」

「答えてくれ」

「…」

「なぜここにいる」

「エイダ様の付き人です、当然ではありませんか」

「護衛というわけか…エンダーの弟子がなぜ王女の護衛を?」

「わたしはエンダーの弟子ではありません」

「偽りを言うな、わたしがエンダーのもとを去るとき、たしかにお主がエンダーの教えを受けていたのを見た」

「人違いでは」

「その首のペンダントだ、めずらしいデザインで、そうそう同じものがあるとは思えん」

「見られていましたか…。これは手作りの一品物です。わたしの唯一の私物でした」

「ミスターを狙っているのか?」

「なぜ、わたしがミスター様を狙うのですか」

「エンダーを倒した男だ」

「あぁ、風の便りに聞いたことがあります。では氷のエマともあろう人が師匠の仇に従っているというのですか?」

「エンダーの弟子のエマはお主に会ったその日に死んだのだ。エンダーに果たす義理はない」

「そうですか…エンダーを愛していたのですね」

「お主こそミスターを狙わないのか」

「わたしはエンダーの弟子ではありませんから」

「それは先ほど聞いた」

「あなたが去ったあと、ひと月もせずわたしはエンダーに追い出されました」

「嘘をつくな。エンダーが弟子とする者の才能を見誤ることなどない」

「嘘ではありません。あの日から10日後、わたしは最初の模擬戦でエンダーから一本をとりました。それ以後、模擬戦でエンダーに負けたことはありません」

「いいかげんなことを…」

「本当のことです。エンダーの技量はわたしよりも遥かに上でしたが、勝負すればわたしが常に勝ちました」

「それをわたしが信じると思うか…」

「半月後、エンダーはわたしに教えることは何もないと、いや、何も教えられないと言い、わたしを奴隷から解放しました。わたしがエンダーのもとを去るとき、最後の言葉をくれました」

「なんと言った?」

「誰からでも良いから剣の基本だけ学べ。わたしに技は必要ないと」

「エンダーがそう言ったのか…」

「その言葉を守り、以来、誰にも負けたことはありません」

「大言を、試して見るか」


彼女がわたしの挑発に乗ることはなかった。

「意味のない争いはしません。どうぞお引き取りください。あなたがたが何もしない限り、わたしが敵対することはありませんので、ご安心ください」

「お主の名は?」

「ガーベラと申します。エンダーにもらった名前です。親のつけた名前は知りません」


わたしはガーベラのもとを去り、自分の部屋にもどった。わたしに付けられたメイドはアリサにもらった薬で眠らせてある。朝までには目が覚めるだろう。


しかし、ガーベラがエンダーに最初から一度も負けていないなどとは、到底信じられない。本当であれば主殿にとって脅威となるかもしれない。いつか闘うことにならなければ良いのだが…


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


4人が僕の部屋を出てからしばらくして、再び来客があった。


第一王女のテレサ嬢である。メイドに通すように伝え、中に案内してもらった。アリサはもとの主の公爵に挨拶のため外出させたことにしてある。


「アリサが不在なので、すまんがあなたもこの部屋にいてくださいな」

メイドにそう言って、テレサ王女をテーブルの席に誘った。


「さて、こんな夜半に何の御用でしょうか、王女様」

「王女様とは…。あなた様の妻となるかもしれないのです。テレサとお呼びください」

「まだ何も決まっておりませんが、良いでしょう、テレサ様。して、ご用件は?」

「夫となるかもしれぬ殿方のことを知りたいと思うのに何の不思議があることでしょう。それに妻となるかもしれぬわたくしのことを知って頂きたいと思うのは当然のことでは」

「始めて会ったその日に、どこの馬の骨ともわからぬ平民の男に王命で嫁ぐことに何のためらいもないのですか、王女…いえ、テレサ様は」

「まぁ、あなた様はもう平民ではありません。爵位をお持ちです。それに相手がどのような方でも王命で嫁ぐのは王女として生まれた者の義務でございます。ものごころついてからずっと、どのような方に嫁がされるのか不安に思う日もありましたが、あなた様はわたくしの理想の方です」

「それは買い被りです」

「あなた様は奇跡の魔法を使われたと聞きます。幸いにも妹たちと違ってわたくしは、魔力と魔法の才に恵まれております。わたくしとならば話も合うことでしょう。あなた様なら、きっとわたくしを選んでいただけると思っています」


あぶなく即答で婚姻の承諾をしてしまうところだったが、女性に弱いぼっち気質が幸いしたのか、それとも先にクレアに会っていたのが幸いだったのか、言葉が口を出ず、早まらずにすんだ。


「テレサ様のお気持ちは理解できます。しかし、こんな時間にひとりで部屋を訪ねてくるのは正しい事とは思えません。またの機会にわたしからうかがわせていただきますので、今日の所はご自身のお部屋に戻られるのがよろしいかと存じます」

「確かに、いささかはしたない行いでした。申し訳ありません、どうぞお許しを。わたくしを訪問してくださるのを心待ちにさせて頂きます」

そういうと席をたち、

「それでは失礼を致します」

とても優雅なカーテシーを見せ、僕の部屋から去って行った。



翌朝、宿の手配ができたとのことで、僕たちは城を出られることとなった。メイドに案内されて城門に向かって歩いていると、正面から少女が小走りにやってくる。第三王女のエイダ様だ。エマがエンダーの弟子だという従者が後ろから続く。ソアの話では第三王女は14と言うことだが、14にしても小柄で幼く見える。ふわっとした金髪で、とにかく可愛い。フランス人形のようだ。小走りにやってくるのだが、後ろのエンダーの弟子が歩く速度と大差ない。その様子も可愛い。


僕の目の前にやってくると、完璧なカーテシーを見せて、微笑んだ。ノアも可愛いが、この王女はその上を行く。


くぅ~、可愛いじゃないかー


きらきらと輝く瞳で僕を見つめると、後ろを振り向いて大きな声で従者に言った。


「このものにボクは嫁げば良いのか?」


はっ?ボク?


少女は僕に向かって言った。

「さえない男だが、しょうがない。ボクが嫁いであげるから、感謝するんだ」


こ、こいつは、本当に王女なのか?


「可憐なボクを目にしてか、あるいはボクと婚姻を結べることに歓喜の余り言葉も出ないようだが、さっさと承諾の返答をしないか」


確かに可憐で美しいが…残念な王女がボクに返答を迫っている。


「王女エイダ様にお言葉を…」

「エイダでいいぞ、ボクと君の仲だ」

「あぁ…エイダ様におかれましては、ご機嫌麗しく、なによりでございます」

「なんだ、その話し方は。君は平民なんだろう、もっと分かりやすく話した方がいいぞ」

従者が後ろから声をかける。

「エイダ様もご存じのはずですが、昨日、王より爵位を授けられております故、平民ではございません」

「つまらんことを言うな、称号など意味はない。平民が一晩で貴族になったりはしない。問題はその者が優れた人物か否か、それだけだ」


王女でありながら身分制度を無視しているな…

こいつはノアの同類だ、間違いない。それもノア以上の脳天気さだ。

絶対に二人っきりになったりしてはまずい、何を言い出すかわかったものではない。

冗談や遠回しの言い方はしないほうがいいか…


「僕がどなたと婚姻を結ぶのかは現時点で白紙ですよ、エイダ様」

「そうなのか、ボクの見立てでは、若い子が君の性癖だと思うのだが」

「それは…」

「だから絶対にボクを選ぶはずだ。それとも君と一緒にいた魔術師の少女の方がいいのか。第二夫人にしてもボクは気にしないぞ」


王女に引き留められている僕を目にして、ノアとソアがやって来た。

「ミスター、第三王女様となんの話をしているのかなー。お子様とでは話が合わないんじゃないかな」

「君も言うね、ノアといったかな。近衛の騎士団長が聞いていたら不敬で投獄ものだよ」

「そのときはお城がなくなっちゃうよー」

「そんな怒らなくてもいいじゃないか。君はボクと同類のようだからきっと友人になれるはずだよ、どう、ボクと一緒に娶ってもらおうよ。ノア君は天才魔術師だっていうじゃないか。ボクは魔法は使えないけど魔術理論は得意なんだ。ボクと君が組めば彼の奇跡の魔法も再現できるかもしれないぞ。どうしてもと言うなら君が第一夫人でも良い」


ま、まずい。ノアが丸め込まれそうだ…

うなずいてるんじゃないぞ、ノア。

ソアさん、助けて…


「ミスター、近衛騎士団のテイラー卿がお待ちです。お忙しい方ですので待たせては申し訳ありません。エイダ様とのお話は後ほどにさせていただき、今は新しい宿に向かいましょう」

「ソアの言うとおり、テイラーさんを待たせるわけにはいかない。エイダ様、また後ほどお目にかかり、ゆっくりとお話をさせて頂きます。今日はこれにて下がらせて頂きます」


「ソアといったか、うまいことやるね。テイラーをもち出されては仕方がない。また今度ゆっくり会おうか。ノア君とも二人っきりで話がしたいね。それじゃ、またね」

そういうと、もういちど優雅なカーテシーをして去って行った。


仕草と言葉使いが違いすぎるだろ…

王様、どんな教育をしたんだ…


「ノア、エイダ様に誘われていましたが、二人っきりで会ってはいけませんよ」

「どーして?」

「エイダ様に丸め込まれそうだから」

「そんなことないから」

「今さっき、丸め込まれそうだったでしょ」


ボクだろうとノアだろうと、残念王女様と会うときは絶対にソアかアリサに同席してもらおうと思った…


それと…婚姻話は別にして、エンダーの弟子も気になる。

僕から目を離すことなく見つめていたぞ…


★あとがき(撮影現場にて)★


ノア:「お疲れーって…あれ、誰もいない…」

ノア:「昼にはいたのに…」

ノア:「そういえば、テイクのあとソアと何か話してたけど…」


★★ 66話は11月24日00時に投稿

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