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59 魔術師、再び偵察に

宿に帰ると、ノアたちはすでに作戦のために出発したあとだった。現地には明日の午前中には着く予定だという。森を抜けるはずだが、魔物が移動してしまったのでそれほど時間はかからないらしい。


僕は放射線作戦について思いついたことが実行可能かどうか考え、必要ならば準備をしておこう。ソアとエマには休んでもらい、明日、ノアたちを追いかけることにした。



翌朝、部屋で寝ていると、ソアに起こされた。

「いつまで寝ているつもりなのですか」

「すまない、昨日はちょっとした準備でほとんど徹夜だったんだ」

「スライムは待ってくれませんよ、はやく出かける用意をしてください」

「朝食は…」

「向こうにいけば食事は軍が用意してくれます」


ソアにせかされて、北の森の先めざして馬を飛ばした。ソアとエマの二人を抱えて飛行するのは厳しいのだ。街道が森に突き当たるところで馬を止める。正面に森を抜ける旧道が見えた。かなり古い道のようで、放置されて荒れているが、馬車が通れるほどの幅で石畳が敷かれている。藪で覆われていたようだが、その藪が切り払われている。ノアたちが切り払ったのだろう。そのまま馬で進むことにした。道の途中、ときどき切り払ったというよりも吹き飛ばしたようになっているのは、じれたノアが魔法を使ったのかもしれない。


「どうして森を抜ける道を作ったのでしょう。森の先に町はなかったと思いますが」

「昨日司令部に残っている副司令官から聞いたのだが、森の先の飛竜の営巣地のあたりに昔は鉱山があったんだとか。鉱山が放棄されて飛竜が住み着いたということらしい。もしかしたら話は逆で、飛竜が住み着いたので鉱山が放棄されたのかもな」


旧道のおかげで馬を30分ほど走らせただけで森を抜けることができた。森を抜けたところに軍の大型のテントがいくつも張ってあり、その先に大きな堀が作られていた。幅は10メートルほどで、左右に続いている。テントの前の机で司令官とノアが地図を広げていたので、馬を下りてそこに向かった。


「あ、こっちだよー」

ノアが僕らを見て、手を振っている。


「僕の準備も出来たので、こちらの応援にやって来ました」

司令官に声をかけると、地図から顔を上げて言った。

「ご苦労、良く来てくれた。早速で悪いが、ミスター殿に偵察を頼みたい。ノア殿によれば、ミスター殿は偵察が得意とか。スライムの群れの大きさと、移動が始まっているのかどうか。移動が始まっていたら、その方角とか。重要な任務なのでよろしく頼む」


ノアに顔を向けると、舌を出している。司令官が何も触れていないので、さすがにテレポートや空が飛べることまではバラしていないようだが…


司令官が続ける。

「他の方々は堀の右側の端で作業中の魔術師の護衛を頼みたい。右側の護衛が手薄なのだ。ときどき現れるはぐれの魔物をなんとかしてくれ」


堀を見ると、旧道の出口の前方200メートルくらいの位置を中心にして、森の縁に沿って左右に500メートルくらい完成している。司令官の話では、深さ10メートル、幅も10メートルで掘削しているという。土魔法が使える軍の魔術師が総出であたっているとか。


「もしスライムが堀を通過しない咆哮の時はどうするのですか」

「そのときは、囮をつかって向きを変える」

「できますかね…」

「なんとしても、やらなければならん。そのためにも偵察が重要なのだ」

「では、急いで食事をすませて、偵察に出ます」

「護衛の兵士は必要か?」

「いえ、僕ひとりの方が動きやすいので不要です」


テレポートも飛行も余り見せたくないからな…


そういって、補給所になっているテントにいって食事をすませ、偵察に出た。堀には中央に簡単な橋が掛かっている。もちろんスライムを迎え撃つときは落とされるはずだ。橋を渡り、テントが見えなくなるまで進む。そこからは飛行して偵察だ。



前回見つけたスライムの穴が見えるところまでいくと、スライムが穴からあふれているのが見えた。まだ非常にゆっくりとした速度だが、明らかに一方向に移動している。好都合なことに、堀に向かって一直線の向きだ。まだ距離はあるが、もしかしたら集まっている兵士たちを何らかの方法で感知しているのかもしれない。僕は反転して、堀の近くまで戻ると地上に降りて、徒歩で司令官のテントに向かった。


「スライムは移動を始めていました。とてもゆっくりとした速度なので、急な変化がなければですが、早ければ5日、遅くても10日以内にここに到達するかと思います」

「間違いなく、ここに向かっているのだな」

「今のままならば、そうなります。念のため明日以降も偵察に出かけるつもりです」

「そうしてもらえると助かる」

「5日間で堀はどこまで延長できるのでしょう」

「魔術師たちは、交代で24時間掘っている。ここから左右にあと5キロは掘れるはずだ」

「スライムの穴から出たとき、どのくらいの幅で移動してくるのかが問題ですね」

「その通りだ。明日以降の偵察では、その点も見てきてくれ」

「わかりました。この先は岩地なのです。いかにスライムでも、岩を餌にして急速に増殖することはないと思います。しかし、堀を越えられ、森を食われると爆発的に増殖するかもしれませんね」

「なんとしても、ここで食い止めなければならんな」

「増援の宮廷魔術師は間に合いますか?」

「3日後にはミモザの町に到着し、すぐにここに向かう予定だと連絡があった。テイラー殿とオルガ殿も同行する。総員で8名とのことだ」


自分と同じくらいの魔術師は国で10名くらいとノアが言っていたな。8名というのは王宮が大部頑張って派遣したのだろう。あの公爵のおかげかな…


連絡というのは、例の曲玉を利用した通信なのだろう。司令官のいるテントの脇に窓のない大型の馬車が止まっている。ときどき兵士が出てきて司令官に何か報告していた。僕たち冒険者の接近は禁止されているが、そこに通信用の装置があるに違いない。



翌日以降も僕は偵察を繰り返し、魔術師たちはひたすら掘を延長した。そして6日目の朝、見張りの兵が、堀の先にスライムの姿を発見した。


「スライムの群れの接近を確認しました。現在位置は堀の中央前方1キロ。ゆっくりと前進中。群れの幅はおよそ300メートル、奥行きは不明です」

偵察から戻った兵が報告する。

「宮廷魔術師は中央に集め、50メートルの幅で均等に配置せよ。軍の魔術師は、風魔法の撃てるものは宮廷魔術師の間に配備する。残りは半数ずつに分かれ、宮廷魔術師の両端で待機だ」

司令官の指示に従って魔術師たちが位置についた。何をすべきかは十分に打ち合わせてある。ノアの位置は中央だ。魔術師たちにはそれぞれ護衛の兵士が数人ついている。トールたちは司令官の近くで待機だ。ただ、アリサだけはノアに張り付いていた。僕は偵察と称してテントから離れ、こっそりと堀の上空100メートルで浮遊している。準備は万全だ。


全員が緊張して待っていると、スライムの群れが間近にせまってきた。もちろん橋はすでに落としてある。報告の通り群れの幅は300メートルほどだが、堀に近づくにつれて左右に広がり始めている。報告にはなかったが奥行きは500メートルほどだ。いったい何匹のスライムがいるのだろう。


ついに先頭の一匹が堀に落ちた。闘いのはじまりである。



★あとがき(撮影現場にて)★


ノア:「なんなの、昨日のディナーは!」

ディナーって…

ノア:「以前の約束通り夕食につきあってくれたのは良かったのに…」

連れて行ってもらったホテルの展望レストラン、立派でしたね。

ノア:「あれもあたしの家が持っているホテルよ」

あの食事、値段が…

ノア:「あんたには払えない値段だから聞いても無駄よ」

……

ノア:「それよりも、食事の後、なんで苦しみ出しちゃったのよ」

えぇと、きっと生牡蠣にあたったのかと。

ノア:「新鮮で最高の牡蠣だったはずよ」

そうなんですけど、僕、昔、生牡蠣にあたったことがあったんですよ。

ノア:「どうせ安い牡蠣食べたんでしょ」

まぁ、そうなんですけどね。

ノア:「それがなんの関係があるのよ」

牡蠣って、一度あたるとアレルギーになることがあるみたいなんですね。おかげで今日もお腹の具合が万全じゃなくて、ロケ弁は食べられそうもありません。

ノア:「先に言っておきなさいよ!メニュー変えたのに…あ、あんたの今日のロケ弁はあたしが食べるから大丈夫よ」

生牡蠣が出ると先に分かっていれば…

ノア:「おかげで救急車よんだりで、大変だったわ。計画がだいなしよ」

病院の手配、すみませんでした。それで…計画って?

ノア:「ホテルに部屋を取っておいたのよ」

あぁ、時間も遅かったし、家に帰るのも大変ですからね。女性の夜道は…

ノア:「まさか、あんた、あたしをひとりで帰すつもりだったの!」

もちろん送っていくつもりでしたよ。

ノア:「送るじゃないわよ、部屋が取ってあったのよ」

僕に気を使ってくれて、ノアを送らなくともすむようにですよね。僕がひとりで帰れるように…

ノア:「なんであんたは帰っちゃうのよ」

いや、だって、僕は部屋の予約なんかしてなかったし…

ノア:「あたしの取った部屋はスウィートよ」

さすがお嬢様。僕にはシングルの部屋も無理ですから。

ノア:「だからー、なんであんたが別に部屋を…」

とにかく、昨日はすみませんでした。牡蠣にあたるなんて…

ノア:「こうなったら最後の手段だわ。次の時はあたしの家に来て一緒に夕食よ」

え、ご両親と一緒に?

ノア:「ひとり暮らしよ、あたしは。だからあんたと二人っきり!」

まぁ、昨日のお詫びってことで…

ノア:「じゃ、約束よ。今度こそ…」


★★ 60話は11月12日00時に投稿

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