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57 魔術師、スライムに遭遇する(承前)

あたしとアリサは司令官と一緒に町の北の街道沿いの軍の陣地にやって来ていた。魔術師のテイラーさんとオルガも一緒だ。


「気に入らないようですが、一緒に作戦を実行するのですから、あまりオルガ様を刺激しない方がよろしいかと」

アリサがあたしに言った。

「あいつが悪いのよ、あたしを軽んじて子ども扱いするから」

「しかし、お美しい方ですし、ソアさんと同じくらいのお年ではないかと。おばさんというのは…」

「ソアと一緒なら十分おばさんよ。あっ、今のはソアには内緒ね。ばれたら頭グリグリされちゃうから」


司令官は現地の隊長から報告を受けると、群れの対処にあたる部隊の指揮を引き継ぐといって、てきぱきと命令を発した。そして、あたしたちの方にやって来て言った。


「魔物の群れが3キロほど先の所まで来ている。早速部隊と一緒に出動してもらいたい」

テイラーが質問する。

「我々は、具体的には何をすればよろしいのでしょうか」

「魔術師殿には、魔物の群れの全面に魔法の弾幕を張っていただきたい。魔物に当てるのではなく、進行してくるその前方に着弾させて、魔物の進行方向をずらすのだ。町の西側の方により多くの村が存在するので、群れが東の方に向きを変えるように着弾点を考える必要がある。そのために最適な場所を偵察隊が選び、前衛部隊がすでに配備されている。そこまで同行願いたい。そこで着弾地点を指示する」


あたしたちは、護衛の兵士に囲まれながら、司令官と一緒に街道を北上した。1キロも進まないうちに、街道脇の丘の上に兵士の一団が見えてきた。街道を外れ、丘の上に馬を進める。


「お待ちして降りました、司令官殿」

「うむ、ご苦労。して、魔物の群れは?」

馬から降りた司令官が、出迎えた兵士に状況を尋ねる。

「そこの丘の頂上から群れの先頭が見えます。およそ1キロほど先であります」

兵士に案内されて、丘の頂上に登った。


「おー、すごい大群だ」

「確かに、これでは殲滅は無理ですね。進行方向を変えるのが精一杯ですか…」

テイラーがつぶやく。

「だからもっと大勢で来れば…」

「仕方がありません。魔物の群れが近づいている町はここだけではありませんからね」

「それでー、どこに魔法を撃てばいいのかなー」

「着弾点には偵察隊が旗を立ててあります」

あー、確かにかなり先に3本の旗がたっているね。赤青黄、色違いの旗が。

「タイミングは担当の兵が指示を出します。テイラー殿は赤の旗、オルガ殿は青、ノア殿は黄色の旗を目標に放ってください。それぞれタイミングを変えて撃ってもらうので、担当の兵の指示に注意してください。タイミングは重要です。よろしく願います」

案内した兵士が説明をした。その間に、あたしたちの横に3人の兵士がやって来ている。それぞれ。手に小さな旗を持っている。あたしには黄色の旗の兵士がついている。テイラーさんやオルガにもそれぞれ担当の色の旗を持った兵士が寄り添っていた。

「その後も、指示に従って魔法を撃って頂きます。二撃目からは目標の旗はありませんから、指示に耳を澄ませていてください」

「何の魔法を撃てばよろしいのかしら」とオルガ。

「出来るだけ派手な魔法を」

「それならば、火球の爆発魔法かしらね」

「威力は、テイラー殿、オルガ殿、そしてノア殿の順で少しずつ小さくなるように調整を願います」

「なるほど、では最初の一撃は最大威力で撃つと言うことですな」

テイラーさんが言う。

「ノア様が三番目というのは賢明なご判断ですね」


こいつ、どうしてくれようか…


「では早速所定の位置にお願いします」

そう言って案内の兵士は丘の北側の斜面を降りていく。そこには高さ1メートルほどの掩蔽が作られている。これで爆風を避けながら、魔法を撃てと言うことらしい。あたしたちは掩蔽の両端と中央に位置した。左端がテイラーさん、中央がオルガ…いや、こいつはおばさんで十分よね、中央はおばさん魔術師、右端があたしだ。指示をだす兵があらかじめ設置してある測距計をのぞき込む。肉眼でも魔物の群れがはっきりと見える。その先頭は赤い旗の近くまで来ていた。


「各員、用意せよ」

テイラーさん担当の兵士が大声で叫ぶ。あたしたちは両手を上に上げて火球を作り出す。

「赤、撃て!」

大声で叫ぶので、『てー!』としか聞こえない。テイラーさんが火球を放ち、狙い違わず赤旗に命中した。いい腕だね。命中と同時に大きな爆発が起こる。直後に爆風が掩蔽の所までやって来て、小石やら土塊やらが飛んできて痛い。

「青、撃て!」

つづいておばさんが火球を放つ。これも青旗に命中。青旗は赤旗よりも少し手前に配置されている。そこでも大きな爆発。

「黄、撃て!」

あたしも火球を放つ。これまた黄色の旗に命中。

「全段命中!各員次弾の用意!」

テイラーさん担当の兵士が叫ぶ。あたしたちは二撃目の用意だ。一撃目の爆風が収まりかけた時、二撃目の指示が飛ぶ。

「各員前弾より右方向プラス100メートル、距離マイナス50メートルにて狙え!」

なるほど、魔物の群れの前に斜めの弾幕を張って、それに沿うように魔物の進行方向を変えようと言うわけだ。

「赤、撃て!」

テイラーさんの二撃目。

「青、撃て!」

おばさんの二撃目。

「黄、撃て!」

あたしの二撃目。

斜めの線にそって次々と火球が爆発をする。

「魔物、10度右へ!」

「着弾位置修正、前回に同じ、各員用意!」

三劇目の指示が出され、再び爆発。

「魔物、さらに20度右へ!攻撃止め!」


え、もう終わり、あっけない。


と思ったのが間違いだった。


「魔物の一部進行方向に変化なし、そのまま速度を上げて前進。5分で到達!数およそ50!」

テイラーさん担当の兵士が叫んだ。


丘の頂上で司令官が叫ぶ。

「全小隊前へ!」

あたしたちの護衛の兵士たちが盾を構え抜刀して前進してくる。テイラーさん担当の兵士があたしたちに丘の頂上まで後退するように指示をだした。



魔物と護衛の兵士が戦闘を開始した。さっきまであたしたちがいた場所の掩蔽を防御壁にしているが、その幅はそれほど長くはない。両側を固める兵士は壁なしで魔物と闘っている。次第に押されて、このままでは中央の兵士の後ろに回り込まれてしまう。

「あたしたちも魔法で援護を」

あたしがそう言うと、司令官は

「許可できん。魔術師はここで待機だ」

「なぜ!」

「魔法を使って爆発音を響かせたくない。せっかくコースをそらした群れの本体の注意を引いて戻って来られては困る」

「それじゃ、犠牲者が…」

「兵は一人残らず覚悟を持って任務に当たっている」

「でも…、それなら音がしなければいいのね」

そう言い残して、あたしは命令を無視して丘を駆け下り、兵士と闘っている魔物の頭めがけて水球を放った。アリサもあたしについてきている。水球が顔に当たってのけぞった魔物を、兵士が剣で刺し殺す。あたしは手当たり次第に水球を放つ。気がつくと、テイラーさんとオルガさんもあたしと一緒に水球を放ったり、風の魔法などで魔物を牽制し、兵士の攻撃を助けている。


あたしたちの参戦のせいか判らないが、結果として兵士に犠牲者は出なかった。兵士の間を抜けてきた数匹の魔物はアリサがすべて倒し、あたしたちに怪我はない。兵士の怪我人は大勢いたが、オルガさんは回復魔法も使えたようで、治療にあたっている。


司令官も丘を降りてきて、兵士たちに声をかけている。そしてあたしとテイラーさんの所にやって来て、

「命令を無視してもらっては困る。今回は不問にするが、二度と命令無視はしないように」

と言うと、後ろを向いて小さめの声で言った。

「支援に感謝する。おかげで誰も死なずにすんだ」

そう言うと、兵士たちの所に戻って行った。


テイラーさんがあたしに声をかけた。

「良い判断でした。治療中のオルガには私から司令官の言葉を伝えておくことにします」

「お二人が一緒に闘ってくれたおかげだよ、ありがとうー」

「アリサさんも見事な闘いぶりでした。おかげで私たちも無事で済みました」

あたしが何より驚いたのは、あの乱戦の後でも、アリサのメイド服に返り血が一滴もついていないことだった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


わたしの弓が鎧狼を貫き、これを倒しました。

「もう20匹ほど倒したか」

トールが汗を拭いながら、つぶやいています。

「今ので23匹だ」

エマさんが答えます。

「もういい加減大丈夫かな。ノアの方の作戦も終わる頃合いだ。ソア、周囲にまだ魔物はいるか」

「わたしの感知範囲にはいませんね」

「そうか、それじゃ一旦町まで戻るとするか」

そう言ってトールが剣を納めます。

「それは難しいぞ」とエマさん。

「何か問題か?」

「一匹やってくる」

そう言って北の空を指さしました。

「一匹くらいすぐに始末し…」

そう言いかけてトールが固まったのです。エマの指さす先に、一匹の飛竜が飛んでいました。こちらを目指して向かってくるようです。


「いないはずじゃなかったのか。ゴード、盾の用意だ!」

ゴードが剣を納め、両手で大盾を構えます。

「ノアの代わりだ、ソア、ゴードの後ろにつけ」

「ノアの魔法の代わりは出来ませんよ」

「やるしかない!全力で頼む」

トールとエマさんは左右に分かれました。


わたしの魔法の射程内に入ったところで、火球を放ちます。飛竜に命中するも、さほどダメージがあったように思えません。しかし注意は引けたようです。左右のエマさんとトールを無視して、ゴードとわたしに向かってきます。空中でホバリングすると、ブレスの構えです。わたしは、最大威力の火球を飛竜の翼に向かって放つと、ゴードの背にくっつくき、せめてもと思って二人の周囲を冷気で覆いました。ブレスがわたしたちを襲うのと、わたしの火球が飛竜の翼に命中するのが同時でした。背中が熱で焼けそうです。


わたしのお肌が…


永遠かと思えるブレスが途切れ、わたしの放った火球の爆発による爆風がおさまると、目の前でホバリングしている飛竜が目に入りました。残念ながら地上に落とすことは出来ませんでした。ノアのようにはいきません。どうしましょう。


そのとき、エマさんの縄標が飛竜の翼に絡みつきました。傷つけることは出来ませんでしたが、翼の自由が失われ、バランスを崩した飛竜が着地します。

「全力で攻撃だ、飛び上がらせるな!ブレスをさせるな!」

トールが叫んで、剣を振るいます。わたしは、魔法を諦め、毒矢をつがえて放つことにしました。飛竜を相手にする際の、いつもの長期戦の闘いです。ノアさんの魔法がないのが痛いです。


どこに持っていたのでしょう。エマさんが二本目の縄標を飛竜の脚に絡ませました。バランスを崩した飛竜が横倒しになります。これでは空中に飛んでブレスを出すのは難しいでしょう。エマさん、すごいです。


トールが飛竜の口に剣を刺そうとしています。それに気をとられた飛竜の隙をついて、エマさんの槍が飛竜ののど元を貫きました。これならわたしの魔法でもいけそうです。

「エマさん、槍を放して下がってください」

そう叫ぶと、わたしの最大威力で雷魔法を飛竜に刺さったエマさんの槍の穂先めがけて放ちました。エマさんとトールがあわてて後ろにさがります。魔法はエマさんの槍に着弾し、飛竜の身体が痙攣を起こします。それを見たトールが飛竜に突進し、渾身の力で首に斬撃を加えたのです。一刀両断とはいきませんでしたが、半分ほど首に食い込み、飛竜は大きく身体を跳ね上げると、動かなくなりました。倒せたようです。


「やりましたね、トール」

「エマのおかげだ。誰かが犠牲になってもおかしくない状況だった」

二度目のブレスがくれば、犠牲者はわたしだったかもしれません。エマさんに感謝です。

「ノアがいないとつらいですね」

「まったくだ」

エマさんは縄標を飛竜から外しています。槍はわたしの魔法の直撃を受けて大丈夫だったのでしょうか。心配です。あのエンダーの弟子です。きっと高価な槍に違いありません。


「大丈夫か、ゴード」

「無事…」

どうやらゴードも怪我はないようです。被害はわたしの背中の火傷だけかもしれません。なんということでしょう。痕が残ってしまったらミスターに申し訳け出来ません。軍に腕の良い回復術師がいると良いのですが。


トールは牙をとっています。これはかなりの収入です。エマさんの槍が買えますね。ミモザの町に良い武器屋はあるのでしょうか。


「それじゃ、戻るとするか」

牙を手にしたトールが歩き出しました。


★あとがき(撮影現場にて)★


ノア:「ちわー」

こんにちわ、ロケ弁持ってきてくれたんですか。

ノア:「はい、これ」

ありがとうです。魔法でドカン一発だけじゃなく、ちゃんと活躍場面があったでしょう。

ノア:「そうね、まぁまぁだったわね」

まぁまぁ?

ノア:「その後のソアたちのテイクを見学したんだけど…」

あ、飛竜との闘いのシーンですね。

ノア:「ソアが結構活躍してたわね」

主人公もノアもいない場面で、魔術師はソアさんだけですからね。

ノア:「あたしのシーンより、活躍が印象にのこるんじゃないかなー、って」

そ、そんなことありませんよ。印象に残るのなら、むしろエマさんの方が…

ノア:「そうかなー…」

それに、この後もノアの魔法が活躍する…はずですから。

ノア:「今の間は何なのよ。あ、そうだ、あのブレスの場面、無駄に本物の飛竜使ったでしょ」

ええ、以前のテイクのときの飛竜は一ヶ月単位で借りていたので、今度も使わないともったいないとかで。

ノア:「それはいいんだけど…問題はソアが背中を火傷する場面よ」

何か問題でも?

ノア:「本物のブレスを使ったから、本当に火傷しちゃったみたいなのよ」

え、そうだったんですか…

ノア:「台本が悪いって、怒ってたからねー。痕が残ったら責任とってもらうって」

責任って、保険にも入ってもらっているし、専属の回復術師だっているし…契約では…

ノア:「ま、あたしが何とかしてやってもいいんだけど」

お願いします…

ノア:「じゃ、貸しひとつね。あたしの活躍シーンをよろしく!」

えぇと、次回はスライムの対策とか検討する話で、戦闘シーンはないのに、どうやって活躍させろと…


★★ 58話は11月6日00時に投稿

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