55 魔術師、ミモザを訪れる
調査のためミモザの町に向かう一行
町の入り口で兵士に止められ、司令官と会うことに…
ミモザの町はトールの町から馬で一日はかからない距離である。ミモザに続く街道では避難民と思われる集団と何度もすれ違った。町までもう少しというところで、街道の脇にテントがいくつか見えた。近づくと兵士が声をかけてきた。
「止まれ!この先は通行止めだ」
そういって僕たちの前に二人の兵士が立ちはだかる。
「俺たちはトールの町の商人組合の依頼を受けた冒険者だ。組合の方から軍へ連絡が行っていると思うが」
そう言って、トールが依頼の木札とギルドカードを示した。
「ここで待て」
木札とカードを見ると、兵士の一人がテントのひとつに向かって走って行った。すぐに先ほどの兵士が二人の兵士と一緒にテントから出てくる。ひとりは上官らしい軍服だ。僕らのところまでゆっくりとやって来る。その間に僕らは馬から降りて彼らを待った。三人の兵士は僕らのところまで来ると、上官らしき兵士が自分自身でトールの持つ木札とギルドカードを確認した。
「自分はミモザの警備を担当する軍の一員で、この街道を担当する小隊の隊長である。諸君が依頼を受けた冒険者であることは間違いないようだ。自分は冒険者が来たら司令部まで案内するように命令を受けている。ミモザの町の司令部まで兵をひとり同行させるので、諸君はその兵と一緒にミモザの司令部に出頭して司令官と会ってほしい」
「軍の指揮下に入るのは遠慮したいのだが」
「詳細は聞かされていないが、協力をして欲しいだけだと思う。申し訳ないが、司令官と話をするまでは君らの自由行動を認める訳にはいかない」
「そういうことなら仕方がない。会うだけだぞ。まぁ、軍の協力が得られるならこちらも願ったりだ。案内をたのもう」
「ありがたい。カール、おまえに命令だ。すぐに司令部まで案内しろ」
隊長がテントから出てきたもうひとりの兵士に命令を下す。あらかじめ予想していた事なのか、その時には別の兵士が僕らの所へ馬を引いてきている。
「第三小隊のカールであります。自分がみなさんを司令部まで案内させて頂きます」
カールと呼ばれた兵士がトールに頭をさげた。
「急を要する事態ゆえ、すぐに案内させて頂きます。自分の後に続いてください」
そう言って馬に乗る。僕らも馬に乗って彼をカールと名乗った兵士を先頭にして街道を走り出した。
すぐに町の入り口に到着した。コレトのように壁で囲まれてはいない町だ。そのまま町の中央の広場に進んだ。広場には以前乗ったことのある移動司令部ともいうべき大型の馬車が止められている。僕らは馬を降りて、カールの案内で司令官がいると思われる馬車に進んだ。
「第三小隊のカールです。商人組合の依頼を受けた冒険者を案内して参りました」
馬車の前の警備兵に報告をしている。
「しばし待て」
そういうと、警備兵は馬車の扉をノックし
「冒険者が到着しました」
と中に報告する。
いちいち面倒なことだ…
扉があき、一言二言、馬車の中の人物と言葉を交わすと、こちらに戻ってきた。
「司令官殿がお会いになる。リーダーは馬車の中へ入れ。帯剣のままで良い」
偉そうだな…
「それじゃ、ちょいと司令官様に会ってくるかな。みんなはここで待っていてくれ」
そう言うとトールは警備の兵士に案内されて馬車の中に入っていった。残された僕らにカールが声をかけてきた。
「自分はこれで失礼させていただきます。すぐに小隊にもどらなければなりません」
そう言うと、頭を下げ去って行った。
トールを待つ間にノアに聞いてみた。
「ノア、魔術師にはテイマーっているのか」
「テイマーって?」
「魔物や、場合によっては人間を操る魔法使い」
「魅了魔法のこと?」
「そう、それ」
「太古の言い伝えには存在が語られているね。でも、信じている魔術師はいない。おとぎ話だね」
「そうか…」
「なぜ?まさか…ミスターは使えるとか!」
「いや、そんな力はないよ」
「そうだよね、そんな魔法があればミスターにかけて…」
「それは止めてね」
「でも、どうしてそんなことを聞くの?タルトさんの話だと、見える範囲全部スライムなんて言ってたくらいだから、話半分に聞いても数千から数万匹はいるよね。全部あやつるには、魅了が使える魔術師がいたとしても、めちゃくちゃ大勢必要じゃない。そんなにいるはずがないね。そんなにいたら、秘密になんてできないから、魅了魔法が知られていないはずがないよ」
「いや、スライムを操るんじゃなくてね」
「じゃ、何を?」
「飛竜あたりをたくさん操って、こう横一列に並べてブレスで…」
「ああ、ブレスなら爆発じゃなくて焼き払う感じだものね」
「でも、いないんじゃ机上の空論だよな…」
「焼き払うんじゃなくて、あたしの広域冷却魔法ならどうかな」
「ノアひとりいてもなー…あれって、使える魔術師って王国には何人いる?」
「あたしがやり方を教えれば…やっぱり10人くらいか…」
「スライムの群れ全部を凍らすのは無理っぽいな」
「凍らせるのならミスターだって出来るんじゃない?オーク退治の時、温度を上げて濡れた服を乾かしてくれたじゃない。温度を下げる方はできないの?」
「できるけどね、ノアの魔法よりも効果の範囲はずっとせまいから」
「ミスターが加わっても、焼け石に水か…」
「それに、凍らせたら死ぬのか?解凍したら元通りなんてことも…」
「それじゃ、飛竜のときみたいに、空高くテレポートさせちゃうのは?一度で無理なら端から順に…」
「空高く放っても、いずれ落ちてくるぞ。落ちる途中でばらばらになって破片がそこら中にばらまかれることになりかねない」
「じゃあ、ええと、ミスターがスライムの群れを少し離れた場所に端から少しづつテレポートさせて、あたしや宮廷魔術師が交代で焼き払うってのはどうかな。一度にテレポートさせるスライムの範囲を半径100メートルくらいにすれば、跡形もなく焼き払えるから破片の心配もないよ」
「それ、僕が何回テレポートさせることになるのかな…。それに魔術師の方も、そのレベルの魔法を何回連発できるのかな。とても間に合わない気がするんだが」
「そうだよねー。弱っちい魔物なのに数の暴力って半端じゃないねー」
「スライムだったとしても、まだ移動前でそれほど数が増えてなけりゃいいんだけどね」
「スライムってさ、どうやって移動するのかな」
「どうやってとは?」
「こう、ボヨンボヨンって感じで跳ねるのか、地上をズズーってナメクジみたいに這うのか…まさか空を飛ぶなんてことはないよね」
「空は飛ばないと思うが…」
「だったら、狼の時みたいに大きな穴を掘っておけばそこにみんな落ちちゃうんじゃない。そこを魔術師たちが極大魔法でドカンドカンと。そして、穴の上は魔法で風をコントロールして破片が穴の外へ出てかないようにするっていうのはどうかな」
「ふむ、案外いけるかな…試して見る価値はあるかもな」
「えへ、褒めていいのよ、もっと褒めてー」
「上手くいったらな」
そんなことをノアと話していたら、トールが馬車から出てきた。
「待たせたな」
「司令官とはどんなお話を?」
ソアが訪ねた。
「魔物が移動している理由は軍も把握していないそうだ。スライムではと聞いてみたが、魔物の対処に手一杯で、調査する余裕がないそうだ」
「スライムかどうかはできるだけ早く確認しないといけないのに…」
「軍としては目の前の脅威を放置はできんだろう」
「しかし…」
「そこでだ、調査の方は俺たちに任せるとのことだ」
「それなら早速でかけましょう」
「いや、それだけじゃないんだ。実は魔物の群れのひとつがこの町に向かって来ている。このままでは町に被害が出る」
「それは軍が対処するのでは」
「そうなんだが、向かってきている群れが他の群れよりも大きく、従軍してきた宮廷魔術師だけでは人数が不足しそうだとか。宮廷魔術師はふたり派遣されている。そいつらの話では3人入ればなんとかなるとか。そこでノアだ。宮廷魔術師の間でもノアは知られているからな。力を貸してほしいそうだ」
「ノアひとり増えても…」
「殲滅が目的じゃない。進む方向を町からそらす作戦だそうだ」
「それではスライムの調査は」
「調査もするさ。ミスターに任せる。ミスターならテレポートも飛行魔法もあるからな」
「かまいませんよ。ドラゴンと違ってスライムなら、かなり近づかなければ襲ってはこないでしょう。僕だけで充分です」
「わたしたちは何もできないのでしょうか」
アリサがトールに訪ねる。
「そんなことはない、群れからはぐれた魔物を狩る必要がある。ばかでかい群れだからな、はぐれたり置いてけぼりにされたりで、単独で移動している魔物もかなりいるそうだ。軍もほとんどの小隊がその仕事にあたっている。俺たちも自分の判断で行動していいそうだ」
「あたしは?」とノア。
「ノアは司令官のところに行って、指示に従ってくれ。宮廷魔術師と一緒に行動することになる。それと、アリサはノアの護衛だ。一緒について行ってくれ。司令官にも話はしてある。軍の兵も護衛につくが、念のためだ。よろしく頼むぞ」
アリサが僕の方に顔を向けたので、無言で頷いた。
「わかりました、ノアさんと一緒に参ります」
「ミスターはスライムの調査に向かってくれ、北の森の先だ、頼むぞ。他の者は俺と一緒だ」
すぐにでも仕事にかかろうとするトールだったが、ソアが止めた。
「緊急なことは判りますが、朝にトールの町を出てから休みなしです。少し休憩を取ってからの方が良いのでは」
「そういや、そうだな。腹も減っているか。どこかで飯でも食ってからにした方が良さそうだな」
警備の兵に食事の出来る場所を聞くと、トールは
「先に行っててくれ、協力するのは飯を食ってからだと司令官に断ってくる」
そういって移動司令部の馬車に向かって行った。
★あとがき(撮影現場にて)★
ノア:「ちわー、はいこれ、今日のロケ弁」
ありがとうー。
ノア:「昨日はご苦労さん。母はあんたのこと気にいったようよ。父は…ビジネスを任せるには少し頼りないかななんて言ってた。次はもっと堂々としててよね」
ビジネスを任せるにはって、仕事の話は監督にするように言ってくださいよ。僕はただの作家志望の脚本担当ですから。
ノア:「うー、あいもかわらず…仕方がない、こうなったら…」
ノア:「ところで明日も休みよね」
そうですね、奇数日が休みですから、月末以外は一日おきに休みですね。
ノア:「ちょうどいいわ、明日は一日あたしにつきあいなさいよ。夕食をおごるから」
おごってもらえるなら、いつでもお供しますよ。でも明日はちょっと予定が…
ノア:「しょうがないわね、じゃ、近いうちでってことで、約束よ」
わかりました、その時はまた言ってください。予定がなければご一緒させていただきますから。
ノア:「ところでスライムはいつになったら出てくるのよ」
次の話で出す予定です。
ノア:「あたしが魔法で…」
あー、まだ主人公が遭遇するだけですよ。
ノア:「なんだ…」
でも、ノアは魔物相手に活躍しますから。
ノア:「派手な活躍場面を期待してるね」
期待してるねって、台本ちゃんと読んでますよね。
ノア:「ヨンデマスヨー」
ああ、カタカナで返事してる…読んでないでしょ。
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