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05 魔術師、パーティーに入る

よかったぁ、こっちの世界では使えないかもって不安があったんだが、ちゃんと使えるようだ。魔法?いや、超能力。実は僕の特技って超能力なんだ。小学生のときに目覚めたんだが、ずっと内緒にしてきた。ばれたりしたらろくなことにならないってのは小説でもマンガでも定番だからね。どんな能力がつかえるのかって。超能力って基本的にエネルギーをコントロールする力で、コントロール次第でいろいろな効果が発揮される。だから物理法則を知り、イメージさえできればどんな効果も思いのままなんだ。まぁ、霊魂とか死者をあやつるとか、物理法則によらないオカルト的なものは無理だけどね。だから、大学は物理学科に進んだ。物理法則を知れば知るほど出来ることが増えていくからね。いまでは、もう、自分で言うのは何だけど、どこぞの超人なみの無敵さだと思う。魔術師ってのはごまかすためにもってこいの職業だった。手品なんか僕はひとつもできない。全部超能力でやってたんだ。種がばれるはずがないよね。種なんてないんだから。


「なにそれ!魔力ゼロなのになんで魔法が使えるの!」

「魔法じゃない、僕の特技ですね」

「トクギ?魔法にしか見えない」

「似たようなものかな」


うまく説明できないから炎ということにしておこう。僕は手を振って、さっきの岩めがけて炎の塊を投げた。ノアの魔法と同じように、炎の塊が飛んでいき、岩に命中する。閃光と爆音。煙が晴れると、岩の上半分が消え去り、のこった部分は赤熱している。


「すごい…、あ、逃げよう。さすがに二度も爆発があると番兵がやってくるよ」


大急ぎでその場から逃げ、宿にもどった。幸い番兵に出会うことはなかった。


「まだソアもトールたちも戻っていないね」

「そのようだね」

「エリカさーん!何か飲み物をちょうだい!」

どうやらここの女将はエリカさんというらしい。

「はいよ、エールふたつ、銅貨2枚ね」

ノアを手で制して、僕が払う。銀貨や銅貨はまだ持っていないので金貨を1枚わたすと、一旦奥の部屋に戻り、巾着袋にいれた釣りを持ってきた。

「袋はサービスだよ」

僕に渡すともういちど奥に行って、今度はエールのカップを2つ持ってきた。

「まいどあり、ノアちゃんがいるからアルコールはないやつだよ」

「はい、僕も酒は飲みませんから」

「おやまあ、酒を飲まない男がいるなんて、ビックリだよ!わたしを嫁にもらってくれないかい」

「ダメだよー、エリカ!」

「冗談だよ、冗談」


エリカさん、笑っているけど眼がマジですよ。

ほんとうに冗談ですよね…

それにノアさん、ダメっていうのは…

ちょっとうれしい、いや怖いですよ。

いったいどうしたんだろう、

日本にいたときは女性と話すら出来なかったのに。

姿形だって変わってないのになぁ…


エールを飲んでいるとソアさんが戻ってきた。

「先に戻っていたのね、ノア。ミスターの登録は無事に出来ましたか?」

「うん、出来たよ。ミスターもあたしたちと同じ冒険者だよ。それにすっごいこともあったんだ」

「なんでしょう、すごいことというのは?」

「内緒!」

「ミスター、まさかノアに手を出したりしなかったでしょうね」

ソアさん、眼が怖いです。

「まさか、そんなことは怖くてできませんよ」

「えー、あたしは怖くなんてないよー」

「ノアは黙っていてね。武器と防具は買ってきました」

そう言うと手に持っていたレイピアと、布の包みをひとつ差し出した。

「ついでに短剣も買ってきました。包みの中に入っているから注意してください」

「ありがとうございました。たすかります。代金はいかほどでしょう」

「ちょうど金貨8枚。予算通りです。短剣はわたしのおごりということにしてください」

ソアに金貨8枚を渡し、レイピアを手にとって見る。予想以上に軽い。これなら僕でも扱えそうだ。フェンシングと思えばいいかな。

「部屋に行って着替えてきたらいかがでしょうか。鎧下も一緒に入っています。着替えたら戻ってきてください。サイズを見てさしあげます」

僕は荷物を持って部屋に向かった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「何よノア、にやにやして」

「魔術師のあたしにだって判るよ。あのレイピア、どうみても金貨10枚はするよね。防具とあわせて本当は全部でいくらかかったのかなー」

「いくらでもいいでしょう、わたしが払ったのですから」

「どーしてそんなことするのかなー。お金には細かいのに」

「どうでもいいでしょう。あまりにも非力でしたから、少々かわいそうになっただけです。せめて武器や防具はいいものにしないとすぐに命を落としてしまいそうです。ミスターにもトールたちにも言わないでくださいね。言ったらこうですよ」

ソアは両手を握ると、ノアの頭にあてた。

「ちょっとー、言わないから止めてー」

「おう、みんな戻っているか。ミスターはどうした、ノアと一緒じゃないのか」

トールとゴードが戻ってきた。

「ミスターなら部屋で着替えてるよ。ソアったら自腹を切って…あ痛たた、言わない、言わないから止めて」

「なんだ、何かあったのか」

「何もありません。ノアが調子にのってふざけだだけです」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


着替え終わって戻ると、トールたちも帰ったようで、皆はテーブルの席に着いていた。

「お、なかなか様になってるじゃないか。立派な冒険者だな」

「サイズもちょうどですね。わたしの見立てに間違いなかったわ。調整の必要もなさそうです」

「みんなそろったねー。夕飯に行く?どこで何を食べる?」

「すまん、その前にちょっと一息つかせてくれ」

「食事前なのに飲んだりするからです」

「そうだそうだ、ミスターを見習え。ミスターはお酒のまないんだよ」

「そうなのですか、優良物件ですね」

「なに言ってるの、ソア」

「きにしないでノア、大人の話です」

「あたしだってもう16、子供じゃないよ」

「そんなことはもう少し、育つべきところが育ってから言ってください」

「あー、なにそれ。魔術師の女は例外なく大きいんだぞ。あたしだってもうじき」

「はい、はい、そうなってから言いましょうね」

「ところでトールさん、あなたがたはどんないきさつでパーティーを組んだんですか」

ノアとソアの話が変な方向に向かいだしたので、話題を変えてみた。

「俺たちは同じ村の出身だ。幼なじみってやつだな。俺もゴードも長男じゃなかったので家にいてもしょうがない。二人で相談して4年前にこの町にきて冒険者になったんだ。そのときソアが一緒にいくって言い出してな、止めても聞かなそうだったんで一緒に行こうって言ったんだ。そしたらよ、ソアの後ろにそいつ、ノアが隠れていやがって、着いてきちまったんだ。帰れと言ったんだが、通りの真ん中で寝転がって、うそつきー、騙されたーなんて大声で叫びだしやがって、人が集まり、番兵はやってくるはで、つい、わかったから叫ぶのは止めろって言っちまったのが運の尽きというわけさ。まあ登録してみたら、この町のギルド始まって以来の魔力量で大騒ぎになり、素質もあったのか1年もしないうちに天才魔術師様になっちまったという訳だ。おかげでパーティーとしては大助かりなんだが…」

「女性の冒険者って珍しいみたいですね、ノアに聞きましたけど」

「ああ、冒険者の女を嫁にしようなんて男はいないから冒険者になろうって女はめったにいない、ソアもノアもこの器量だから遊びで誘うやつは山程いるが、それでも嫁にしようなんてやつは一人もいない」

「トールさんとゴードさんはどうなんですか」

急に目を泳がすと

「いや、ほら、俺たちはガキの頃からの幼なじみで、ガキの頃のふたりを知ってると、そんな気持ちにはとてもなれねえよ」

「子供の頃って、どんなだったんですか」

「そりゃあもう、恐ろしい…」

「わー、わー、聞こえない!聞こえない!」

「そんな昔の話は憶えていませんわ、ねえ、ノアさん」

「そう、そう憶えていなーい。憶えていなーい」

「子供の頃に何かあったんですか。今のお二人はとても魅力的にみえますが」

「お、そう思うか、ミスター。それならソアを嫁にもらってくれないか。そろそろいい年だし。なんならノアもおまけにつけるから」

「なんで、あたしがおまけなのよ!おまけって言うなら行き遅れのソアだよねー」

「わたしが行き遅れですって!」

「21でひとりもんなら立派に行き遅れじゃん。あたしはまだまだこれからだもんね」

「いや、それはちょっと…それに二人って」

「ここらでは嫁は何人でももらえるぞ。お前の生まれたところじゃ違うのか。まぁそうは言っても貴族様や大商人ならともかく、ほとんどは一人だけどな」

「金もかかるし……」

お、またゴードがしゃべった。

「お金なら心配ないよ、冒険者やめても魔法でいくらでも稼げるから。あたしを嫁にすれば一生遊んで暮らせるよー、それにソアもおまけでついてくるし、超お買い得だよ」

「なぜわたしがおまけなのでしょうか、ノアさん。おまけはあなたの方でしょう。ちょっとここへきなさい」

「わー、ぐりぐりはやだよー」


ノアが逃げ出すと、ソアが追いかけていき、テーブルに男三人が残った。

「今日あったばかりなのに、訳がわからないのですが…」

「このあたりでは独り者でまっとうな男は少ないんだ。だから女はなんとか嫁に行こうとする。行き遅れた女ならゴロゴロいるぞ。まともな男ならよりどりみどりだ、まともならな」

「どうして男がすくないんですか」

「冒険者になってばたばた死ぬからな。長男だったら家を継ぐが、ものごころ着く前には許嫁が決められていて16になるとすぐ一緒になっちまう。町で暮らすまっとうな男は皆あいてが決まっている」

「でもギルドには結構若い男の冒険者もいたようですが」

「冒険者はダメだ。嫁をもらって地道に暮らそうなんて欠片も思ってねぇやつらばかりだ。人のことはいえねぇけどな」

「僕も冒険者ですけど」

「冒険者らしくねぇ。人も良さそうだ。悪いことは言わねえからあの二人を嫁にして冒険者なんかやめときな。ノアの言うように、あの二人なら十分金を稼げる。あんたが弱くても十分守ってもらえる。ノアの魔法はとんでもなく強力だからな。記憶をなくして右も左もわからねえあんたにはいい話だと思うがどうだ。おまけに二人はあんたに気がある。わかるだろ。あんたは遊んで暮らしてればいい。二人を大切にしてくれるなら俺もゴードも文句はねえよ」

「でも、ソアもノアも冒険者になりたくて一緒に村をでたんでしょう」

「冒険者になりてぇてのは言い訳だ。ただ村を出たかっただけだ。五体満足命があるうちに冒険者はやめさせてぇんだ、俺は」

「同意…」

「あの二人が男に興味を示したのは、村を出てからあんたが初めてだ。だからあんたに頼んでいる」


はぁはぁと息を切らしてソアとノアが戻ってきた。どこまで追いかけっこをしていたんだ。

「少し考えさせてください。何しろ今日会ったばかりですからね」

「いいぞ、しばらく一緒にパーティーを組もう。その間に…」

「ねぇねぇ、なんの話をしているの」

「ミスターを俺たちのパーティーに誘ったんだ」

「それはいいですね。わたしは大賛成です」

「わーい、一緒のパーティーだ」

「よろしくお願いします」

「ああ、よろしく頼む。しかし、そのばか丁寧なしゃべり方はなんとかならんのか、とても冒険者とは思えん。なめられるぞ」

「いえ、もうこれが普通なので変えようと思っても…」

「さっきあたしと話してたときはもっとくだけてたよね。やっぱりあたしは特別?」

「いやそれは…」

「大丈夫、ミスターをなめるやつはあたしが消し炭にしちゃうから。それにそもそもミスターが特技を…」

「あー、わたしがなめられたからって、やたらに魔法を放たないでくださいね、ノアさん」

「トクギって何のこと?そんなことよりそろそろ食事にいきませんか」

「ソアに賛成!」

4人と一緒に宿を出て、トールの案内のまま飯屋に入った。ソアとノアが気になって、異世界で食べる最初のまともな食事は微妙な味だった。



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