49 魔術師、陰謀を知る
王都のギルドは一日中閉じることはない。王都につくとギルドに直行して、情報収集である。ひとつはマークス夫妻の護衛をした冒険者の件、もうひとつはメリッサの目を治せるといった回復術師の件である。残念ながら冒険者の情報はなにひとつ得られなかったが、回復術師の方は、モルト氏から聞いた名前をあげると、すぐに屋敷を教えて貰うことが出来た。まだ夜も更けてなかったので、早速その回復術師の屋敷を訪ねてみることにした。
回復術師の屋敷は庭こそないけれど、立派な作りの大きな屋敷だった。入り口の扉は閉まっていたが、施錠はされておらず、押すと音もなく内側に開いた。扉の内側は椅子がいくつか置かれている小さな部屋で、奥にもうひとつ扉がある、その扉の横の天井から紐が下がっていた。
「ここは患者が待つための部屋のようだな。あれが来客を知らせるための紐なのだろう」
「引いてみるねー」
ノアが紐を引くと、扉の向こうでベルがなり、しばらくすると奥の扉が開いてローブを着た男が声をかけてきた。
「夜分訪ねてくるとは、急な治療が必要な方ですかな」
「いや、僕たちに治療は必要ありません」
「では何のご用で?」
「ええと、回復術師のナーゲルさんのお屋敷はこちらでよろしかったでしょうか」
「はい、私がナーゲルです。夜分ゆえ使用人は帰っていまして、今は私ひとりです」
「こちらで目の治療をしてもらうことになっていた少女の件でお訪ねしたいことがあるのですが…」
「ああ、確かそんなお話がありましたな。しかし、その少女は約束の時間に現れず、それっきりになってしまいましたが」
「すみませんが、詳しいお話をお聞かせ願いたいので、中へ通していただけないでしょうか。僕たちはその少女と関係のあるもので、僕はミスター、こちらの二人はノアとアリサといいます。みな冒険者です」
「詳しい話といっても、お話できるようなことはないかと思いますが…とりあえず、中へお入りくださいな」
扉を抜けると中は診察室になっていて、奥に机があり、僕たちが入るとナーゲル氏は席に着くと、机の上の大きなノートのページを繰りだした。
「たしかにそのような少女の治療を依頼されていますな。記録によればコレトの町のマークスという夫妻からの依頼で、治療が必要な少女はメリッサという名前だとあります」
「そう、その少女です。マークス夫妻は誰かからあなたのことを聞いて治療を依頼したのですが、誰があなたのことをマークス夫妻に紹介したのか心当たりはありますか」
「いや、ありませんな」
「そもそも、僕の知る回復魔法の使い手も、生まれつき見えない目は回復魔法では治療できないと言っているのですが、あなたには治療できるのですか?」
「それは…」
「ほんとうに治療できるなら評判になって、皆に知られていてもいいはずですね。マークス夫妻は娘さんの治療ができないか手を尽くしたそうですが、あなたのことは知らなかった訳です。本当にあなたに治療は出来るのですか」
「…」
「マスター、わたくしが尋ねて見たいのですが、ご許可いただけますか」
「あー、でも、アリサが聞くと、相手が死んじゃうでしょ」
「問題はございません。死ぬ前に聞くべき事にはちゃんとお答えいただきますから」
アリサの言葉を聞くと、ナーゲル氏は小さな悲鳴を上げて椅子から滑り落ちた。
「わしに治療は出来ん!治療できると言えと頼まれただけじゃ」
「誰に頼まれたのでしょうか」
「コレトの町の商人でバーノン…」
そのとき、ノアが叫んだ。
「魔法が来る!大きい」
僕はノアとアリサ、それにナーゲル氏を連れてテレポートで上空に逃げようとしたが、ノアが叫んだ瞬間に逃げ出そうとしたのか、ナーゲルは扉に向かって走り出し、テレポートの範囲から抜け出てしまった。テレポートが発動するのと壁を破って診察室に火球が飛び込んで来たのが同時であった。
部屋の外は視認できないので、安全を図って上空100メートルあたりを思い浮かべて転移した。偶然その位置に鳥がなんてことも可能性が完全にゼロとは言えないが、ごくわずかなリスクはこの際しかたがない。普通ならそんなリスクは侵さない。ナーゲルの屋敷の上空から下を見ると、屋敷は爆発で崩れ落ち、火災も発生していた。ゆっくりと下降していくと、崩れ落ちた瓦礫に押しつぶされ、血を流して動かないナーゲルの身体が見えた。
「ノア、魔術師はどこか感知できるか?」
「もう近くにはいない。魔法を撃つと同時に逃げたのかな」
「野次馬が集まってきたな。野次馬の中に結果を見届けに来た奴も混じっているに違いないが…どいつだか分からんな」
野次馬に見つかる前に、少し離れた位置に降りた。
「バーノンといっていたな」
「言っていたねー」
「黒幕はわかったが、証人のナーゲルが消されてしまった」
「バーノンってやつ、問答無用でやっつけちゃえばー」
「そうはいかんだろう。アリサ、すまんがしばらく野次馬を見張って、怪しい奴がいないか見ててくれ。ノアと一緒にギルドで待っているので、何か分かったら報告を頼む」
ギルドで待っていると、しばらくしてアリサが戻ってきた。怪しい人物がいたので後をつけたという。ギルドでは人目もあるので、宿をとってそこで話をすることにした。
「騒ぎを聞いて駆けつけ事件の収拾にあたっていた兵士に、ナーゲルの生死をしつこく確認していた野次馬がいました」
「あやしいねー」
「そこで後をつけて見たのですが、その男はこの地区を縄張りとするギャングの組織の屋敷に入っていきました」
「組織の屋敷だってどうしてわかったのかな」
「それは…秘密です」
公爵家の裏組織からの情報かな…
「夜が更けて商業エリアが外出禁止時間になるまで監視して、戻ってきました」
「それなら明日朝一番で行けば、そいつはまだ屋敷の中にいるって事だな」
「ですねー」
「じゃぁ、明日の朝、みんなで行ってアリサに事の次第を聞いて貰うことにしようか」
「お任せください、マスター」
「あー、でもその組織は大きい組織なのかな」
「王都の組織としては中堅です、マスター。しかし、組織の本拠地は市民エリアです。逃げ込んだのは商業エリアの根城ですからそれほど大勢はいないと思われます。都合がいいことに、市民エリアから商業エリアには検問がありますから、本拠地からの応援は簡単にはやってこれません」
「決まりだな、すばやくやって、騒ぎで番兵がやってくる前に方をつけてしまおう」
「方をつけるって」
「証人となれる奴をひとり捕まえて、コレトの町に連れて行く。テレポートがあるから簡単だと思うぞ」
翌朝、日の出前の薄暗い時間に、組織の根城の屋敷の前に三人で立っていた。
「どうするのかなー、ミスター」
「どうせ力任せだし、丁寧に訪問する必要はないだろう」
「じゃぁ、あたしにまかせて。扉をぶっ飛ばすから」
「いや、大きな爆発があると番兵がすぐにやって来そうだからな、扉は僕がやるよ」
僕は扉の前に立つと、レイピアを数回振った。ドラゴンの爪とアダマンタイトのレイピアは扉をチーズでも切るかのように切り裂き、扉はばらばらになった。
屋敷の中に入ると、ノアが中に人がいると感知した部屋は、扉を吹き飛ばして問答無用で中に火球を投げ込んでいく。まぁ、手加減をしているようなので、消し炭にはなっていないだろう。一階の部屋を殲滅している間、騒ぎで二階からチンピラたちが降りてきたが、アリサによって片端からたたきのめされていた。なまじ少しばかり腕の立つ奴はアリサのダガーに喉を切り裂かれている。降りてくるチンピラがいなくなったところで僕らは二階に上がった。ノアの感知で、屋敷から逃げだそうとする奴がいないことは確認済みだ。二階にあがると、廊下の奥にひときわ重厚そうなドアがあった。
「それじゃ、この根城のボスに会うことにしますかね。証人が必要だから、ノアもアリサも問答無用でやらないようにしてね。とりあえず、扉を吹き飛ばすかな」
「いいよー」
僕が光の槍をを扉にぶつけると、小さな爆発で扉が中に吹き飛んだ。扉の前で待ち伏せしていた用心棒らしき男が二人、扉の瓦礫の下敷きになって伸びている。僕が部屋の中に入っていくと、扉の横で待ち構えていた用心棒が剣を振るってきたが、僕の障壁に剣を遮られて驚いている間にアリサのダガーが喉に突き刺さった。
「マスターに剣を振るうなど、万死に値します」
それと同時に、部屋の奥で僕に手のひらを向けていた男は、ノアの干渉魔法で意識を奪われた。
あぶなかった…
最初にノアかアリサに干渉魔法を使われたらと思ってぞっとした…
もっとも、あとで聞いたら、アリサはちゃんと射程外の距離を保っていたし、ノアはボスの部屋に入る前には魔力は沈静化していたようだ。
この世界の闘いに慣れていれば、僕のようにうっかりすることはあり得ないとか…
「大丈夫、殺してないよ。睡眠だよー」
ナーゲルの屋敷に火球を投げ込んだのはこいつに違いない。
「魔術師は危険です」
そういいながらアリサが意識のない魔術師の喉を切り裂いた。
相変わらず容赦がないな…
しかし、アリサの言うとおり魔術師の干渉魔法は危険すぎる。
僕には効かないが、ノアやアリサはそうではない。
干渉魔法の睡眠はそれほど長くは効いていない。
いつ意識がもどるかわからない。
そのとき干渉魔法を使われたら…
アリサの行動も仕方がない。
アリサの行動を見た残りの男たちは戦意を失い、武器を捨てた。
「アリサ、野次馬に混じって探っていたのはいるか?」
アリサは黙ってこの根城のボスらしき男の側で震えている男を指さした。
「ナーゲル殺しを命じたのはあんたなのか」
ボスらしき男に聞く。男は何も答えない。
「さて、どうしたものか…。コレトの町のバーノンに頼まれたことは分かっている。ナーゲルが死んだので、それを証言してくれる証人が必要なんだが、誰か証人になってくれる者はいるのかな」
誰も答えない。ボスらしき男が口を開いた。
「無駄だ、そんなことをすれば組織が黙ってはいない。そんな奴はすぐに殺される」
「そうか、それなら選択肢はふたつしかないな。今ここで死ぬか、組織から逃げられることに賭けるか。端から順に、どっちを選ぶか聞いてみてくれるかな、アリサ。証人は一人いれば充分だ。聞いている最中に死んでも気にしなくていいぞ」
少し、脅してみたが、誰も口を開かない。アリサが最初の一人を引っ張り出し、部屋の隅で尋問を始めた。
これまでアリサの尋問を実際に見たことはなかったが…
その男は残念ながら、いや、不幸にも詳しい事は知っていなかったようだが、それにも関わらず証人になるからとアリサに何度も何度も呻くような声で懇願しながら意識を失って倒れた。
まだ命はあるようで、毒に侵されて痙攣しながら言葉にならない声を発している。この様子を見ていた男たちは我先にと証人になることを訴え始めた。唯一人、押し黙っているボスを見ると、アリサがダガーを持って近づいていった。アリサが目の前に迫ったところで、そのボスも落ちた。
「そろそろ、番兵がやってくる頃かな。ボスを連れて引き上げようか」
アリサが生き残っている連中を縛り上げている。一階の生き残りも一緒だ。
「わたくしたちのことは決して口外なさらないようにお願いします。もしも口外なされた場合には、そちらで痙攣されている方と同じ目にあいますから」
全員が必死に頷いている。
アリサがあきらかに以前とは変化している。以前なら、僕がなんと言おうと口ふさぎに皆殺しにしていただろう。
「それじゃぁ、帰るぞ」
僕はボスを連れて、全員でコレトの町にテレポートした。
★あとがき(撮影現場にて)★
ノア:「あんた、何したのよ!」
何したって…
ノア:「あたしが取材を受けてる間に、ここでアリサと二人っきりで」
二人っきりって、今だってノアさんと二人っきりじゃないですか。
ノア:「あたしはいいのよ、大人だから。アリサは16よ。現役女子高生よ。このロリコン!」
誰がロリコンですか、アリサの方がよっぽどおとなですね。
ノア:「あー、アリサって呼び捨てにしてるー。あたしはさん付けなのに」
ノアさんは有名女優ですからね、さん付けしないわけには…
ノア:「さん付けだとよそよそしい!」
じゃぁ、ノアちゃん。
ノア:「ちがーう!」
呼び方なんてどうでもいいじゃないですか、それよりも次のテイクからゾルドバ戦です。ノアさん、あー…ノア、あなたの戦闘シーンですよ。ノアのオリジナル魔法も出てきますからね。




