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48 魔術師、マークス商店を訪れる

「聞いてきたぞ。捜索の依頼は出ていたが、こっちのギルドでは受けた冒険者はいなくて、コレトの町のギルドで誰かが受けたんじゃないかという話だ」

「結局、何が起こったかはわからない訳ですね。メリッサを買い取った僕には責任があるし…」

「よーし、こうなったら、みんなでコレトの町に行って調べてみよー」

「依頼もなしでか、ただ働きになるぞ」

「責任があるのは僕ですから、僕が依頼を…」

「あたしが依頼するよー」

「なんでノアが」

「だって、どうにかしないと、絶対に増えちゃうじゃん。メリッサが5人目に…」

「あー、とりあえずコレトにいってみよう。まだメリッサの両親の店が残ってりゃ、店の誰かが依頼人になるかも知れんしな」



翌日朝早く僕らはコレトの町に向かって出発した。護衛対象の荷馬車などもないため、その日の夕方早くには到着した。


「ギルドに行って情報を仕入れてくる。ミスターとノア、それにアリサはマークス商店がまだあるのか調べておいてくれ。ソアはエマとメリッサを連れて宿に行って部屋を取っといてくれ。前と同じ宿でいいだろう。ゴードも一緒に頼む。それじゃぁ宿で会おう」



僕らは荷物をソアたちに宿まで運んでおいてもらうことにし、町の広場にいってマークス商店について尋ねてみることにした。評判の良い店だったようで、町の人はよく知っていた。事件のあとはすっかり寂れてしまって、いまでは店の番頭が一人だけ残って細々とやっているとか。僕らは店の場所を聞くと、さっそく訪ねてみることにした。


マークス商店につくと、店の前には5,6人のチンピラがたむろしていた。僕らが店に入ろうとすると、前に立って邪魔をしてきた。


「お兄さん、買い物かい。この店はダメだ。よそにしときな」

「いえ、買い物ではありません。店の人にちょっと用事がありまして」

「そうかい、でも店じゃあんたに用はねぇってよ。さっさと帰えんな」

「何、お手間は取らせませんので、失礼しますよ」

そう言って店に入ろうとすると

「帰れっていってんだろう。言って分からなきゃ…」

チンピラの一人が僕に殴りかかろうとして腕を振り上げた。

「マスターに手をあげるなど万死に値します」

そういってその腕の手首をつかんだ。チンピラはふりほどこうとしたが1ミリも動かせない。

「あぁ、万死はダメだよ、アリサ。やさしくね」

「御心のままに」

「なにすんだ、このアマ!」

チンピラの仲間達がアリサにつかみかかろうとすると、アリサがつかんでいた手首から鈍い音が聞こえたかと思うと、アリサの姿が消え、手首を押さえて呻いている男が残された。アリサを見失ったチンピラたちが周りを見回していると、その後ろの方から

「こちらで御座います」

と声がかかり、チンピラたちが振り向くとアリサの手が振られ、チンピラたちが悲鳴をあげた。チンピラたちのつま先に針のようなものが刺さっている。

「まだ何かご用が御座いますか?」

アリサが言うと、チンピラたちは這々の体で逃げ去っていった。

「これでよろしかったでしょうか、マスター」

アリサも少しは変わってきたのかな。最初の頃だったら、問答無用で皆殺しだったかも知れない。あらためて店に入ろうとすると、声がかけられた。

「面白い武器をつかうな」

冒険者風の男がひとり立っていた。干渉魔法の射程内だ。よほどの間抜けじゃなければ、こいつは魔術師に違いない。アリサはすでに射程外まで後退している。

「何をしにこの店に来た

そう言って僕ら3人を見る。アリサはチンピラと出会ったときに、インバネスを脱いでメイド服姿になっていた。

「おまえら…もしやガジンをやったやつらか」

「そうだったらどうする」

「一人で相手をするのは厳しそうだな。出直すことにしよう。おれはゾルドバだ。次に会うときが楽しみだ」

「逃がすとでも」

アリサがそう言うと周囲を見渡して、

「ここじゃぁ巻き添えがでるぞ、いいのか」

「そいつは困るな。今日はこの店に用があってきたんだ。あんたたちはこの店に何か関わりがあるのか」

「俺は知らん。店の奴に聞け。じゃぁな」

そう言って去っていった。


「まだガジンのこと根に持っているんだー。しつこいのは嫌われるよね」

めずらしく黙って見ていたノアが、アリサにインバネスを渡している。

「はい、これ。次からは、いきなり脱いであたしに渡さないでよね」


ガジンがらみだと、ゾルドバってやつは王都の組織の関係者か…。メリッサたちも王都に行く途中で襲われたみたいだし。店に誰かはいるようだから、とりあえず聞いてみるか。


僕らは店の入り口をくぐって声をかけた。

「誰かいませんか?」



「どちらさまでしょうか?」

若者がひとり、店の奥から出てきた。あからさまに警戒しているのがわかる。

「こちらはマークス商店さんでしょうか」

「そうですが…」

「失礼ですが、あなたは…」

「私はこの店の番頭でモルトという者です」

「あなたおひとりですか?」

「どのようなご用件でしょうか?」

「失礼しました。僕はミスターという冒険者です。トールの町でメリッサさんという娘さんと出会いまして…」

「メリッサが生きているんですか!」

「はい、こちらの店主であるマークスさんの娘さんと聞きましたが、間違いないでしょうか」

「メリッサは今どこに」

「僕たちと一緒にこの町に来ています」

「会わせてください、今すぐ!」

「すぐにお連れしますが、その前にいろいろと事情をお聞かせねがえないでしょうか。できればメリッサさんのお力になれたらと思っています」


モルトと名乗った青年は僕たちを店の奥の間に通すと、事情を語り始めた。



コレトの町の商人組合には6人の評議員がいる。いずれもこの町の大店あるいは中堅どころの店の持ち主である。しばらく前にそのうちの一人が亡くなり、評議員に欠員が出た。次の総会で新しい評議員が選ばれることになっている。メリッサの父親は有力な候補者の一人であった。評議員に選ばれると貴族家との取引が認められ、大きな利益が見込まれるという。店の前にいたのは町のギャング組織のチンピラだった。評議員を狙う別の商人に関係していると思われるが確証はないという。


そんな時に持ち込まれたのが、メリッサの目が治療できるという話だった。目が治療できると称する回復術師の名前をモルト氏は憶えていたので、後で調べることはできるだろう。マークス夫妻は喜んでメリッサを連れて王都へ向かったが、そこで事件が起こり、全員死亡したものと思われた。冒険者がひとり護衛についたはずだが、その冒険者も行方不明で死亡したと判断された。


主人を失ったマークス商店は、従業員が次々と辞めていき、いまはモルトだけが残って店を開けている。モルトとメリッサは将来を誓い合った中で、マークス商店の後継者となるはずであったが、メリッサが死亡と判断されたためにマークス商店は後継者なしとみなされ、次の総会で商人組合から退会が決まり、商店は閉店することになっていたが、モルトはマークス夫妻とメリッサの死を認めず、今日まで店を続けていたのだ。



「メリッサさんが死亡していないと分かれば、どうなるのですか」

「メリッサが店の後継者として認められ、次の評議員候補となります。私がメリッサと一緒になることで店の経営は問題なくできるので、目が不自由なことは問題視されないと思います。また辞めた従業員たちも戻ってくれるでしょう。評議員として選ばれる可能性は確実かと思います。メリッサの両親はそれだけ大きな貢献をこの町にしてきましたから」

「メリッサさんが見つからなかった場合、評議員になるのは誰でしょう?」

「バーノン商会のバーノン氏が確実視されています。あまり良い評判を聞きません。やり手の商人であることは間違いないのですが…」


僕たちは逸るモルトさんをなだめ、メリッサさんをこちらに連れてくることを約束し、宿に向かった。


ソアたちが確保した宿の部屋は三人部屋と一人部屋を各二部屋であった。エマとアリサが一人部屋に入り、三人部屋は男性陣と女性陣で分かれて使うことになっていた。一部屋に全員が集まるには狭いので、宿の隣の食堂で別室になっている部屋をひとつ予約してあるという。10人くらいの宴会に使うための部屋のようだ。僕たちが戻ったときにはトールたちもギルドから戻っていて、全員で食事をしながら情報交換をすることになった。メリッサはモルトさんに早く会いたいと言ったが、明日には一緒に会いに行くと言ってなだめた。


店の主人は僕たちの連れでメリッサがいることを見ると、とても喜び、すぐに知り合いに知らせに行くと言い出したが、店につきまとっていたチンピラのことを話して、少しの間だけ内密にしてくれとお願いし、全員分の食事を注文した。



食事が済んだ頃合いでトールが切り出した。

「ギルドの話では、メリッサの言うとおり、冒険者がひとり護衛についたという。この町の冒険者ではなく、受付嬢の話では王都の冒険者ではないかということだ。その冒険者も事件後は行方不明で一緒に死んだものとされている」

「明日、僕が王都にテレポートして、その冒険者のことを調べてみます。ついでに目が治療できると言った回復術師もね」

「あたしも一緒に行くー」

「では王都の方はミスターとノア、それにアリサにお願いするとして、俺たちはメリッサをモルト氏の所に案内することにしよう。ミスターが王都から戻ったら、もういちどここで作戦会議だ。ソア、この部屋はしばらく貸し切りにしといてくれ。料金はミスターもちでな」

「えー、僕なんですか」

「おまえさんがメリッサを連れてきたんだからな、当然だ」


その日の夜、宿の自分の部屋に基準点を置き、僕はノアとアリサを連れて王都にテレポートした。


★あとがき(撮影現場にて)★



アリサ:「失礼しまーす」

あれ、ノアさんじゃないのか。

アリサ:「ノアさんを待ってたんですか」

あ、いや、そんなことはないですけど…

アリサ:「わたしとちがって人気女優ですからね、ノアさんは」

アリサちゃんだって、注目度アップ中ですよ。ところでノアさんは?

アリサ:「あ、やっぱり気になるんだ」

いや、ただ、どーしたのかなーって…

アリサ:「ソアさんと一緒に映画雑誌のインタビューを受けてましたよ」

そうなのか…え、じゃ僕のロケ弁は…

アリサ:「わたしが勝手に持ってきちゃいました、はい、これ。いつもノアさんが届けてましたよね」

それはノアさんが勝手に…

アリサ:「ここで二人で一緒にお昼してたんですかー」

そんなことは…それどころか、ロケ弁もらえないことの方が…

アリサ:「ほんとですかー。ソアさんが気にしてましたよ。撮影の合間はいつもノアさんがここに通ってるって」

気にしてるって…

アリサ:「あなたがノアさんに手を出してるんじゃないかって」

そんなことしたら、消し炭にされちゃいますよ、僕が。

アリサ:「その前にソアさんの矢が飛んでくるかもですよ」

なんで、ソアさんの矢が…

アリサ:「あー、あなたが鈍感野郎だってのは本当だったんですね」

誰が鈍感なんですか。

アリサ:「オーディションで採用した中でわたしをアリサの役にしてくれたのって、あなたですよね」

えー、まぁ、推薦はしたかな…

アリサ:「とても感謝してるんですよ」

アリサちゃんの実力だから…

アリサ:「ちゃん付けはやめてください」

じゃ、アリサさん…

アリサ:「アリサで」

えぇと、それって台本からのパクリでしょ、宿の女将の台詞!

アリサ:「あ、ばれました…」

もう、大人をからかっちゃダメですよ。

アリサ:「からかってるんじゃないんですけど」

ほら、もう次のテイクが始まりますよ。アリサちゃんのシーンもたくさんあるんですから。

アリサ:「なんか、わたしばっかし敵を殺してませんか、容赦ないとかいわれながら…」

まぁ、暗殺者って設定だし…

アリサ:「ファンの人から怖い人だったんですね、なんて言われちゃったり…」

あー、だんだんと殺さないようにしますから…

アリサ:「お願いしますね。お礼になんでもしますから、本当になんでも。じゃ、また来ますね」

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