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47 魔術師、奴隷を買う

依頼の仕事ではなかったが、パーティーのルール通り、みんなは3日間の休みをった。休みの時はひとりで行動することが多かったソアが、伯爵領から戻った後はいつも僕と一緒にいる。ノアも離れない。当然のごとくアリサとエマが後ろからついてくる。


今日は武器屋に向かっている。ソアがいつも持ち歩いていた弓を伯爵の館に置いてきてしまったので、あらたに買うためだ。その途中、通りの先の広場にいつもより多くの人が集まっていた。


「あの人混みはなんだろう」

誰にと言うこともなく疑問を口にすると、ソアが答えた。

「奴隷の競りですね。以前と違って、今は年に一回くらいしか開かれませんが」

「行って見よーよ、あたしは初めてだ」

ノアが返事も待たずに走り出していた。仕方なく後を追って広場に行った。


広場の中央に人の輪が出来ていたが、平常運転のノアが人混みをかき分け、無理矢理前の方に出て行く。僕らもノアに続いて前に出た。人の輪の中心にお立ち台が据えられていて、奴隷とおぼしき男が5人立っていた。台の脇で、競売人の男が声を張り上げている。


「前に行った奴隷商の店よりメチャクチャ安くないか?」

「店で売られている奴隷は貴族や大商人向けです。このような競売で売られる奴隷を買うのは普通の商人や比較的豊かな平民です。忠実な従業員を求める商人や職人は少なくありません。奴隷のあつかいも以前とは比較になりません。奴隷商もここでは、気持ちとしては働き口を斡旋しているくらいに思っていると思いますよ」

確かに落札されている価格を聞くと、桁ちがいに安い。貴族でなくとも手が出そうな金額だ。落札されていく奴隷はほとんど男だった。買うほうも衣食住だけで済む従業員くらいに思っているのだろう。話を聞けば、僕のいた世界のブラック企業で働くよりもよっぽどましな生活が出来そうだった。


そろそろ武器屋の方に行こうかと思ったとき、競売人が今回のお買い得品だと叫んだ。お立ち台の上に、5人の女が並ばされた。いままでの奴隷と様子が違う。

「お買い得?」

ソアに訪ねると、生まれつきや病気などで障害があったりする、曰く付きの奴隷だという。仕事をさせられないので、その分格安なのだ。なんと人ひとりが金貨5枚から競りに掛けられていた。ひどいなと思ったが、福祉制度などないこの世界、障害者は奴隷として買われなければスラムにでも捨てられ、そのまま死ぬしかないとソアは言う。


5人の中の一人に僕は目を引かれた。この世界の人間は見かけで年齢はわかりにくいが、僕の目には16くらいに見えた。

「あの少女に関心をもったのですか?どうやら目が見えないようですね」

ソアが言うと、ノアも僕の脚を蹴りながら、

「5人目を増やしちゃダメなんだからー」

と小声で言っている。


その少女の前の2人には誰も応札がなかった。盲目の少女の競りが始まったとき、冒険者風の男が金貨8枚と声をあげた。

「冒険者が奴隷を買うのは、普通はパーティーの荷物運びか一緒に闘う仲間にするために買います。目の見えない少女ではその役にたちません。何か別の目的があるのでしょう。あの少女はとても美しいですから」

「別の目的って…」

競売人が落札宣言しようとしたとき、思わず叫んでしまった。

「10枚!」

ノアに思い切り蹴られた…

「12枚」

と競ってきたが、

「20枚」

と応じると諦めたようだ。


その場で競売人に金貨を渡し、少女を受け取る。洗脳代は含まれていないようだ。まだ洗脳はされていないからと注意された。自分で金を出して洗脳しろということか。洗脳する気などない僕には関係がない。むしろ洗脳を解く費用がいらないので好都合だ。


「買ってどうするのですか。責任がありますよ」

ソアが聞く。

「いや、あの冒険者が買ったらどうなるかと思ったら、つい…ね」

「まずは服をどうにかしないといけませんね」

少女はぼろ布を貫頭衣にして纏っているだけだ。

「しかたがない、武器屋の前に服屋につきあってくれ」

そういって広場から服屋のある通りに移動した。人通りが少なくなった辺りでそいつは現れた。


「俺が目をつけていた女を横から掠ってどうしようてんだい」

ソアとエマはいかにも冒険者というなりだが、僕とノアはインバネス、アリサにいたってはメイド服だ。軽く見ているに違いない。それともよほど腕に自信があるのか。

「それだけ女を連れていて、まだ不足か、変態野郎め」


いや、どうみても変態野郎はあんたでしょ…


「面倒ごとはあんたも嫌だろう、その奴隷を渡すか…なんなら他の女でもいいぜ」

アリサが前に出て僕に行った。

「わたしが行きましょう。お許しいただけますか、マスター」

僕が返事を迷っていると、男が言った。

「メイドか、年頃も同じくらいで器量もいい。心配するな、すぐにあんたに買い戻させてやるよ、そっちの奴隷の倍の値段でな」


いや、とても心配なのだが…あんたが…


「ではご一緒にまいりましょう、そちらの路地ではいかがですか」

僕の返事を待たずにアリサが男を誘って路地に入っていった。

「行かせてしまって大丈夫なのか?」

エマが心配そうに聞く。

「大丈夫じゃないかもな…」


5分もたたずにアリサが一人で戻ってきた。

「ご理解していただきました。今は何のご不満もないご様子です」

「じゃ、服屋にいこうか…」


20メートルも進まないうちに、後ろで女の悲鳴がして、僕らの前にいた兵士がふたり駆けていったが、気にしないことにしよう。


服屋につくと、服選びはソア達にまかせて僕とエマは店の外で待っていた。ソアとノアが選んだ服は、貴族の令嬢もかくやと思うばかりのドレスだった。ソアの趣味がよいのか、質素で気品のあるドレスだ。


普通の町娘の格好でいいのだが…


その後、武器屋によってソアが弓を一張り買った。エマもついでにと、投げナイフを補充していた。アリサの千本に興味を持ったのか、武器屋の主人に聞いていたが普通の棒手裏剣しかなかったようだ。また三節棍の打撃がバイロンに効かなかったのを気にしてか、両端の棍をより重いものに換えようといろいろ物色していた。また投げナイフは数多く持てないので、長めのダガーに縄がついているような武器を買っていた。縄標(正しくは金偏に票)ってやつだな。使いこなすのは難しそうだ。



宿に戻ると、ドレスの少女を見て目をむいているトールは無視して、そのまま僕の部屋に入り、真っ先にソアに聞いた。

「目は治せるか?」

「生まれつきのようですね。回復魔法では治せません」

回復魔法は元の状態に戻すのが基本だ。初めから見えない目を見えるようには出来ない。視神経とか何かの障害があるのだろう。医学の知識も学んでおくべきだった、原因が分かれば僕に治せたかもしれない。


「ところで、この娘はなんて名前で、どうして奴隷になったんだろう。聞いてみてくれないか。僕らは席を外すから」

ソアが頷いたので、ソアと少女を残して部屋を出た。みんなで1階のいつものテーブル席に行くと、トールがまだ固まっていた。


ようやくトールが口を開いた。

「5、5番目じゃあねぇよな…」

「もちろん違いますよ」

「違うに決まってるよー」

「誰だ、あの少女は、貴族の娘か?」

「名前も知りませんよ。服はソアの趣味じゃないかと」

「あたしはもっと可愛いのがいいって言ったんだよー、それなのにソアったら」

「知りませんて、いったいどこから掠ってきたんだ?」

「掠ってなんか来ませんよ」

「掠ったも同然だったよねー」

「おい、ミスター!」

「広場の競りで買ったんですよ」

「広場の競りって…奴隷か。今更奴隷を買ってどうするんだ」

「どうしましょう、なりゆきでつい…」


トールに広場でのいきさつを話した。アリサが説得してくれた男の件は黙っておいた。そこにソアが降りてきた。

「いろいろと聞くことができました。今は部屋で寝ています。緊張がとけたのでしょう」

「それで分かったことは?」


盲目の奴隷少女はメリッサといい、コレトの町の商人マークスの娘だった。マークスの店は堅実な商売で信頼を得ていて、そう遠くないうちに大店になるだろうというのが町のもっぱらの評判であった。


メリッサは生まれた時から目が見えなかったが、両親はメリッサを大切に育て、なんとか治療できないかと手を尽くしていた。一年ほど前、王都にいる魔術師がメリッサの目を治せるという情報が両親のもとに届いた。両親は、藁をもすがる気持ちでメリッサを連れて王都に旅立った。その途中で何かが起こったのだ。


報告を聞いてトールがソアに尋ねた。

「メリッサは何かが起こった時のことを憶えていないのか?」

「ショックであまり良く憶えてないのよ。急に馬車が速く走り出して、ひどく揺れたかと思ったら転覆したみたい。メリッサが憶えているのはそこまで。転覆したとき気を失ってしまったようね。気がついたときには奴隷商人がいて、今日からお前は奴隷だって言われたそうよ」

「揺れたってのは、馬車が何かから逃げようとして街道を外れたってことかな。それで転覆したと。護衛はついていなかったのか?」

「メリッサによると、両親ではない声が聞こえてたそうよ」

「そいつが護衛だったとしたら、そいつはどうなったんだ?。この町ではそんな事件の話はなかったよな」

「そうね、わたしも記憶にないわ」

「両親のお店はどうなったのかなー」


ソアが聞き出した話では、何かが起こったということしか分からなかった。


「何かあったとしたら、店の従業員が捜索とか調査をギルドに依頼したんじゃないですか。僕が店のものならそうしますけど」

「この町のギルドにも依頼があったかも知れんな。待っててくれ、ちょいとギルドに行って聞いてくる」


そう言ってトールは出て行った。

★あとがき(撮影現場にて)★


ノア:「とうとう奴隷を買う話になっちゃったね」

なっちゃったねって…

ノア:「まぁ、異世界ものの定番だから…」

ヒロイン枠じゃありませんから…

ノア:「でも、綺麗な人よね。メリッサ役の人」

恋人もいる設定だし、今度のエピソードだけでレギュラーにはなりませんから…

ノア:「でも、あの人、オーディションじゃなくて、あんたが連れてきたんでしょ」

僕じゃありませんよ、役につけたのは。

ノア:「じゃ、だれよ」

あの人、監督の娘さんなんですよ。監督がどうしても出演させろって…

ノア:「それで今度のエピソードを作ったのね」

そうなんですよ、おかげでノアさんの過去の話を考える時間が…

ノア:「まさかあの娘に取り入って監督に気に入られようなんてしてないでしょうね」

そんな訳ないでしょ、演技もままならない素人なんですから。

ノア:「それで、台詞がぜんぜんないのね」

台詞なんて棒読みになっちゃいますから…あ、監督さんには内緒ですよ。

ノア:「でも、目の見えない演技はすごい上手かったじゃない」

あ、あれ、演技じゃないですから。本当に目が見えないんですよ。

ノア:「え、そうだったんだ」

すごい美人さんなのに、ちょっと気の毒ですよね。

ノア:「あんた、まさか同情して惚れたりしないでしょうね」

売れない脚本家なんか、向こうが相手にしませんよ。

ノア:「うーん、なんか不安だわ。あんた人がいいから。こんどあの娘に忠告しとこうかしら」

忠告って…

ノア:「女なら誰にでもすぐ手を出す悪い脚本家がいるから、気をつけろって」

それ、誰のことですか。

ノア:「もちろん、あんたのことよ」

僕はそんなんじゃありませんよ。だからノアさんだって毎日ここに来ても安心なんじゃないですか。

ノア:「だから困っているのよねー」

何が困るんですか。

ノア:「手を出さないから…」

手を出すと困るんでしょ。

ノア:「あたし以外にはね…」

何、訳わかんないこと言ってるんですか。次のテイクは今度の敵と出会うシーンですからね。とちらないでくださいよ。アドリブもなしですからね。お願いしますよ。

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