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46 魔術師、ソアと再会する

僕らはノアたちと一緒に、最初の宿に戻った。宿を移っていた僕とアリサもまた新たに部屋を取り直した。ノアたちに続いて、町の兵士たちもやってきたが、僕たちには何も言わず3人の亡骸を運んでいった。


トールの部屋に集まると、まずはエマの腕を見る。単純で綺麗に折れている。添え木をあてて、僕の力で骨をつないでおく。あとはソアが戻ってからだ。次にアリサの傷の様子を見る。幸い皮膚の表面だけを切り裂いたかすり傷だ。傷口の血はもう固まっている。しかし、傷跡が残ってしまうかもしれない。ソアがいれば跡形もなく治せるが、とりあえずは僕の力で出来ることはしておこう。そう思ってアリサに言った。

「ソアがいないので、とりあえず僕が治療しておく。アリサの部屋に一緒にいくからメイド服を脱いでくれ」

「もう、血も止まってるし、ソアが来てからで大丈夫じゃん」

ノアが言う。

「あっ、急に痛んでまいりました、マスター。早く一緒にまいりましょう」

「嘘ー、絶対に嘘ー!」

ノアが叫んだ。

「あたしも一緒に行くからー」

「他の方がいてはメイド服をぬげません…あ、気が遠くなります…早く…」

「そんなのダメー!」

トールが騒ぐノアを押さえつけ、

「早くいけ!」

と僕とアリサに言った。


僕の力で傷跡は遠目には分からないくらいのうっすらとした線になった。あとはソアに頼もう。僕のときは昔の傷跡も綺麗に治ったからアリサの傷も綺麗にしてもらえるだろう。治療の前にわずかにこびりつく血の塊を自分で拭き取るようにアリサに言うと、

「あぁ、手に力が入りません…恐れながらマスターにお願いいたします」

と言った。僕がアリサの胸の血を拭いたのはノアには内緒にしておこう…。



翌日、今度はみんな揃って伯爵の館に行った。警備の騎士たちは無言で僕らを伯爵の自室に案内した。恐怖と憎しみの視線を感じる。


「良く来た。座ってくれ」

伯爵は立って僕らを迎えた。アリサとエマは僕の後ろで立ったままだ。


リーダーはトールだが、目配せで僕にまかせると言っている気がした。

「ソアに会わせて頂きたい」

「その前に教えてくれ、リアは、騎士団の団長はどうした。昨夜お主らを訪ねたと思うが」

「馬鹿な意地のために、昨夜、命を落とした」

僕の返答に、伯爵が落胆する。周囲の騎士たちの動揺が伝わってきた。あの3人は誰にも言わずに僕らの所にやって来たのだろう。

「馬鹿と言うか…」

「命をかける必要などなかった。馬鹿としか言えない。しかし、立派に闘ったと言っておこう」

「そうか、事前に知っていれば必ず止めたものを…」


「それで、ソアは?」

「ソフィアは隣の部屋で待たせておる。誰ぞソフィアをここに連れてまいれ」

伯爵の後ろに立つ騎士がひとり、部屋を出て行き、しばらくすると、ドレスを着たソアを連れて戻ってきた。


部屋に入り、僕らを見つけると、なぜここにという顔をした。

「ソアっ!」

ノアが声を上げた。


「この通り無事でいる。危害を加える訳がない。大事な孫娘だ」

「なんども申し上げましたが、わたしは当家とは何の縁もない平民です。あなたの孫ではありません」

「しかし、ソフィア…」

「わたしはソアです。あなたの孫のソフィアではありません」


「それでいいのか、ソア」

僕が訪ねた。

「いいも悪いもありません。わたしはあなたの婚約者ではありませんか」


伯爵が僕を見つめて、それからソアの方を向いて言った。

「そなたが望むなら、その男に身分を与え、そなたを嫁がせても良い。その男がウッドアロー家を継ぐことになる」

「ミスターは貴族になることを望みません。平民のわたしを望むはずです」

「どうじゃ、ミスターとやら、富も権力もすべて手に入るぞ」

「興味はありません。ソアの言葉の通りです。ソアを返してもらいます」

ソアがアリサとエマの間、僕の後ろに立ち、僕の肩に手を置いた。


トールが口を挟んだ。

「跡継ぎなら寄子の家から養子を迎えてもいいんじゃないのか。それに、その気になればあんただってまだ子が望める歳じゃないのか」


伯爵はしばしの沈黙の後、絞り出すよな声で言った。ソアに向かってなのか、僕にむかってなのか、僕には分からなかった。

「行け…我が領地に二度と来るでない、いや、来てくれるな」


「申し訳ありません、ウッドアロー伯爵。長命と良き後継者に恵まれることをお祈り申し上げます。わたしはミスターと共にあります。わたしの感謝を」

そういって、ソアはこれ以上はないという優雅なカーテシーを伯爵に見せた。


僕らはソアを伴って、伯爵の部屋を出た。僕には伯爵のつぶやく声が聞こえた。

「母のカーテシーと寸分違わぬな…」

ソアにも聞こえたのだろうか。僕の腕をとり、横を歩くソアの表情は変わらなかった。



宿に戻り、またトールの部屋に集まった。やはりソアがいると安心する。

「ソアが着替えたら、すぐにトールの町に戻るぞ。みんな準備だ」

「着替えたいのですが、伯爵の館から何も持たずに出てきてしまいました」

「あたしがソアの荷物をみんな持ってきてあるよー」

そういってノアがいつものソアの鞄を持ってきた。

「良く気がついたわね、ノア。ありがとう」

「褒めてー、もっと褒めてもいいんだよー」

「それでは早速着替えて来ます。ミスター、あなたの部屋を貸してください」

「喜んで」

「それに貴族のドレスは一人で着替えるのは大変です。アリサなら手伝いに最適ですが、聞けば大怪我をしたばかりとか」

「かすり傷だよー」

「いえ、どんな傷であろうと軽んじることはできません。後ほど治療をして差し上げます。今のところは大事をとって、代わりにミスターにドレスを脱ぐ手伝いをお願いすることにしましょう」

トールがノアの口を押さえて、僕に言った。

「もう何でもいいから、さっさと行ってソアを着替えさせて連れてこい」

じたばたするノアを残し、僕はソアに手を引かれて部屋まで連れていかれた。


着替えの手伝いなぞ出来るはずもなく、僕は黙って見ているだけだった。

「ひとりできちんと脱ぐことはできませんね。高価なドレスですが仕方がありません」

そう言って、身につけたドレスや下着を裂けるのもいとわず乱暴に脱ぎ捨てると、僕の正面に立ち、ノアから受け取った鞄から以前の服を出して僕に言った。

「もとの服を着せてくださいな、ミスター」


冒険者の服なら自分で着られますよね、ソアさん…


僕らはウッドアロー家の領地を後にした。エマとアリサは旅の途中でソアに傷を綺麗に治してもらったのだが、アリサは傷跡がなくなったか見て確認をしてくださいと迫って僕を困らせた。旅の途中ずっと僕の馬と並んで走るソアを見て、ノアはトールの町に戻るまで不機嫌だった。ノアは途中で魔物を感知すると、僕らに警告することなく威力の大きい魔法で魔物を吹き飛ばしていた。機嫌をそこねたノアが怖いことは身をもって知っている。誰もノアを止めなかった。半月の旅を終えて、トールの町に帰り着いた。街道沿いにいくつものクレーターを残して……


とりあえずギルドに寄って、ソアの無事をケートさんに報告してから定宿に帰った。女将のおごりで食事を取ると、それぞれ部屋に戻って休息をとった。久しぶりにぐっすりと寝られたが、翌朝起きると僕の隣で薄衣1枚のノアが寝ていた。いつのまに潜り込んだのか?ノアを抱きかかえると、誰にも見られないようにノアの部屋に持って行き、ベッドに転がしてきた。このところピンチが続くけれど、魔法使いになる資格はまだ失っていないはずだ。


いつものテーブルで朝食を取っていると、あくびをしながらノアが降りてきた。僕を見ても特別な反応はない。


こいつ、寝ぼけただけで何も憶えてないのか…

それとも単にとぼけているのか…


いずれにせよノアの機嫌は直ったみたいだった。

★あとがき(撮影現場にて)★


ノア:「ソアのエピソードは切りがついたけど…どうしてあたしのお子様行動で締めになるのよ」

ほら、そこは、ちょっとシリアスなままで終わると…

ノア:「現実のあたしまで、お子様だと誤解されちゃうじゃない…」

誤解ってことはないと思いますが…

ノア:「それ、どういう意味よ」

あー、なんでもありませんよ。それに次のエピソードはノアさんが活躍しますから。

ノア:「また、今まで見たいに、ドカンと魔法一発で主人公助かりましたーなんてだけじゃないの」

いえいえ、今度はノアさんも戦闘に参加しますから。そういう訳で次は盲目の少女編です。

ノア:「まさかヒロイン追加じゃないでしょうね」

ちゃんと約束の相手がいる少女ですから。

ノア:「そう、それならいいかな…」

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