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43 魔術師、お姫様を救う

カラトの町までの街道には途中に7つの町がある。僕らはその町々で馬を換えて走り続けた。2日でカラトの町に着くと、旅の汚れを落とす間もなく、辺境伯の居城へと案内された。


埃まみれの僕らは、そのまま辺境伯の執務室に通され、辺境伯自身から依頼の説明を受けた。


かねてより悩みの種であった領内の不穏分子の取り締まりが先月ようやく実を結び、組織を壊滅させることが出来たという。その残党が、王都への訪問帰りの辺境伯妃の一行を襲い、妃に同行していた辺境伯の三女ルビーをさらったのだという。要求は捕らえた仲間の釈放と身代金の支払いだ。期限は10日以内、すでに4日経過しているので、残りは6日ということになる。無事救出の暁は金貨2500枚を報酬として支払うという。トールは休息のために一日欲しいと要求し、辺境伯はそれを認めた。解決のために残される時間は5日間である。


すぐに風呂と着替えを用意され、食事も提供され、それぞれに個室が用意された。食事後に案内されると、僕とトール、ゴードの部屋では美しい奴隷の娘が待っていた。ちょっと慌てて、その奴隷の娘に尋ねると、男の奴隷は城内にいないそうで、ノアたちには奴隷があてがわれていないという。安心した。『俺は魔法使いになる!』という目標を持つ僕は、奴隷の娘に帰るように言ったが、義務を果たさない奴隷はどんな目に遭わされるかと懇願され、部屋に留まることを許さざるを得なかった。


もちろん、何もしていない。

トールとゴード? 知らん!


翌朝、食事の時に、トールとゴードをノアが何度も蹴っていた。

「いけないんだからねー」

どうやらアリサが夜中に僕らの部屋を探っていたらしい。さすがは公爵家の元暗殺者である。


食事後すぐに辺境伯の居城をでて、カラトの町に向かった。組織が使っていたアジトの跡地や、ルビー姫がさらわれた場所など、すべて見て回った。何も手がかりは得られなかったと落胆して町に戻り、宿を探した。調査中は辺境伯の居城に泊まらない方が良いと判断した。 できるなら僕たち冒険者が依頼を受けて救出に関わっていることを知られたくない。


手頃な宿の前で集まって、そこに決めるかどうか話をしていると、アリサが近づいてきて、僕に囁いた。

「マスターもお気づきかも知れませんが、最初の場所にいた人物と同じ者がこの場所にもいます。最初の場所はここからはかなり離れた場所ですから偶然とは思えません」

「僕たちを見張っているのか。確保できるか?」

「マスターのご希望とあらば」

そう言うと、僕からゆっくりと離れていき、宿の横の路地に消えた。宿の裏を回って、後ろから怪しい人物に近づこうとしているようだ。僕はトールたちにこのことを伝えた。

「まずいな、俺たちのことが既にばれているって事だ」

「アリサがそいつを捕まえてきたらどうしますか」

「まずは、どこまで俺たちのことが知られているかだな。そいつから聞き出すんだ。それと、辺境伯の城に敵に通じているものがいるかもしれん。そうでなければこんなに早く俺たちのことがばれるとは思えん」

「たまたま犯行現場を見張りにきただけじゃないかなー」

「そうであれば、まだわたしたちの事は敵にしられていませんね」

「いずれにせよ、そいつに聞いてみるしかねぇな」

アリサが路地から顔を出し、僕らを呼んだ。路地の奥に、猿ぐつわの男がひとり転がっていた。

「辺境伯のところに連れて行きますか?」

「こいつの仲間がまだ見張っているかもしれん。ここで聞き出す」

仲間がいるかもしれないという指摘を聞くと、

「わたくしが周囲を探ってきます」

そう言って、アリサは姿を消した。

「感知できる範囲に隠れているようなやつはいないよー」

ノアが言うと、

「それじゃぁ、始めるか」

そう言って、トールは倒れている男の所に行った。


この世界は、魔物の存在や魔法を無視すれば、中世ヨーロッパレベルの世界だ。定番の異世界だな。治安維持は領主の兵が受け持っているが、現代日本の警察とは比べてはいけない。洋の東西を問わず、かつては残虐な拷問が尋問に使われていた。ここもそんなレベルの世界なのだ。ルビー姫の救出は一刻をあらそう。僕にはトールのすることを止められない。悪党どころか一般人にすら人権のない世界だ…。


トールが捕らえた男に静かに質問したのは最初の一回だけだ。男がそれを無視すると、あとはひどい拷問が始まった。1時間ほどして、ぼろぼろになった男を蹴り飛ばし、トールが戻ってきた。

「口がかたい奴だ。何もしゃべらん」

「あたしがやってみよーか。足の先から少しずつ消し炭にしてやるとか」

ノアが鬼畜なことを言っている。

「おまえはやらんでもいい」

そこにアリサが戻ってきた。

「周囲にそれらしき者はいませんでした、マスター」

それを聞いたトールが言った。

「そうか、こいつをどうしたもんか。逃がす訳にはいかんからな」

すると

「トール様、わたくしに試させて頂けないでしょうか」

アリサが言った。

「かまわんぞ、どうせしゃべらん。これだけやっても口を割らなかったからな」

トールが言う。アリサもノアと同じ歳の少女なんだがな…。

「もっと優しく尋ねれば、お答えをいただけるかもしれません。よろしいでしょうか、マスター」

「任せる」

アリサに任せることにした。公爵家の元暗殺者だ、上手い方法があるのかもしれない。

「皆様はここで少々お待ちを」

そういうと、なにやら怪しげな小瓶をメイド服から出して、

「ご一緒にまいりましょう」

といい、ぼろぼろの男を引きずって路地の奥に消えた。30分ほど男の微かな悲鳴が聞こえていたが、静かになった。さらに10分ほどしたとき、エマが言った。

「遅いな、様子を見てくる」

そのエマはすぐに戻ってきて、ひとことつぶやいた。

「あいつは何者だ、容赦がないやつだ」

そしてさらに10分ほどして、アリサが戻ってきた。

「さらわれた令嬢の居場所を教えていただけました。やはり優しく尋ねなければいけませんね。それと、敵に通じていたのはトール様にあてがわれた奴隷女でした」

「男はどうした」

「今は苦痛もなく、安らかにされています」

男の様子を見に行こうとしたトールに、

「お目になさらない方がよろしいのではないかと存じます」

と声を掛けた。

「……その方がよさそうだな。このまま放置して大丈夫か?」

「確かに騒ぎになると困ります。それではもう少々、お待ちください」

そう言って再び路地の奥に消えた。

「わたしも手伝うぞ」

エマが後を追う。しばらくして、二人が戻ってきた。

「済みました。お嬢様を救出するまでの時間は稼げるかと思います」

「そうか、それじゃあ宿に部屋をとって、救出の相談だ」



トールたちが救出作戦のプランを立てている。僕は宿の主人や、従業員に誘拐犯である不穏分子について尋ねて見た。だいたいの所はこうである。


辺境伯が特別に過酷な領地経営をしていた訳ではないが、不作に見舞われた年に、飢饉が起きた。ある貴族の息子が住民に同情し、辺境伯に税の免除と食料の援助を要求したが、辺境伯はそれを断った。税の免除は辺境伯自身も考えていたのだが、領民の要求で免除をしたとなれば今後の領地経営に差し障ると考えたのだ。貴族の息子は自家の領地の住民を率いて反乱を起こし、支配地を自治領として認めるように辺境伯に迫った。辺境伯は即座に却下し、軍を送った。反乱は失敗し、反乱に関わった者は過酷な追求を受けた。過酷な追求は反乱者の分裂を招き、多くは夜盗の類に身を落として民衆も離反した。今回の誘拐犯は、その反乱者たちの最後の生き残りであった。


彼らの主張には貴族による封建制から民主主義への道筋が示されていた。その貴族の息子はこの異世界で革命を目指した民主主義の先駆者であった。しかし成功しなかった。この世界もいずれ封建制から民主主義の世界になるかもしれないが、彼らは早すぎたのだ。僕は彼らに少し同情したが、追い詰められて正義を捨てた彼らは夜盗の類でしかなかった。


ルビー姫をさらった彼らは、狩りを楽しむ時に辺境伯がたまに使う屋敷を占拠していた。まさか自分の屋敷にいるとは思わなかったのであろう。捜索の対象から漏れていた。このことを辺境伯に伝えれば軍を送るかも知れない。それではルビー姫が危険だ。敵がそれほど大人数ではないことから、僕らだけで救出を行うことになった。なお通報者の件は伝えておいた。その奴隷の運命は知らない。


テレポートは僕の力の中でも最も便利な力だ。たてられた救出プランは、単純明快なものだった。僕とソア以外の5人が正面から敵地に入る。陽動である。わずか5人相手に、いきなり大事な人質を殺したりはしない。5人を殲滅にかかるだろう。その隙に、テレポートとソアの感知を駆使して、ルビー姫を探しだし、テレポートで一緒に脱出するというプランだ。同行するのがソアなのは回復魔法と感知が両方つかえることが理由だ。ルビー姫の万一の場合に備えての回復魔法だ。僕らは馬で近くまでいくと、気がつかれないように歩きで屋敷の前まで来た。


ゴードとノアが、屋敷の入り口から100メートルほど離れた林の中に潜む。ゴードはノアの護衛だ。トールとアリサ、それにエマが隠れもせず、屋敷の入り口に向かって歩いて行く。アリサのメイド服は陽動にはもってこいだ。これほど場違いで目立つものはない。僕とソアはテレポートで屋敷の屋根の上に移動し、陽動の開始を待つ。屋敷の入り口の見張りがトールたちに気づいた。


見張りが大きな声で叫ぶと、屋敷の中から大勢の男たちが現れて、トールたちに立ちはだかる。陽動の開始だ。僕とソアは、人目につかなそうな天窓から。屋敷の屋根裏部屋に潜り込んだ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


屋敷の入り口では、エマとアリサが手加減をしながら闘っていた。すぐに倒してしまっては、危機を感じた犯人がルビー姫を盾にしようとするかもしれない。あくまでも、無謀にも少人数でやってきた賞金目当ての馬鹿な冒険者という立ち位置だ。手加減が苦手のアリサの前ではすでに3人の男が骸となっている。まだ無事な2人の男も、なんだこいつはという顔をして、腰が引けている。エマとトールはいかにも苦戦をしているという風で、それぞれ2人の相手をしていた。ノアは森から火球を屋敷の一階にとばしている、着弾した火球は派手な音こそ出しているが、たいした威力ではない。屋敷の中まで被害は及ばない。人質は上の階だろうと推測したが、万一を考えてだ。入り口でトールたちと闘っている男が屋敷の中に戻って増援を呼んでいる。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


下の方で、増援を呼ぶ声が聞こえた。僕はソアに目配せをして、屋根裏部屋から2階の部屋に続く階段の扉をあけた。部屋は無人だ。部屋に降りて、廊下に続く扉の前に立つ。

「左前方に4人集まっていて、動きがないわ。そのすぐ近くに1人」

ソアの言葉に扉をわずかに開けて、廊下の左を伺う。扉の前に見張りが1人立っている。階下の爆発音に気を取られ、僕らと反対側にある1階からの階段を注視している。こちらに気がついていない。ソアと位置を代わり、ソアが廊下に飛び出す。見張りが気配に気づいて振り返った時には、ソアの干渉魔法が発動し、見張りは眠りに落ちた。僕がソアに続いて廊下に出た時には、ソアが眠りに落ちた見張りの首の後ろに短剣を突き立てていた。ソアの睡眠では短時間しか効かないので仕方がない。


「中に4人います。動きはありません」

ソアの言葉からは、部屋に魔術師がいるかどうか分からない。油断はできない。今のソアは魔力が励起状態なので干渉魔法に無防備だ。万一敵に魔術師がいた場合に備えて、射程外まで下がるように言い、僕が最初に飛び込むことにした。


自身の障壁を確認し、レイピアを抜いてドアを切り裂く。ドラゴンの爪とアダマンタイトであつらえたレイピアは、分厚い木のドアを紙のように切り裂いた。部屋に駆け込むと、右奥に口をふさがれたルビー姫、その隣に若い貴族風の男と冒険者風の男。左奥に杖を持った魔術師がいた。冒険者風の男が剣を抜き、前に出てくる。僕は光の針をルビー姫と貴族風の男の間に放った。光の針を避けるために貴族風の男が横に動いた瞬間、ルビー姫と貴族風の男の間にテレポートした。冒険者風の男の剣が僕のいた場所を切り裂くが、すでに僕はいない。振り返りざまに僕を発見し、腰の短剣を投げつけてきた。ルビー姫を背中で庇い、開け放しのドアから見える廊下にルビー姫ごとテレポートした。魔術師の男が僕に何か干渉魔法を使ったようだが、僕には効かない。驚愕した魔術師の額をソアの弓が貫いた。廊下の外で弓を構えたソアにルビー姫を託し、僕は再び部屋の中に入った。


部屋の奥で剣を構える貴族風の男。その男を守るように前に立つ冒険者風の男。

「冒険者か、なぜここにいる」

僕は男に尋ねた。

「何の因果か、こいつの理想に感化されちまってな。反乱に失敗して追われるようになってからも、ずるずるとここまでつきあっちまったのさ」

「僕は依頼を受けた冒険者だ。ミスターという。お前は?」

「故郷も家族も捨てたつもりだが、辺境伯は許さないだろうからな、名前はないってことにしておくよ」

「そいつを連れて逃げてくれないかな。あんたたちを殺す気がおきないのだが」

「変わったやつだな、実は革命派か」

「僕は唯の冒険者だ、依頼をこなすだけさ。頼まれたのは救出で、あんたたちの討伐じゃぁないからな」

「なるほど、しかし、もう逃げる所はどこにもない。逃げられるならもっと前に逃げている。坊ちゃん、俺はこいつと一戦交えるから、逃げたければその隙に逃げてくれ。運が良ければ逃げきれるだろう」

「しかたがない、いくぞ」

剣を構えた男に、僕はレイピアを上から振り下ろした。

「なんだそれは、素人か」

右手一本で剣を頭上に横に構えてレイピアの振り下ろしに備え、左手で新たな短剣を持って突きの構えをとった。


僕のレイピアは男の剣をまるで抵抗なく切断し、そのまま男を袈裟斬りにした。あり得ないという顔をして、そのまま俯せに倒れた。


すまん、反則的なレイピアなんだ、これは…


男が倒れるのを見た貴族風の男が、部屋の隅の隠し扉から逃げようとした。扉を開けた所にメイドがひとり立っていた。

「なっ!」

男はメイドに首を切り裂かれ、その場に倒れた。

「いいタイミングできたな」

「はい、おそくなり申し訳ございません。こちらへの入り口を探すのに手間をとりました」

倒れた男が頭をこちらに向けて、倒れている貴族風の男を見て言った。

「短い夢だったな…」

「いずれ、この世界も君たちが夢見た世界に変わるさ、僕が保証する」

「そうか……」

男は意識を手放し、動かなくなった。

「夢とはなんでございましょうか」

アリサが僕に尋ねる。

「貴族のいない世界かな」

「おとぎ話でも、そのような世界はございません、マスター」


下からトールたちが登ってきた。廊下でルビー姫を確認すると、部屋の中を見た。

「終わったか、ミスター」

「ええ、終わりました。この男の夢が…」

僕は動かなくなった名も知らぬ男を見ながら、トールに答えた。


言葉も出せずおびえているルビー姫をソアが抱きかかえ、僕らは屋敷の入り口をでた。ゴードが見張りたちの骸を屋敷の中に放り込んでいる。僕らが全員出たのを確認すると、ノアが火球を屋敷の中に打ち込み、僕らは屋敷を離れた。振り返ると屋敷は炎に包まれていた。

「ここなら延焼もしまい。ルビー姫を辺境伯まで届けるぞ」

僕たちは馬に乗って辺境伯の居城を目指した。



辺境伯はルビー姫を連れ帰った僕らを歓迎し、謁見の場を設けた。辺境伯のメイドたちが僕らを着替えさせようとする。僕やトールにゴード、それにエマは、これが冒険者の正装だと言い張り、いつもの革鎧の姿だ。さすがに汚れのない替えの鎧に着替えている。アリサはいつものメイド服だが、ソアとノアは城のメイドが用意したドレスに着替えている。赤いドレスのノア、青いドレスのソア、2人の美しさが際立つ。もっともノアはその言動がせっかくのドレス姿を台無しにしているが…


執事に呼ばれ、謁見の場に入場する。左右に近衛騎士団だろうか、剣を掲げて並んでいる。正面に辺境伯とその妃、3人の息子に、2人の娘が座っている。ひとりはルビー姫だ。おびえていた面影はなく、5歳とは思えぬ品格を示している。僕らは前に進み、男の僕らは片膝をつき、頭を下げる。ソアは貴族の令嬢もかくやという優雅なカーテシーで礼を示す。ノアはあたふたとしてソアのマネをしている。エマは頭を下げることもなく正面を見ていた。頭を下げようとしないエマに騎士団長が一歩進み出ようとしたとき、辺境伯が声を掛けた。

「かしこまらなくても良いぞ。立って頭をあげろ。辺境の地だ、都のしきたりなぞどうでもいい」

「おう、そいつはありがてぇ。助かる。貴族のしきたりは知らんからな」

トールの言葉に、辺境伯は

「わしも実はその方が楽で良い。しかし、そちらの令嬢には都でもみない美しいカーテシーを見せてもらったぞ。どこぞの家のご令嬢なのか、そなた自身も実に美しいではないか」

「おそれながら、わたしは一介の冒険者、ただの平民でございます」

「そこなメイドはそなたのメイドではないのか」

「わたくしのマスターは、こちらのお方でございます」

「おお、ミスターと言ったか、ルビーに聞いておるぞ、身を挺してルビーを庇ったとか。実にあっぱれじゃ。ルビーもいたくその方を気に入っておる。どうじゃ、ルビーを娶らんか。爵位も領地も用意するぞ」

「おそれながら、平民故爵位も領地も身に余ります。ルビー姫はまだ幼く、これからもっと良い方に巡り会えるでしょう」

「幼すぎると申すか、20くらいの差は何でもないと思うが。それではどうじゃ、こちらに控える長女のサファイアは今年で19じゃ。それにわしには息子が3人おる。跡継ぎの心配はない。爵位が迷惑ならば、持参金をつけて平民としてそのほうに嫁がせるが」

「サファイア姫のお気持ちも聞かず、そのような決断をなさるものではありません。冒険者のような根無し草に娘を嫁がせるなど、平民でもいたしません。この話はここまでということで願います」

「それは残念じゃのう、だが…そちの気持ちは…そこな娘たちにあるようじゃの。わしの人を見る目は確かじゃ、諦めるとするか。もしも愛想を尽かされたらいつでもわしのもとに来るが良い。待っておるぞ」



依頼の報酬とは別にほうびをもらい、僕らは辺境伯の居城を跡にした。ソアとノアはドレスも貰ってきたようだ。


馬丁が帰りの馬を用意する間、馬小屋の前で待つことにした。



「また増えちゃうかと思ったよー。あたしは愛想を尽かしたりしないからねー」

ノアがはしゃいでいる。

「ソア様のカーテシーはとてもお綺麗でした。どこで学ばれたのでしょうか」

アリサが尋ねる。僕も聞きたいところだが…。

「母から学んだのです」

僕の目配せに気づいたアリサが、さらなる質問を控える。

「さしでがましい詮索、失礼いたしました。お許しを願います」

「いいのです、昔のことです」

僕の目配せに気づいていたソアが、ノアに見えない位置で僕の手を軽く握ると

「ご配慮をありがとうございました」

そう言って、目を伏せた。


帰りの旅は馬を飛ばすこともなく、5日かけてトールの町まで戻った。


★あとがき(撮影現場にて)★


ノア:「ヒロイン枠が増えなくて良かったー。今日のロケ弁はちゃんとあげるねー」

お、ふたも開いていませんね。今日のお昼はまともに食べられる。

ノア:「本番テイクにならないと信用出来ないから…」

はじめから言ってたじゃないですか。

ノア:「でも、ソアがますます怪しくなってきたじゃん。次の台本を見ると今度はソアが掠われる話だし…」

そろそろソアさんの伏線も回収しないと…

ノア:「そうそう、いっそのことどこかのお姫様だったなんてことにして、ヒロイン枠から退場っていうのはどう?」

そんな訳にいきませんよ、レギュラーなんですから。ノアさんと違って大人の恋愛対象の役どころですから。

ノア:「大人の恋愛ならエマさんだって……ちょい待ち!ソアが大人の恋愛対象って、それじゃあたしは!?」

ノアさんはあくまで…

ノア:「あくまでって何よ!お子様っぽいのはあくまでも役作りよ、役の上の話!ほんとうのあたしは違うんだから!」

いや、今は役の上の話をしてるんですよね。

ノア:「役なんてどうでもいいのよ、問題はあんたよ。あたしがお子様だと思ってるんじゃないでしょうね」

いや、そんなことは…

ノア:「いったい何のために毎日ここにやってきてると思ってるんだか」

ロケ弁のためじゃないんですか。

ノア:「むぅー、これだから鈍感野郎は…」

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