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36 魔術師、魔物に襲われる

エンダーを倒したその日の夕食後、僕の部屋にアリサがやってきた。


いつものメイド服姿だが、切り裂かれてはいない。替えのメイド服に着替えたのだろう。

「このような時間に申し訳ありません。切り裂かれた服の替えを用意したく、マスターにお願いがあって参りました」

「都までテレポートということかな」

「さようでございます」

「あの公爵御用達の店か。もう閉まっているのでは」

「あの店が閉まることはありません。いつでも利用できます」

「そうか、かまわないぞ。この際だ、2,3 着まとめて追加しておくというのは?」

「そのつもりでおります」

「メイド服以外でも必要な物があれば求めておくのも良いかな」

「はい、ソア様にもご指摘をうけました。メイド服だけではマスターの妻としてのつとめは果たせないと。ソア様の助言にしたがい、適切な服を求めてきたいと思います」

「たしかに、TPOは大事だな」

「ティーピーオー?」

「時と場合に合わせるってことかな。開店しているならすぐにいくか。そう時間はかからないだろう。手を」


そういって手を差し出すと、その手をかいくぐり、

「お願いします」

と言って、僕の首に腕を回し身体をよせてきた。とまどいながら一緒にテレポートする。前回店を出たとき、店の脇の路地に基準点を設けておいたのだ。


日が落ちた後のせいか、店の周辺には誰もいなかった。店に入り奥のドアを開けてもらう。前回同様に、アリサが購入すべき物を選んでいる。エンダーに切断されてしまったトンファーの代えも買ったようだ。荷物が多くなったためか、店主が用意したトランクに詰め込んでいる。今回も代金を支払っている様子はない。店を出てトールの町に戻った。



「今までメイド服以外を身につけたことがありません。今回新たに求めた服に着替えますので、マスターのご意見をいただきたいと思います」

そういうと、目の前でメイド服を脱ぎだした。僕はあわてて後ろを向いた。ついでに窓の鎧戸も閉める。

「いかがでしょうか」

おそるおそる振り返ると、薄衣1枚を羽織ったアリサがいた。いつぞやの晩にみたソアと同じような格好である。透き通った薄衣の下には何も身につけていないことがわかる。


ソアさん、いったいどんな助言をしたんですか…


「あー、素敵ですね。似合っていますよ」

女性の服はとりあえず褒めておけと僕の先輩が言っていた。

「マスターのお眼鏡にかない、なによりです。さすがはソアさまです」

「いろいろと選んでいたけど、メイド服以外で外で着られるような…」

そう言いかけた僕の言葉を遮り、アリサが近寄ってきた。

「この機会にマスターの妻としてのつとめも果たさせていただきます」

アリサが自分の首の後ろに手をまわし何かを外すと、薄衣が足下に落ち、一糸まとわぬ姿のアリサが僕の目の前に立っていた。


ノアよりも大きいな…



翌朝、いつものテーブル席で軽い朝食をアリサと食べていると、ノアとソアが降りてきて、女将さんに朝食の追加を頼んだ。食事なしの宿のはずなのだが、いつのまにか僕らの朝食を出してくれるようになっている。


「アリサさん、昨夜はうまくやれましたか」


あなたが仕組んだんですか、ソアさん…


「何も不手際はしていないはずでしたが…」

いつも通りのメイド服のアリサが答えた。

「アリサにいったいなんて助言をしたんですか、ソア」

「えー!アリサと何かあったの、ミスター」

「僕とアリサには何もありませんよ、何も」

「だって、今ソアとアリサがなんか言ったー」

「アリサの新しいメイド服やトンファーを買うために都まで行ってきただけだよ」

「わたくしは婚約者であって、まだ妻ではないからと仰せられまして…」

「ほらー!やっぱり何か…」

「お子様のノアにはまだ早いお話です」

「アリサだってあたしと同じ歳じゃん」

「アリサさんは充分に育っていますから」

「えー、あたしだってすぐに…エリカ、いつもの!」

エリカさんがノアにミルクを持ってきた。


エリカさん、それ本当に効果があるんですか。

僕は聞いたことありませんよ。

背は伸びるかも知れませんが…


「お、みんな揃っているな」

トールとゴードが降りてきた。

「昨日みたいな野郎がまた来るんじゃないかと思うので、町を離れた所の依頼を受けようと思うんだが、みんなはどう思う」

「良い考えだと思います」

「反対がなければギルドに行って、依頼を選んでくるが」

「いいよー、あたしも」

僕もゴードも賛成し、トールは食事も取らずにギルドへと出かけた。

「それじゃ、今すぐ行ってくる。いい依頼がなくなっちまう前に行かんとな」



トールが戻ってきた。

「ミントの町からの依頼だ。町に続く街道にオークが出没するので討伐してほしいようだ。報酬は出来高で、オーク1匹につき金貨1枚だ。オーク以外の魔物についても相応の額を出すそうだ。割のいい額じゃないが、宿代や食事は向こう持ちだし、数もいるらしいから出来高ならいい稼ぎになるぞ」

「ミントの町というと、馬で2日くらいでしたね。準備してすぐに出かけましょう」

「俺はいつでも大丈夫だ。みんなも急いで準備をしてくれ。その間に朝飯を食っておく」

2日の道のりなら、すぐに出れば野営は一回ですむ。アリサの野営道具を用意しないといけないな。

「僕の用意は済んでいますが、アリサの夜営道具が必要なので、それを買ってから広場に向かいます」

「まだ店があいてないよ。あたしの前の寝袋があるから、それをアリサにあげるよ。食器などはとりあえずエリカに貸してもらえばいいんじゃない。アリサはミスターとおんなじで部屋は借りっぱなしなんだから、貸してもらえると思う」

「ノア様のご厚意に感謝いたします」

「それじゃぁ、エリカさんに貸してもらってから行きます」

「じゃ、先にいくねー。アリサの寝袋はあたしが持って行っておくからねー。部屋代の精算はトールがやっといてねー」

「ゴード、ソア、広場で馬を調達しておいてくれ。ミスターは俺と一緒に行けばいいな。飯食い終わるまで待っててくれ、すぐ済ませる」


トールの食事を待って、広場に向かった、アリサはトランクを持ってついてきている。

「バッグパックを用意しないといけなかったか、気がつかなかった、すまない」

「そのような物を背負っていたのでは、いざというときに素速くマスターのお役にたつことができません。それになにより、メイド服にバックパックでは美しくありません」


そうですか…

しかし馬での旅支度にメイド服というのがそもそも…


広場ではすでにソアたちが馬を用意して待っていた。馬の貸し出しは各町の商人が何か取り決めでもしているののか、ミントの町で返せば良いという。借り賃に加えて保証金が必要だ。その辺のことはゴードが済ませてあった。


アリサはノアから寝袋を受けとってトランクに詰め込むと、代わりにインバネスを取り出して羽織った。さすがにメイド服のままでの旅は不都合と思ったのだろう。旅の可能性を考え、これも調達しておいたに違いない。公爵家特製だ、とんでもない防御性能なんだろうな。インバネスのアリサも可愛いじゃないか…僕もマントかコートのような物を買おうかな。そう思っていると、アリサがトランクを馬に括りつけようとしている。手を貸そうとトランクを手でささえたのだが


重い!

着替えや夜営道具だけじゃありませんよね、絶対。

何が入っているんですか、アリサさん…

は、はやく括りつけてください。

落としそうです…


「申し訳ありません。マスターのお手を煩わせてしまって」

「あたしのも手伝ってよー、ミスター」

ノアが呼んでいる。

「自分でやれ、人に頼るんじゃぁねえ」

「えー、アリサだけずるいー」

「申し訳ありません。わたくしがお手伝いいたします」

「自分でやるから、いい」

「用意が出来たら、馬に乗れ、出発だ」


トールを先頭に町を出た。トール街道の途中で分かれ、ミントの町に続く街道を進む。ミントの町はトール街道の周辺地図にギリギリ載っている。地図のよれば途中に野営地は3カ所ある。僕たちは順調に旅を進め、その日の夕暮れには2番目の野営地、ちょうど旅の中間点に着いた。朝急いで出てきたので食料を調達していない。各自が常備している干し肉だけでパンはない。ノアがテレポートと騒いだが、例によってトールが却下した。まぁ、一日二日のことだ、問題はない。


その日の夜、寝ていた僕はノアにおこされた。

「起きて、敵が来る」

アリサはすでに起きていてノアと一緒にいる。急いで寝袋から出て、見張りのトールのところに向かった。ゴードはすでに起きていて、馬を野営地の真ん中に集めている。

「ノア、敵は?」

「盗賊じゃないね、30以上いる。入り口正面からくるよ」

「ソアとアリサは馬の近くで弓だ。ノアも同じ位置だ。ゴードと俺で正面を守る。ミスター、壁をあてにするなよ。猪じゃなければ簡単に飛び越えてくるからな。俺たちと馬との間にいて俺たちを抜けたやつを仕留めてくれ。敵が見えたらノアはすぐに魔法だ、たのむぞ」


周囲は暗く、たき火の明かりが届く範囲はせまい。敵は街道の向こうから迫ってきている。最初の一匹が明かりの範囲に入った。鎧狼だ。ノアの魔法が最初の一匹に着弾。周囲の数匹を巻き込み、吹き飛ばした。煙を抜けて7匹が同時に野営地にせまる。ソアとアリサの弓が2匹を貫くが、残りがトールに殺到する。1匹を一撃で両断すると、他の2匹と対峙した。ゴードも別の2匹を相手にしている。その間にさらに3匹が飛び込んでくるが、僕の光の槍がすべてを貫く。ノアは最初の一発よりも強力な魔法を、正面の暗闇の中に見当をつけて放つ。大きな爆発が起こり、一瞬の閃光のなかで10数匹の鎧狼が吹き飛ばされたのが見えた。その閃光の明かりで、何匹かが横に回り込み、壁のなかに飛び込んでくるのが見えた。

「アリサ!左だ!」

ソアが矢を連射し、3匹が倒れた。アリサは弓を捨て、トンファーを出すと残る鎧狼を迎え撃つ。テレポートしているのかと思えるほどの速さで鎧狼を打ち倒している。それに目を奪われていると、

「ミスター、前だ、2匹抜かれた!」

トールの叫びに我に返る。1匹をレイピアで貫き、もう一匹の牙を左腕で防ぐ。あらかじめ纏った障壁で牙が止まる。レイピアを捨て短剣で下から首を突き上げると、腕を咬む力が抜けて、その場にずり落ちた。

「終わった、もういないよ」

ノアが告げた。


トールとゴード、そして僕の3人で松明の明かりを頼りに鎧狼の死体を集め、ノアの魔法でできた大きな窪みにすべて放り込んだ。35匹だった。ノアの代わりに僕がすべて焼き払い土をかぶせた。


「野営地でこれだけの群れに襲われるのは希だ。オークに追われて移動している最中だったのかもしれん。この先も注意が必要だな」


僕とアリサで見張りを交代する。アリサが加わったので、見張りは3交代だ。次の交代まで何事もなく、ゴードとノアに代わる。僕は寝袋に戻った。

「わたくしはもうしばらく起きています。マスターはお休みください」

アリサのメイド服にはここかしこに返り血がついていが、次の朝、目を覚ましたときには染みひとつないメイド服を身につけていた。僕が寝ている間に着替えたのであろう。いちおう寝袋に潜る前に拭き取ってはいるが、僕やトールたちの鎧には返り血がついたままだ。すでに乾いて固まっているが、見栄え悪い。クリーンの魔法をなんていったら、ノアにまたおとぎ話と言われてしまいそうだ。そんな魔法があるならば、とっくにソアが掛けてくれているに違いない。


現実の世界は、いや現実の異世界は厳しいです…

★あとがき(撮影現場にて)★


ノア:「この話ってR15だったよね」

えぇ、人が死ぬシーンもかなりありますし…

ノア:「なんでアリサのヌードシーンがあるのよ」

主人公とのからみはなかったでしょ。R15でもあのくらいならOKかなと。

ノア:「全然話の流れに必要ないんじゃない、あのシーン」

まぁ、ちょっと雰囲気を出してみただけなので…

ノア:「なんで、アリサなのよ」

じゃぁ、ノアさん、やりますか、ヌードを?

ノア:「やるわけないでしょ、売り出し中の新人じゃあるまいし」

だから新人のアリサさんにお願いした訳で…

ノア:「なんか、あたしのより大きいなんて主人公に言わせてるし…」

まぁ、ギャグですから…

ノア:「見てる人が誤解したら困っちゃうんですけどー」

誤解って?

ノア:「見て分かると思うけど、あたしだってそこそこ大きいんだよ」

あぁ、脱がなくていいですから。分かってますから。あくまでも設定ってことで…

ノア:「ほんとに分かってるの?」

ええと、次はノアさんが重傷を負って、主人公が必死に助けるって話ですから。

ノア:「急に話題を変えるのね…」

傷を負うのは胸なんですよ。それを主人公が治療しようと…

ノア:「えっ、まさか胸を見せるシーンなんてあるの!」

台本、まだ読んでないんですか?

ノア:「聞いてないわよ、そんなシーンのことは」

大丈夫ですよ、ちゃんと小さく見えるように撮影しますから。

ノア:「余計悪いじゃない!」

登場人物に見えているって設定なだけで、実際には胸は画面にはだしませんから…

ノア:「ほんとでしょうね…絶対に画面に映ったりしないようにしてよね」

それに、主人公と二人っきりでの空を飛ぶシーンで、前より大きいって言わせる場面もありますし…

ノア:「仕方ないわね…撮影時は関係者以外立ち入り禁止でやってよね」

そういう訳で、今日の僕のロケ弁を…

ノア:「編集済みのシーンを確認するまではおあずけで」

そんな…

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