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33 魔術師、ガジンと闘う

面倒ごとはごめんなので、しばらくは市民エリアに行くのはよそうと思った。商業エリアに屋台はなく、飲食店はしゃれた店ばかりでマナーもうるさい。ノアの好みではないのか、食事時以外には行きたがらなかった。代わりにここ2,3日は武器屋巡りをしている。市民エリアの武器屋とちがって、高級品が置いてある。アルプの町で酔っ払いに奪われた杖の代わりを買うつもりなのだろう。例によって僕はノアの買い物につきあわされ、アリサは僕についてくる。


武器屋には魔術師向けの大小様々な杖が置いてある。指示棒のような細くて短い物から棍棒じゃないのかと思えるような太くて重量のある杖など様々な杖が並んでいた。ノアは前の杖よりも若干短く、取り回しの良い杖を選んでいた。頭の部分には前の杖と同じ赤い宝石が着いているのを見つけると、それにすると言って購入した。それで帰るのかと思ったら、近接用に短剣も買うと言い出した。短剣は杖以上に種類があって、いつまでたっても決まらない。

「まだかー、ノア。まだなら少し外を回ってくるがいいか」

「いいよー、その間に決めるー」


僕は店を出て、表通りをぶらぶらと歩いた。アリサも一緒である。ノアのようにくっついたりせず、僕の少し後ろを歩いている。しばらく歩き回り、そろそろノアのところに戻ろうかと思った時、脇の路地からガジンが現れた。

「市民エリアには来ないのか?」

「用がないからな」

「俺はあんたに用があるんだがな」

「まだやるのか、人目のある表通りだぞ」

「俺はかまわんが、巻き添えをだすのが嫌ならそこまで一緒に来てもらおうじゃないか」

アリサが僕の横に並ぶ。

「おお、怖いお嬢さんか。今日は可愛いお嬢さんは連れてないのか。せっかく二人の相手も連れてきたのだが」

脇道からもう二人、小柄な男たちが現れた。

「ついてきてもらおうか」

そういうとガジンは二人の男を率いて脇道に入っていった。やむなく後を追うと、少し歩いた先に、小さな空き地があった。新しく屋敷をたてる敷地のようだ。あちこちに木材や、大きな石板、それに煉瓦が積まれている。

「人数があわなくてすまんが、そちらの怖いお嬢さんの相手はこの二人だ。その間に俺とあんただけでたっぷりと楽しもうじゃないか」

前回と違って、ガジンの両手は肘から手首までが手甲で覆われている。さらに左手の手甲には小さな丸盾が装着されている。丈夫そうな丸盾だ。例の鉄球は腰の袋に入っているようだ。鉄球以外の何かを投げてくる可能性もある。注意が必要だ。

「アリサ、すまんがあの二人を頼む。無理はするなよ。それに僕の方を気に掛けて隙をみせるなよ」

「御心のままに」

そういうと、僕から離れて空き地の隅の壁にはさまれた角に移動した。

「マスターの申しつけです。お二人にはこちらでわたくしがお相手をさせていただきます」

「へへ、2対1だからといって手は抜かねぇからな、すまんな」

一人は両手にそれぞれハンド・アクスを持ち、もう一人は短槍を持っている。

「マスターもこちらをお気になさらず、充分にお楽しみください」

僕に声をかけるとアリサは闘いを開始した。


いや、楽しめないんですけど…

命がけになりそうな気が…


「お嬢ちゃんもたいしたもんだな。じっくり闘いを眺めていたいところだが、今度こそあんたとやり合いたいからな、用意はいいかい」

「謝ったら許してくれるかい」

そういいながら、ゆっくりと積み重なった石版の前に移動する。うまく使えば盾代わりになるかもしれない。レイピアを抜いて構える。

「たいした速さだと思っていたが、剣は素人か?なんだその構えは」

「あんたを油断させるためさ」

「油断はしないさ」

ガジンが下手で鉄球を投げると同時に突っ込んでくる。こいつは格闘なのか。右に避けながらレイピアを突き出すが、盾に弾かれて顔面が空いたところに右の拳が襲ってきた。

「なんだ、こりゃ」

ガジンの拳が僕の顔の寸前で障壁によって止められる。すかさず引き戻したレイピアで相手の胴を横に払った。後ろに大きく飛び退き、驚いた顔をしている。

「魔術師だったのか、変な魔法を使うようだな、なぜ干渉魔法を使わなかった」

いまは干渉魔法の射程外にいる。僕には使えないがガジンは知らない。

「安心しろ、魔法じゃないさ。一子相伝の我が家の秘技だな」

適当なことを言ってごまかす。

「いいかげんなことを!」

鉄球攻撃が飛んでくる。無角か。片手でひとつは防いだが、もうひとつの鉄球が僕の肩にあたった。これも障壁で止まった。投げたあとの隙を狙って、ガジンの左上にテレポートし、レイピアを突き出す。驚異的な反射神経でレイピアを弾くと、空中の僕をガジンの右手が襲う。拳ではない、いつの間にか短剣を持っていた。とっさに身体をねじったが、短剣が僕の左肩にあたる。なんて馬鹿力だ。障壁を突き破り、わずかに肩に刺さった。テレポートで石板の前に戻り、追撃を避けた。

「馬鹿力だな…」

「相変わらず素速いな、そいつもイッシソウデンってやつか。しかし防御の方は絶対じゃなさそうだな。次はのがさんぞ」

「もういちどだ!」

そう叫んで再びガジンの左上にテレポートする。しかし今度は石板も一緒だ。ガジンの目の前に石板が現れ、その後ろに僕がいる。

「小細工をしても同じ事だ!」

ガジンの盾が石板を割る。そのとき、短剣を構えたガジンに向かって、二つに割れた石板の隙間から僕の光の槍が飛び出した。


「すまんな、いろいろと手品があってな」

ガジンは肩のところから右腕を吹き飛ばされて、膝をついていた。

「こいつは反則ってもんだぜ…」

そう言ってうなだれる。

「アリサの方も終わったようだな」

アリサの方に顔を向ける。またしても油断だった。

ガジンがぐっという低い声をあげ、左手から突起のある鉄球がころげ落ちた。顔を戻すと

「マスター、最後まで油断をなさらないように。毒の香がします」

アリサの暗器がガジンの頸動脈を切り裂いていた。ガジンは血を流しながら後ろを振り返り、濁った声を発した。

「容赦ないな、お嬢さん…」

男はそのまま跪くように倒れた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・


二人の男がアリサに近づいてくる。アリサはトンファーを出し、かすかに前掲姿勢を取った。初撃は槍の男だ。突き出された槍をかがみながら避け、相手の懐に入るとトンファーで首を突き上げる。槍の男がのけぞって避けたところをもう片方のトンファーで足下をすくった。倒れこんだ相手への追撃は斧によって防がれる。二丁の斧が右左と振られ、アリサは後退した。

「だらしないな」

斧の男が声を掛けた瞬間、アリサの姿が消えた。斧の男の左に跳躍し、角の壁を利用して斧の男に向かって飛び、トンファーを振る。三角跳びだ。

「あまいぜ」

斧の男が片方の斧で右のトンファーを防ぎ、もう一方の斧で左のトンファーをはじき飛ばした。アリサはそのまま斧の男の上で回転し、槍の男の横に着地し素速く角にもどる。

「なかなか素速いな。だが武器が片方なくなったぜ、どうする」

「ひとりと交換なら安いものです」

アリサの言葉に斧の男が横に目をやると、槍の男が喉を切り裂かれて血を流していた。声にならない血のあふれる音を口から発すると、静かに倒れた。アリサの左手には失ったトンファーの代わりに小さなダガーのような暗器が握られていた。

「てめぇ!」

斧の男が視線を戻したときにはアリサの姿はなかった。左の壁からの音にとっさに反応して斧を構えた。左の壁から落ちていくトンファーを見たときには、右の壁を蹴ったアリサのダガーが男の首に深く刺さっていた。


「お相手ありがとうごいました」

そういって事切れた二人に頭を下げ、マスターの方を見ると、こちらを見るマスターを狙って、膝をついてうなだれている男の左手が指弾を弾こうとしていた。素速く男の元に移動し、その首をダガーで切り裂いた。

「マスター、最後まで油断をなさらないように。毒の香がします」

「容赦ないな、お嬢さん…」

男はそのまま跪くように倒れた。

「お褒めの言葉をありがとうございます」

アリサはガジンだった骸に頭をさげた。


ポーションを左肩の傷に注ぐと、見るまに傷がふさがっていく。3つの冷たい骸をのこして、僕らは表通りに戻った。道行く人々は誰も空き地での闘いに気づいていない。兵に知らせることなく僕らは立ち去った。そのうち騒ぎになるだろうが、僕らがやったとは分からないだろう。


武器屋に戻ると、良い短剣を買えたのだろう、店の前でノアが満面の笑みで短剣を握った手を振っていた。



僕らが宿に戻ったころ、見回りの兵が3人の死体を発見し騒ぎになった。3人とも市民エリアでは知られた用心棒だったことから、組織の勢力争いと判断され、ろくに捜査はされなかった。そんなことはつゆほどにも知らないトールは、山ほど酒を買い込み、僕に“どこでも倉庫”に運ばせた。都でやることもなくなった僕らは、トールの町へ戻ることにした。




ガジンの死は市民エリアの裏社会を大きく震撼させた。組織のパワーバランスに変化が生じ、縄張り争いが激化したのだ。裏社会の誰もがガジンを倒した相手を探し出そうとした。


ある者はガジンの仇をとろうとして。

ガジンを倒して無敵不敗の名を我が物にしようとしていた戦闘狂は新たな目標として。

組織のボスは用心棒としてスカウトするために。

そして多くの冒険者は単なる興味のため。


あらゆる情報が集められ、少女を連れた冒険者がガジンと争いをしていたというチンピラの証言が得られた。少女は魔術師だったという者もあれば、メイドだったという者、その両方だったという者、あやふやな証言が多かったが、おかしな2人ないし3人組で、少女を連れた冒険者風の男という点では一致していた。そんなおかしな組み合わせならば容易に見つけ出せるだろうと誰もが思ったが、発見の知らせが届けられることはなかった。当人たちはすでにトールの町へ戻っていたのだ。テレポートで戻ったため、組織の者が都の出口で見張っていたが発見されることはなかった。都で見つけ出せなかった組織は、周辺の町へと探索の網を広げつつあった。


★あとがき(撮影現場にて)★


ノア:「活躍どころか出番すらなかったじゃない!」

次です、次に…

ノア:「信用できなくなってきた…」

絶対です、絶対…

ノア:「ロケ弁担保ね」

え、なんですか、それ。

ノア:「ADさんにお願いして、これからずっとここに運ぶロケ弁はあたしが届けることにするの」

そんな…

ノア:「それでー、あたしが活躍したときはここに持ってきてあげるー」

次は短い話で活躍も何もないのだが…

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