28 魔術師、飛竜と出会う
翌朝、宿の前に集合した。ゴードが両手で支えるような大きな盾を持っている。普段は荷物にいれていたのだろう。
「ゴードって盾を使うの?」
「飛竜討伐のときはね。竜のブレスに対抗するためだよ」
ノアによると、竜種のブレスの炎は魔術師の炎の球と違って、水の流れのように連続的に放出される炎だという。
ようするに、火炎放射ってことか…
爆発はしないので、頑丈な盾を使って短時間であれば防げるのだと言う。
「飛竜に弱点ってあるの」
「あるよー、首だね」
この世界の竜にも逆鱗ってあるのか…
「逆鱗か?」
「ゲキリン、なにそれ」
「違うのか?じゃぁ首の弱点ていうのは?」
「どの竜も弱点は同じ。首を落とせば死ぬ」
いや、それは正しいけど、弱点とは言わないよね…ノアさん
「それ以外の弱点は?」
「低温に弱いかな、それと雷系の魔法」
工場までの距離は3キロほどだ。ギルドで馬を借りて、工場近くまでやってきた。少し離れた位置に馬を止め、あとは徒歩で向かう。工場は無人で人の気配も魔物の気配もない。
「魔力感知なしだよー」
ノアが確認した。となれば森の中と言うことになるが、森の中で戦うにはブレスがやっかいだ。周りが火の海になっては飛竜どころではなくなる。森の外におびき出し、延焼するものがない開けた場所で戦いたい。
無人の工場を抜け、森の近くまで来た。
「森の中は魔物が多く、飛竜との区別がつかないな」
ノアの言葉を聞くと、ソアが僕に言った。
「空から見つけられませんか、ミスター」
「やってみます」
薬師救出のときの要領で、森の上空100メートルにテレポートし、そらから熱感知を試みた。森が草地にかわる境目から200メートルほど入ったところに、大きな熱源を発見した。飛竜に違いない。皆の元にもどって飛竜の位置を報告する。
「ノア、おびき出せるか?」
「まかせなさい!」
「ゴード、盾の用意だ。ノアの前に出ろ」
ゴードの後ろでノアが片手を上げると、その先に光る球体があらわれた。炎ではない。球電現象のようだ。
「行くよー」
ノアが光る球を投げる。200メートルはノアの射程内だ。僕が示した位置にまっすぐ向かい下に落ちる。放電のような音がして小さな爆発が起こった。大きな鳴き声と共に飛竜が空中に飛び上がり、こちらを発見する。遠くだが怒りに満ちていることが分かる。こちらにまっすぐ向かってきて、僕らの前方20メートルほどの空中で静止した。
「ブレスが来るぞ」
トールの叫びに答えてゴードが盾を構える。僕たちは、左右にわかれて二人から離れた。ノアは両手で光の球を作っている。最初よりもサイズがでかい。飛竜はノアを最大の脅威とみなし、ブレスを放った。同時にノアも光の球を放つ。ゴードの盾を越えて上から飛竜に当たる放物線コースだ。放つと同時にゴードの背中にぴったりと張り付く。その直後ブレスが二人を襲う。同時にノアの球電が飛竜の翼に落下。放電の火花につづいて最初の球電よりも大きな爆発が起こった。ノアとゴードはブレスと爆風で後ろに押しやられるが、ゴードは盾を構えたまま耐えていた。
ブレスの炎が途切れると、放電と爆発によって翼をぼろぼろにされた飛竜が地上に降りている。トールの投げたやりが首にささり、ソアの矢が飛竜の片目を射貫いた。僕も負けじと参戦する。右手に光の槍を生じさせ、内部の荷電粒子の電荷を極限まで高めてから、首に刺さったトールの槍めがけて投げた。槍に当たった瞬間、高圧の放電が発生し、飛竜から地面に電流がながれる。飛竜は大きく痙攣し、崩れるように横たわった。
「おお、ミスター、すごいな。いつもならここからもう少し時間がかかるところだ」
いつもは地上に落として逃げられないようにした後、矢の毒とトールの剣で弱らせながらノアの魔法で倒すのだそうだ。
「あたしが止めを刺すつもりだったのにー」
ゴードもノアも無事だ。盾の表面が焼け焦げて金属部分はすこし溶けている。
念のためしばらく待機し、森の様子を見た。
新たな飛竜も現れず、いったんアルプの町に戻ることになった。トールが牙を抜き取っている。しかし飛竜の皮は放電と爆発で使い物になりそうもない。
「これだけでも持ち帰ろうか。まだ後ろ脚まで毒は回っていないだろう」
そういってトールは飛竜の後ろ足から大きな肉の塊を切り取った。持って帰れないほどの塊ではないが、せっかく部屋を借りたままにしてあるのだ、早速利用しよう。そう言うと
「それなら両脚分持ち帰ろうじゃないか」
そういってもう片方の脚からも肉塊をとり、僕にわたす。トールから肉塊を受け取ると、エリカさんの宿の部屋にテレポートして肉塊を置いてきた。
ところで、飛竜のブレスはゴードの盾で防げるという自信は経験から得られているのだろう。飛竜よりも強力な竜、つまりドラゴンのブレスに対抗するには危険すぎる。万一調査の途中でドラゴンに遭遇して戦わざるを得なくなったとき、そのブレスに対抗する手段が必要だ。僕の不可視の障壁は熱や電磁波には余り効果が無い。熱を効果的に防げる障壁を僕の超能力で作り出せるだろうか。それに炎以外のブレスも考慮しないといけない。そうなるとむしろブレスを吐く前に瞬殺できる強力な攻撃か…。考えておく必要がありそうだ。何しろ、散らばって戦闘中は全員を連れてテレポートで逃げることができない。
町への帰路、僕はそんなことを考えていた。
★あとがき(撮影現場にて)★
ノア:「はー、無事に終わって良かった。ロケ弁4個も良かった」
ご苦労様でした。
ノア:「地上に落とした後の場面の飛竜は作り物だったよね」
ええ、このあとCGでリアルにイフェクトつけますから。
ノア:「予算がなかったんじゃないの」
まぁ、必要なところだけはってことで。
ノア:「できれば全部CGにして欲しかったなー。ブレスは熱かったんだからー」
まぁ,無事に済んだって事で…。次は森の中で2匹が相手ですからね、よろしくお願いしますね。
ノア:「うそでしょ、2匹って」
大丈夫ですよ、今度は主人公が活躍しますから。
ノア:「本当でしょうね、2匹のブレスなんて本気じゃなくても、こっちが死んじゃうから」
心配ありませんよ。撮影中の事故はなかったことに…いえ、起こしませんから」
ノア:「今なんか言ったー」




