27 魔術師、アルプの町に着く
トールやコレトの町と違って、アルプの町に壁はない。街道の先に円形の大きな広場があり、その周囲に町が出来ている。町に入り口となる街道脇に石造りの小屋があって番兵が建っているが、検問はしていない。出入りは自由である。広場を中心に無秩序に広がって行った様子がうかがえる。街道はこの町で終わっている。広場の作りは他の町と同じで、馬車を止める場所が一角にあり、乗合馬車もそこに止まった。
いいかげん座っているのに飽きたノアが扉をあけて跳びおりようとすると、護衛の一人が制止した。
「降りるのはちょっと待ってくれ。何かおかしい」
窓から外を見ると、広場がなにやら慌ただしい。兵士の隊列がどこかに走っていく。大きな建物の前に女たちが集まり、大きな声をあげている。
「様子を見てくるので、お客さんたちは馬車の中で待っていてくれ」
「何があったのでしょう。夫が働く工場の事務所に人が集まっているようですわ」
「稼ぎに来たのに騒ぎはゴメンだよ」
護衛の一人が戻ってきて告げた。
「どうやら町の外にある鉱石工場に飛竜が現れたようです。幸い被害が出る前に避難ができたようで、避難の混乱で何人かが軽い怪我をしただけで、全員無事のようです。工場に留まり、町の方には来る様子はないようですので、一旦降りていただきます。どうかお気をつけて」
待ちくたびれていたノアが真っ先に飛び降りた。僕らがそれに続き、女性二人に手をさしのべる。アリアナさんは慣れているのか、無言で手をとって馬車からおり、リーザさんが続いた。
「おや、紳士だねえ。淑女になった気分だ。店に来たらサービスするよ」
リーザさんに手を貸したのはトールだ。これはもう絶対に行くに違いない。
「それでは皆様、ここで失礼させていただき、工場の様子を伺いに参ります」
「わたしも同行させいただいてよろしいでしょうか。飛竜の様子などが分かればと思います」
ソアの申し出にアリアナさんは頷くと、事務所前の人混みに向かって歩き出した。ソアがあとに続き、僕たちに言った。
「さきに宿に行っていてください。様子を聞いてきます」
「頼むぞ、荷物は俺たちで宿に運んでおく」
御者がみなの荷物を下ろし始めた。リーザさんは自分のトランクを持つと
「店で待ってるわよ」
といって去って行った。トランクがひとつ残っている。アリアナさんの荷物だ。
「仕方あるまい」
そう言って御者のひとりがトランクを手にすると、アリアナさんの後を追って事務所に向かった。
どの宿にするのかソアと決めていなかったことに気づき慌てたが、どうやらこの町の宿は一軒しかないらしい。宿の場所を御者に教えてもらい向かった。宿では適当な部屋の空きがなくて、4人部屋を二つとることになった。もちろん僕はトール、ゴードと一緒の部屋だ。ソアが戻るまでそれぞれの部屋で待つことにした。
しばらくすると、僕らの部屋のドアがいきなり開いた、ノアである。
「ソアが戻ったよ」
「ノックぐらいせんか!」
「わかった」
そういって、すでに開けたドアをノックする。
今になってノックしても、意味ありませんからね…
「ソアを呼んできてくれ。ちょっと狭いが仕方がない。この部屋で打ち合わせだ」
「呼んでくるよー」
そう言ってドアも閉めずに去って行った。しかたなく僕がドアを閉めると同時に、また開けられた。
「呼んできたよー。あ、忘れてた」
そう言ってドアをノックしている。
「戻りました。飛竜の話もなんとか聞くことが出来ました」
「昼頃に森から飛竜が1頭あらわれたそうです。巣のある山の中層から森に来ることはあっても、森を出てくることは滅多にないそうです。幸いにも襲来の発見がはやく、人的被害はありませんでしたが、工場の建物が一部破損したそうです。30分ほどで森に帰ったそうですが、山にもどらずまだ近くの森に潜んでいる可能性があり、工場の再開の見込みが立っていないようです。討伐を軍に依頼することを検討しているそうです」
「軍がやってくると、ドラゴンの調査に支障があるかもしれんな」
「かえって都合がいいかもだよー」
「その可能性もある。どちらに転ぶか分からんな」
「どうしてギルドではなく、軍に討伐を依頼するのでしょうか?」
「ミスターの言うとおりだな、普通ならギルドに依頼するところだ」
ソアがその理由を説明した。この工場で作られているものが国にとって非常に重要なものであることが軍が関係する理由だとか。僕は何を作っているのか尋ねた
「作っているのはこれです」
とソアが出したのは、通信用の曲玉である。
「それって先日の薬師救出の時に渡された」
「はい。返せと言われなかったので、黙ってもらっておきました」
それは借りパクってことでは…
「飛竜のことを聞きにいった事務所の奥の机に、同じ物がいくつか置いてあったのでアリアナさんに尋ねてみました。すると何に使う物かは知らないけれど、工場で作っているものだと」
ソアがさらに説明する。
今の工場が建つ前に、偶然敷地内で白い変わった地層が発見され、中に埋もれている骨の化石から太古の飛竜の墓場であると分かった。飛竜の骨が時の流れによって石化し、白い岩の地層に変化していた。その地層を調べると、骨の化石と共に黒い岩石が見つかった。学者の研究に寄れば太古の飛竜の魔力臓器の化石だという。その岩が薬師救出のときに説明された通信に使える性質をもっていたという訳だ。パルスを発生しやすい形状が試行錯誤によって決められた。それがあの曲玉だった。
「飛竜の墓場、それも化石が地層に変わるほど古いものはここ以外に見つかっていません。不確かな情報にも関わらず公爵が調査を依頼したのは、この工場の存在が理由でしょう」
「飛竜が森から出てきたのって、ドラゴンに追われてたんじゃない?」
皆が思っていたことをノアが口にした。
「さっそく明日、工場にいってみよう。もちろん表向きは飛竜の牙をとるためだ」
★あとがき(撮影現場にて)★
ノア:「ちわー」
はい、はい、こんにちは。今日はロケ弁ありませんよ。
ノア:「えー、なんでないのよ」
ADさんから先に貰って食べちゃいましたから。
ノア:「ずるーい」
ずるいもなにも、僕の分ですからね。
ノア:「そんなことはどうでもいいわ。次回は飛竜との戦闘シーンのテイクがあるのよね」
そうですね。
ノア:「で、気になってるのが、オープンセットの隅にあるシートのかかった大きな檻なんだけど…」
撮影用の飛竜の檻ですけど、なにか。
ノア:「なにか、じゃないわよ。まさか本物の飛竜使って撮るんじゃないでしょうね」
まさかもなにも、それ以外どうやって…
ノア:「着ぐるみの飛竜とか…」
作り物じゃ迫力ないでしょ。
ノア:「CGとか…」
予算がないでしょ。
ノア:「まさかブレスのシーンは…」
もちろん、本物ですよ。
ノア:「あたしの代役がいるようには見えないんだけど…」
もちろん、ノアさんに演じてもらいますよ。
ノア:「うそでしょ」
大丈夫、盾役のゴードも問題ないって言ってますから。それに飛竜はちゃんと調教済みで、ブレスも加減して出しますから。
ノア:「ほんとに大丈夫なんでしょうね」
もちろんです、本気のブレスで事故なんて、たまにしか起きませんから。
ノア:「たまにだって起こってたまるもんですか。ええい、もう、明日のロケ弁は4個もらうわよ、4個!」




