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25 魔術師、市民エリアに行く

兵士からもらったカードのおかげか、商業エリアと市民エリアを隔てる壁は問題なく通過できた。


「こっちのエリアの方が、安くて美味しい屋台があるからねー」


ノアが向かう先には広場があって、大勢の人が集まっていた。奴隷商の店がどにあるのか、看板でも見つけることができれば後で一人で来ることもできると思って周りを見回していると、ノアが僕の腕をつついた。


「何か面倒事かな」


ノアの指さす先に人の輪ができていた。ノアが無理矢理分け入って前の方にでる。僕もノアに続いた。人の輪の真ん中にチンピラ風の男がいて、目の前の子供を脅していた。


「人にぶつかっておいて、ゴメンだけですまそうってのか、ガキが」


異世界でもチンピラのやることは一緒か…


仲裁するつもりで前に出ようとすると、ノアが手で遮って止めた。

「スラムの子供だ、よくあることだよ、1,2発ひっぱたかれるくらいで済むから」

鈍い音がして子供が倒れた。チンピラが殴ったのだ。

「こいつの仲間はいねえのか!」

周りをなめるように見回すが、チンピラに答えるものはいない。

「出てこねえってか、それなら仕方がねぇ、一緒に来い」

子供の髪をつかんで無理矢理立ち上がらせる。

「やり過ぎだよ」

僕のことは止めたのに、ノアが出て行って、チンピラに言った。

「なんだてめえは、こいつの仲間か」


そういうと、いきなりノアに殴りかかった。しかしノアが黙って殴られるはずもない。チンピラが吹き飛んだ。びしょ濡れである。二発目の水球がノアの手のひらの上で浮いていた。バケツ一杯に満たない水でも高速でぶつけられれば濡れるだけではすまない。


人の輪が一斉に後退して距離をとった。ノアが魔術師と知って巻き添えを恐れたのであろう。おかげでこいつの仲間に魔術師がいても、こっそり近づくことは出来ないので好都合だ。

「女の子をなぐろうとするなんて、最低だよー。それにあたしは仲間じゃないからねー」

チンピラは立ち上がると、腰の短剣に手をかけた。

「おかわりだよー、痛!」

水球を投げようとしたそのとき、ノアの手がはじかれた。水球はノアの足下に落ちて周囲を濡らす。その水たまりに小さな石が落ちた。

人混みの輪の中から大きながたいの男がひとり出てきて、干渉魔法の射程外で止まる。ただのチンピラではなさそうだ。


「その辺で止めておけ」

切れ気味のノアが男に手のひらを向ける。男の指が何かをはじいた。とっさにテレポートをしてノアをかばう。十字に組んだ僕の両手から足下に小石が落ちた。

「すばやいな。見えなかったぞ」


指弾とゆうやつか、マンガの技かと思っていたが、ほんとに出来るんだな…


「そりゃどうも」

誰も僕に注意を向けていなかったのか、僕が素早く移動しただけと思われたようだ。テレポートは想像の外だろうから、そう思うのも当然だろう。身体を覆う見えない障壁を維持しながら男を見る。手をポケットに戻してからもういちど出した。何かを握っているように見える。

「面白い、これならどうだ」

そういって何かを投げた。指弾ではない。障壁があっても何かが顔面に飛んでくると、思わず手で遮ろうとするのは本能なのかもしれない。僕の手のひらに何かがあたり、足下に金属の球が転がった。

「驚いたぞ、初見で防ぐとは」


驚いたのは僕の方だ。手首のあたりから、もう一つの球が下に落ちる。手のひらで受けたものより一回り小さい。こちらはぜんぜん見えなかった、気づきもしなかった。偶然にも手首にあたってくれたが、そうでなければ顔に直撃だった。そうなると障壁の存在がばれてしまったかも知れない。


「冒険者か、見ない顔だな。よそ者か、名前は?」

「ミスター」

「憶えておくことにする。俺はガジンという。また会おう」

そういうと、男はチンピラの腕をねじ上げて引っ張りながら去っていた。


「痛かった」

ノアが手をさすっている。僕は足下の金属の球をひろってノアに見せた。

「こっちの方だったら痛いくらいでは済まなかったかもな」

「次はあてさせないから」

「僕への二回目は二個同時になげてたぞ」

「どうってことない。見え見えだよ」


横からみると、ただふたつ投げただけに見えたのか。

僕は二個目にまったく気づけなかった。

昔忍者マンガで読んだ無角って技かな。

ほんとうに出来るやつがいるとは思わなかった。


「坊主、だいじょう…あれ」

子供はいつのまにか逃げてしまっていた。

「スラムの子供みたいだったからね。チャンスは逃さないよ」

「あのチンピラも子供あいてにあそこまでやることはないのに」

「あの子はスリだよ、たぶん。チンピラを狙ってへまをしたんだ」

「そうなのか、10歳くらいだったぞ」

「まっとうな子供ならそもそもチンピラに近寄ったりしないからね」

人の輪もいつの間にか散って、僕とノアだけが残された。


「人前でテレポートしちゃってたけど…」

「短い距離だったから素早く動いただけと思われたんじゃないか、あいつもそんなようなことを言ってたし」


この世界の冒険者の身体能力は結構すごい。トールもとんでもない速さで動き剣を振るっていた。僕もなりだけは剣士の格好だからな。不思議には思わなかったんだろう。


「あいつは何者なんだ」

「たぶん、どこかの組の用心棒かな」

「組って?」

「市民エリアを仕切るギャング。いくつかあって、縄張りをもっている」

「つい名前を教えてしまったけれど、面倒なことになりそうか?」

「こちらのエリアに来なければ大丈夫だと思うよ」

「そう願いたいね」

「それよりもあそこの屋台に行こうよ、何か美味しそうなものがありそうだよ」

「いい匂いがしているな、行って見るか」


美味しくなかった…

ノアもまずそうな顔だ


「騙されたよー、インチキだー」


いや、僕らが勝手に美味しいと思い込んだだけですから…


その後、美味しい物を食べるまでは帰らないといって、広場の屋台巡りを始めたノアにつきあいながら、さりげなく聞いてみた。


「ノアたちは幼なじみなんだよね?」

「そうだよ、小さい頃からずーっと一緒」

「ソアの両親も村の人?」

「ソアのおとんとおかんはソアが赤ちゃんだったころに3人で村にやってきたはず」

「両親は普通の人だったの?」

「普通の人って?」

「貴族とか、大商人とかじゃない人…」

「知らない、でも言葉が上品だったから裕福な人だったんじゃないかな。どうしてあんな田舎の村に来たのか知らないけど」

「ソアのふるまいが粗野でないのはそのせいなのかな」

「粗野って?」

「ノアみたいじゃないってこと…痛!蹴飛ばすんじゃない!」

「おかんが村の子供とあまり遊ばせず、いろいろ教えていたよ。そのせいか村の子供からいじめられていた。あたしは孤児で村長に育ててもらっていたんだ。やっぱりいじめられていて自然にソアと仲良くなった。ソアがトールやゴードと村を出るって聞いて、あたしも出なくちゃと思ったんだ。ソア以外に村には友達がいなかったから。だから無理矢理ついてきちゃった」

「ご両親は存命なの」

「あたしたちが村を出る少し前にふたりとも病気で死んだ。ソアもあたしと同じひとりぼっちなんだよ」

「村に奴隷はいた?」

「いなかったよー、弩田舎だし」

「冒険者になってから奴隷商の依頼を受けたこととかあった?」

「ないよ」

「さっきの宿の従業員は奴隷だったけど、気がついた」

「気がつかなかった。どうしてわかったの?」

「ソアに教えてもらった。ソアは奴隷のことについて知識があるようだ」

「いつも一緒に行動ってわけじゃないから、一人の時に調べてたんじゃない」

「なぜ調べたのかな」

「わからないよー。気になるの?」


ソアの母親がいろいろ教え込んだのかな…

ノアの話を聞くと父親や母親が貴族出身でもおかしくない気がする。

そして何かの理由で田舎に隠れなきゃいけなかったとか…


「何を考え込んでいるのかなー。奴隷に興味があるんでしょ」

「いや、別に…」

「いいよ、案内するから行って見る?」

「いいのか」

「こっちだよー」


ノアが広場につながる大きな通りのほうに歩き出した。後についてしばらく歩くと、大きな建物の前で止まった。

「看板もなにもないけど、ここでいいのか」

入り口も普通の商店とちがって小さなドアがひとつあるだけだ。ノアが勝手に開けて入っていく。あわてて僕も中に入ると、まっすぐな通路の先に扉があった。その前にたつと小さな窓があいて、身分証をと言う。

「ギルドカードを見せるんだよ」

「これか」

ノアのカードを受け取り、僕のカードと一緒に小窓にかざすと、カチャリと音がして扉が開いた。

「ようこそいらっしゃいました。中におはいりください。ただいまお取引できる奴隷の一覧がそちらにありますので、興味をお持ちの奴隷がいましたらお声を掛けてください。別室にて本人をご覧いただきます。ではご自由にお選びください」


いきなり奴隷が並んでいるわけじゃあないのか…


一覧は羊皮紙の束で、1枚ごとに奴隷の似顔絵と特徴が書かれている。


「奴隷がずらっと並んでいて選ぶのかと思っていた」

「それは競売のときだけだね。普段はこうやって選んで取引をしている」

「なぜノアが知っている?」

「前に一度トールにつれてこられた。その羊皮紙の一覧を見ただけで帰ったけどね。冒険者として知っておかないとなんて言ってたけど、絶対ウソだよねー」


羊皮紙の束を手にとって一番上を見る。番号の後に似顔絵、そして年齢が書かれている。名前はない。美人さんだ。つづいて魔力の大小などの能力の説明がある。最後の数字が値段なのだろう。1400とある。


これって金貨の枚数だよな…

トールが見ただけで帰った訳はこれだな。

ざっと30000000円から40000000円だ。

確かに貴族か大商人じゃないと買えないな…

これって、本人をみせてもらおうとすると金を持ってるか聞かれるよな…

ノアのやつめ、こうなることを分かってて連れてきたんだな。


「出直すか…」

「トールとおんなじだ」

ノアが笑った。


帰りがけに声を掛けられた。

「冒険者の方ですね。たっぷり稼いだら、またお越しくださいませ」


嫌みなやつだ…

必ず来てやるから、待ってろよ。

あてはないけど…


実際にはもっと安い奴隷もいるのだが、このときの僕には知るよしもなかった。


★あとがき(撮影現場にて)★


ノア:「ちわー、あれ、ロケ弁がないよー」

いや、ここのは僕の分ですから。もう食べちゃいましたよ。

ノア:「えー、あたしが撮影中に先に食べちゃうのってずるくない?」

先にも何も、自分の分は配布されましたよね。

ノア:「それはそれ、これはこれよ」

食べ過ぎると午後のテイクに障りますよ。

ノア:「次の撮影って依頼を受ける公爵家のシーンじゃん。アクションないからお腹いっぱいでも大丈夫だよ」

アクションないから寝ちゃったりするのが心配なんですよ。

ノア:「例のメイドが出てくるんでしょ。寝るわけないじゃん」

そのあとの馬車のシーンでは新たな女性も二人登場しますからね、ちゃんと台本通りにお願いしますよ」

ノア:「はい、はい、アドリブなしですね」

ノア:「奴隷の娘を買うって流れにならなかったから、ちゃんとやってあげるよー」

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