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23 魔術師、王都に向かう

円形広場にある軍司令部に着くと、兵士がひとり敬礼をして出迎えてくれた。

「お待ちしておりました、ソフィア殿、トール殿、それにお仲間のみなさん」


軍の兵士はほぼ例外なくソアのことをソフィア殿って呼ぶ。まぁ確かにソフィアなんだけど、本人がソアと呼んでくださいと頼んでも変えない。ソアも諦めてしまったのか放置状態だ。


どうしてソフィアって呼ばれたくないんだろう…

何か事情でもあるのかな…

本人に聞いてみるのも何か地雷を踏みそうでこわい。

あとでノアにさりげなく聞いてみよう。


「馬車の用意が出来ています」

2台の大型馬車が並んでいた。6頭立ての馬車だ。1台は乗客用の豪華な作りで、もう1台は荷物用なのか、窓のないがっしりとした作りの四角い貨車のようだった。今は後部の扉が空いていて、兵士が荷物の積み込み作業をしている。ほとんどが食料と水、それに調理道具のようだが、短槍などの投擲武器も束にして積んでいる。馬車の下にはタルト氏の馬車のように細い薪の束が括り付けられていた。軍用のためかタルト氏の馬車よりも車輪が大きく、下部のスペースも大きい。よく見ると予備の車輪も床下に横にして積んでいた。


「皆さんの荷物は、こちらの乗客用の馬車に一緒にお持ちください。中に荷室があって手荷物を置くことができます」

乗客用の馬車に乗り込むと、中はまるで普通の部屋のようになっている。後部は左右が上中下三段のベッドになっていて6人が寝られるようになっている。カプセルホテルのように狭いけれど軍用なので効率重視だ。


中央には小型の机が置かれていて6脚の椅子が左右に3つずつ並んでいる。机と椅子は床に固定されているようだ。移動司令室として使うための馬車なのかも知れない。一番前の部分には両側に作り付けのロッカーのようなものはあって扉がついている。先ほどの兵士が言っていた荷室というのはこれの事なのだろう。ノアが早速扉を全部開けて見ている。


「何もはいってないよー」

「そこにはわたしたちの荷物をいれるのですよ」

ソアは左のロッカーの下の棚に自分の荷物を置いた。

「あたしは上の段にするー」


ひとつのロッカーは上中下3段に仕切られている。ベッドと同じ6人分ということだ。ならば男3人は反対側のロッカーにすれば良いかと思って荷物を持っていくと、

「ミスターはあたしとソアの真ん中だー」

ノアが僕の荷物を奪い取って置いてしまった。


その間にトールとゴードがベッドを確保している。右側の上下2段を使うようだ。僕は真ん中かと思っていると、ノアが横をすり抜けて行き、左側の一番上に横になる。

「せまーい!ソアは一番したー。ミスターは真ん中ー。ノアとソアの間だよー」

無視をして右のベッドの真ん中を確保しようとしたらトールが自分の予備の剣を放り込んでいる。

「武器は身近におかないとな。ミスターは左を使ってくれ」

そう言ってノアの方をみて笑った。

「ナイスだよリーダー」


まぁ5人一緒だ。

変なことは起こらないだろう…


中央に戻り、右側の真ん中の椅子にすわる。


考えなしについ真ん中にしたのがまずかった…


ノアがベッドから降りてきて僕の隣に座った。

「あたしはここー。ソアはミスターをはさんで反対側ねー」


トールがやってきてソアの向かいの席に座ると僕に言った。

「さて、なんでまた宿の部屋を借りっぱなしにするのか聞かせてもらおうか」

ソアもやってきてノアの指示通り僕の隣に座る。

「わたしもお聞かせ願いたいです」

「わたしもー」

3人が僕を見つめて答を待っている。どうせ話すつもりだったし、皆が知っていれば今後のパーティーの行動にも役立つだろう。

「ゴードも聞くか?」

トールが声をかけると、ベッドで手を振っている。関心がなさそうだ。


外から兵士が出発しますと声をかけてきた。同時に馬車が動き出す。


馬車にゆられながら説明を始めた。

「魔法なんだけど、ものを自由に出したり入れたりできる魔法ってあるんですか?」

聞いたことがないとトールが答える。

「不可能魔法ですね、おとぎ話です」とソア。

「では、自分や物を別の場所に移動させる魔法は?」

「聞いたことはないな、そんなおとぎ話は」

「魔術師の間では有名だよ、転移魔法って言って、三大不可能魔法のひとつだねー」

「まさかおまえには出来るというのか」

「すみません、できます…」


あやまる理由はないんだが、つい…


「テレポートといいます」

「あたしは知ってたんだよー」

「わたしも先日の依頼のさいに、教えていただきました」

「二人には先の依頼のさいに打ち明けました」

「知らなかったのは俺とゴードだけってことか」

「ふたりに打ち明けたのもつい先日ですから。それでトールさんとゴードさんにも打ち明けようと思ったのです」

「今ここで見せてもらえるような魔法か?」

ゴードの方を見て、テレポートした。

「ここです」

ゴードのベッドの横に立って声を掛けた。目の前から僕が消えたことに驚いて固まっていたトールが僕の方に顔を向けた。それを見て僕はもう一度テレポートして、前の位置に戻った。

「信じられん…」

「僕の近くにいれば一緒にテレポートすることもできます。少々制限があるので万能ではありませんが便利ですよ」

「便利どころか無敵じゃねえのか」

「いろいろと制限もあるので…」

「目で見えないような遠くにも行けるのか?」

「あらかじめ準備をしておけば可能です。一度もいったことがないような場所は無理ですね。ここからトールの町には行けますが、王都にはいけません。僕には王都の位置が判りませんから」

「今から町にもどって女将のエールをもらってきてくれ。驚いて口がからからだ」

「もどるまで馬車を止めておいてもらえれば出来ますよ」

「動いてちゃダメなのか」

「女将の宿は動かないのでいけますが、エールをもらっている間に馬車が動くと帰ろうと思った時に馬車の位置がわかりませんから。位置がわからい場所には移動できません」

「そういうことか」

「見えている場所なら、見れば位置がわかるのでどこでも可能です」

「遠くの山のてっぺんでもか?」

「さすがに無理ですね。山の頂上は見えても、遠すぎて移動先の地上の位置が正確に確定できませんから」


いったん山の上空に飛んで、そこから目で見て再度地上に飛べばいけるけど…


ソアは判っているはずだが口をはさまなかった。

「なるほど。それでこの魔法が宿の部屋を借り続けることと関係があるのか?」

「出かける前に僕の部屋にテレポートのための基準点を設けてきたんです。つまりいつでもそこに飛べます」

「なるほど、どこにいても荷物を部屋に置きに行けるってことか」

「もどる位置さえわかっていれば、荷物を取りに行くこともできます。条件次第では荷物だけ送ったり取り寄せたりもできます」

「条件というのは」

「ちょっと複雑な話になるので、説明は後でってことにさせてください、ただ、戦闘中とかに激しく動きながら自由に使うのは難しいですね」

「おまえが教えたらノアやソアにも使えるようになるのか」

「そうであれば良かったのですが、無理ですね。僕にしか使えません」

「教えたくないってことじゃなくてか」

「能力的にってことです。二人が使えればいいなって僕も思ってはいるのですがね」

「荷物はどんなに大量でも持ってテレポートできるか?」

「限度はあります」


航空母艦くらいはいけますけどね…


「そうか、今度の依頼に役に立ちそうじゃねえか。頼りにさえてもらうぞ、ミスター」



王都への旅は町をいくつか経由する。軍の馬車ならば町と町の間はほとんどの場合一日で移動可能だ。町で宿をとるので野営の機会はほとんどなかった。昼食は街道途中の野営場所で馬車を止めて、後ろの貨車に乗っている兵士が用意をして僕らの馬車に持ってきてくれる。昼食がすめば出発。日が落ちる前には次の町に着くので、移動の間に野営をする事は一度もなかった。


ちょうど10日後、僕たちは王都についた。


★あとがき(撮影現場にて)★


ノア:「王都までの途中で何かあってもよかったんじゃない?」

何かって?

ノア:「また盗賊に出会うとか、魔物が襲ってくるとか」

話が冗長になって、だれるんじゃない?

ノア:「そこが脚本家の腕の見せ所じゃないの」

いや、王都での依頼が何かってことと、王都で何か起こるのか、

これが関心事なんだから、あいだをあまり開けない方が…

ノア:「そうなの?」

そうなんだよ。王都では依頼の他に、この後の展開に関係する出来事がたくさん起こるんだから、台本ちゃんと憶えておいてね。

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