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20 魔術師、ソアと金策する(承前)

ソアと二人で森の中を警戒しながら進む。オークというのは謎の言語チートによって僕に認識されている単語だ。日本のファンタジー小説のオークとは同じではないことを繰り返し頭の中で言い聞かせる。先入観を持つと虚をつかれる恐れがある。


「オークというのはどんな魔物なのですか」

「二足歩行のゴリラのような魔物です」


豚ではないのか…


「驚異的な腕力と、わずかな知性を持っています」

「頭がいいのですか?」

「武器を作って使う程度には」

「どんな武器を?」

「ほとんどはお手製の棍棒ですが、中にはヒトから奪った剣や槍、弓を使う個体もいます。そして最も脅威となるのは、魔法を使う個体が存在することです」

「魔法ですか…」

「はい、ですが幸いなことに魔物が使う魔法は実魔法だけです。視力は良くありませんが魔力感知にすぐれ、ヒトの魔術師並みの能力です」


僕に魔力感知が出来るといいのが…

魔力がぜんぜん理解できないんだよな…

とりあえず赤外線感知で熱を感じられるようにして周辺を警戒している。

オークと遭遇する前に、僕の魔法、いや「トクギ」のことをソアに話しておこう。


「聞いてください」

「何でしょうか」

「僕が魔法を使えるとノアが皆さんにいいましたね」

「ノアがあなたはすごいと言っていましたね。あなたはわたしの魔力感知にかからないので、魔力はほとんどゼロのはずです。ノアの冗談だと思っていました」

「すごいかどうかはともかくですが、僕の力は魔法ではないのです」

「魔法ではない?」

「みなさんには魔法に見えますが違います」

「あなたがノアのためにに水をだしたとき、ほんとうに魔法が使えたことに驚き、同時に違和感を感じました」

「本当は違うのですが、説明が難しいので一応魔法と思っていてください」


「僕は力をできるだけ隠そうと思っていました。でもノアが僕を守ろうとしてあんなことになって考えを変えました。すくなくとも皆さんの前では遠慮をやめようと。これから僕の力を使って薬師を見つけ、ふたりで軍を待たずに救出しましょう。軍を呼ぶより確実です」

「いったいどうやって?」

「まず空から探してみます。驚いてここから動かないでくださいね。それと他言無用ですよ」


100メートルほど上空を見つめテレポートした。空中に出現したら重力をコントロールしてその場で浮遊する。下を見るとソアが上を見上げている。空から探すという言葉で上と判断したに違いない。ソアに手を振り、周辺を見渡す。地上にいたときには見えなかったが、ソアの前方に10畳間ほどの草地があった。薬師が薬草を採取するポイントに違いない。

薬師が隠れているとすればその近くのはずだ。周辺はオークらしき魔物が多数赤外線感知で確認できる。遠くまで見つからずに移動できるとは思えない。


さらに良く観察すると、ソアの位置から20メートルほど離れた所に倒木がいくつも折れ重なっている場所があった。倒木と重なって微かだが熱が感知される。薬師が隠れているのかもしれない。その近くにはっきりとした熱源がひとつある。上空を移動し、倒木の真上に来た。すぐ近くにオークが一匹陣取り、その足下に兵士がひとり倒れている。熱反応はない。戦って義務をまっとうしたのだろう。幸い半径20メートル以内にはオークと思われる熱反応はない。地上にいると多くの熱反応が重なってしまい分かりにくいが、上空からだと良く分かる。ソアの待つ場所も視認できた。これならテレポートを使って速攻で決められる。オークの位置を再確認してソアの元に戻った。


目の前にいきなり現れたのにソアは全く動じない。事前に話してあったとはいえ、たいした精神力だ。ソアの手を取ると倒木の上空に再度テレポートした。空中に出現した時、かすかにソアの声がして、僕の手を強く握り返した。


「落ちたりしませんので、手を離してください。下にオークがいます。他のオークに気づかれないように速攻で倒します」

ソアは手を離したが、不安なのか僕の腰に腕をまわし身体を寄せる。オークを倒すのには問題ない。光の槍を数ミリまで細くして右手に出現させ、オークに放った。魔法と違って

放った後も軌道を制御できる。はずす恐れはない。


側頭部に命中した光の槍は小さな穴を穿ち、貫通せずに消滅した。爆発音もない。大きな棍棒が手から滑り落ち、オークは声もあげず静かに倒れた。オークの足下にソアと共にテレポートすると、ソアの腕をゆっくりとふりほどき、倒木に近寄って下の隙間をのぞき込む。薬師がふたり枯れ草を被って伏せていた。


「もう大丈夫ですよ。助けに来ました。出てきてください」

薬師は伏せていた顔をあげ僕をみると、声こそ出さないが歓喜の表情をしめした。

「ソア、干渉魔法で眠らせることはできますか。短時間で大丈夫です」

黙って頷く。二人の薬師が這い出てきた。一人が僕の手を取ろうとして崩れ落ちる、ソアの睡眠魔法だ。予想外の出来事に硬直しているもうひとりの薬師も崩れ落ちた。

「ノアと違って長くは持ちません。急いでください」

ソアの手を取り、倒れている薬師のすぐ近くにより、上空100メートルほどにテレポートした。薬師は僕の足下に浮かんでいる。4人を同時に重力コントロールするのは少々きつい。遠くに見える草原の丘を視認すると、再度テレポートした。はっきり見えてさえいれば距離は関係ない。


丘の頂上の5センチほど上の空間に出現した。僕とソアは段差を降りる感じで着地。睡眠中の薬師はドスンと地面に転がり、そのショックで目をさました。何が起こったのか混乱しているようだ。


「すみませんでした。急いで森から脱出しなければなりませんでしたので、お二人を眠らせてここまで運ばせてもらいました」

「運んだって…どうやって」

「僕が担いで…」


絶対に信じないぞって顔で僕を見ている。

しかし否定できる証拠はない。

僕が言い張れば認めるしかないはずだ…


「軍のテントは少し先です。歩けますか」


また眠らされるのはゴメンだとばかりに二人は遠くに見えるテントに向かって歩き始めた。


「軍にはなんて説明しますか」

「僕にまかせてください。ごまかすのは得意です」

「わたしも得意ですよ」


ソアの手が僕の手をつかんだ。

「わたしたちも行きましょう」

ソアと僕は薬師たちから少し離れて歩き始めた。


森とは反対側の丘を降りている僕たちを発見した見張りの兵士が、司令官のテントに駆け込むのが見えた。薬師と僕たちが到着したときには司令官をはじめとする将校たちがそろってテントの前に立っていた。周囲の兵士たちは一人残らず敬礼をしている。ソアと僕に敬礼をしているのか、それとも集まっている将校たちに敬礼をしているのか…


僕たちということにしておこう。気持ちがいいじゃないか。

さぁ、これからが一仕事だ。

司令官になんて説明しよう…




テントの中で将校たちから説明を求められた。


「ソアさんと僕でとりあえず薬草の採取場所である空き地を目指しまた。僕の案内で出来るだけ速く移動できる道で進んで目的地に無事つくことが出来ました。木の陰に隠れて様子を見ていたのですが、ソアさんが薬師さんは遠くまで逃げられるとは思えない。必ず近くに潜んでいるに違いないと言って周囲をさがし始めました。そして見つけたんです!すごいです、ソアさんは」


「そんな(デタラメを…)」


「謙遜する必要はありません。倒木の下に二人潜んでいるというのです。しかしそのすぐ近くにオークが一匹いて、護衛の兵士さんがひとり倒れていました」

「うむ、立派に義務を果たしたのであろう」

「すぐに報告をするのかなと思ったら、僕に全力で草原まで走れるような道はあるかと聞くんです。道とはいえませんが、僕が木や枝に邪魔されずに走り抜けられるコースは分かると言うと、なんと目の前のオークを倒してすぐに救出するというのです」


「だから(デタラメが過ぎます…)」


「止める間もなく、弓でオークを倒したんです!すぐに倒木の下から薬師さんを助け出すと二人を眠らせ、僕にかつげと言うんです。二人もかついで走るのは無理ですと言うと、僕に回復魔法を掛けたんです。するとです、それまでの疲労がなくなったどころか力がみなぎって、軽々と二人を担げたんです」


「回復魔法は…(そんな効果なんてありません!)」


「あとは二人で必死に走りました。僕の知っている秘密のコースは草原に出る場所がここより少しずれているので、テントに戻るのに草原のほうからやってきたわけです。途中オークに発見されましたが、ソアさんの弓のおかげで逃げ切れることができました」


「なんと素晴らしい、さすがは一流の冒険者だ。救出作戦では多数の兵の犠牲を覚悟していたのだが、ソアさん一人で助け出してしまうとは」

「わたしではなく、すべてミスターの力で…」

「そうでしたな、二人も担いで森の中を走るというミスター殿の力がなければ薬師を連れ出せませんでしたな。ミスター殿もお手柄ですぞ」


このあとソアは軍にはいらないかと強く勧誘され、僕までソアさんの従者としてどうだと勧誘された。二人で必死に固辞し、なんとか司令官から解放された。


繰り返してのテレポートと4人同時に重力コントロールをした負荷で疲労がたまったのか、帰りの馬車ではソアさんに寄りかかってしまい、ついには膝枕状態になってしまった。必死に起き上がろうと思ったが身体が動かない。

「兵士さん、馬車はできるだけゆっくりと走らせてくださいね」

という声が遠くで聞こえたような気がしたが、そのまま意識を失ったようだ。


後で聞いた話だが、町の入り口でトールとノアが出迎えてくれたそうだ。しかしノアが馬車の扉をあけて中を覗いた途端、いきなり炎を放ったとか。御者の兵士は飛び降り、ソアさんが寝ている僕を抱きかかえて馬車から飛び出したので、けが人は出なかった。抱きかかえられている僕を見たノアが再度魔法を放とうとしたところをトールが拳骨で止めたそうだ。


馬車が使い物にならなくなった事で、せっかくの報酬から馬車の弁償金が天引きされていた。受付のおねえさんも今回は上手くやってはくれなかった…


軍用の馬車って、なんであんなに高価なんだ…

それに、そもそもなんで僕が弁償を…

★あとがき(撮影現場にて)★


ノア:「あれは何!あれは」

あれって?

ノア:「主人公が馬車の中でソアといちゃいちゃ…」

それよりも、ノアさん、お仕事は?

ノア:「やな予感がしたので早く切り上げてきたのよ」

だからと言って、本番中に飛び込んじゃったりしたら…

ノア:「アドリブよ、アドリブ!」

ノア:「でも、トールのやつ、本気で殴るなんて、絶対演技じゃなかったよね、あれ」

馬車を壊すからでしょう。大道具さんが怒ってましたよ。

ノア:「あたしのせいじゃありませんよーだ」

まぁ、まぁ、次回からはパーティーで依頼を受ける「飛竜編」の開始ですからね。

撮影前にソアさんたちと仲直りしといてくださいね。

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