表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/175

19 魔術師、ソアと金策する

ザードの村から戻った二日後、宿の部屋でのんびりしているとソアがやってきた。以前の事があったので少々緊張してドアを開けたのだが、自意識過剰を恥じる結果になった…


「実はわたしに軍からの指名依頼がありました」

「パーティーではなくソアさん個人にですか」

「そうです」

「危険な依頼なのですか」

「危険と言えば危険です。それもかなり」

「断れないのですか」

「建前上は任意ということになっていますが…」

「わかります。僕の育ったところでも任意すなわち強制みたいなことばっかりでした」

「それでミスターに同行していただきたいのです」

「なぜ」

「ノアが絶対に頼りになるからと言ってるのです」

「ノア自身は行くと言ったりしていないのですか」

「ミスターを連れていかないなら、ノアがついて行くと言っています。しかし今回の依頼ではノアの火力は有効ではありません。ノアもそれを判っています」

「ノアの魔力感知が役に立つのでは?」

「わたしの感知で充分です。あなたを連れて行くのは危険だと話したのですが、どうしてもと言ってききません。わたしのためだと」


ソアのためか…

僕の能力についてソアにも打ち明けた方がいいのかな…


「同行させてください。きっとお役にたてますから」

「ではお願いします。準備してギルドに来てください。野営の用意などは不要です。わたしは先に行って待っています」


大急ぎで冒険者の装備を身につけるとギルドの裏のポイントにテレポートした。表通りに出て、すぐにギルドに行くと、

「速いですね。わたしもつい今し方ついたところです」

受付のお姉さんが僕を見て尋ねた。

「ミスターはなぜここに?」

「わたしが同行をお願いしたのです」

「なぜ?この方には危険すぎると思いますよ」

「わたしが責任を持ちます」

「そういうことならば…」

ソアに1枚の羊皮紙を差し出した。

「依頼の内容が書かれています。読み終わったらそれを持ってルキア森林の入り口に向かってください。軍の迎えの馬車がこちらに向かっていますので途中で拾ってもらえると思います」

その場で目を通すと、羊皮紙を丸めてショルダーバッグにいれた。

「ではミスター出かけましょう。トール街道をコレトの町の方向に進みます」


街道をしばらく進むと軍の迎えの馬車がやってきた。僕らの前で止まると御者の兵士が馬車の上から尋ねた。

「車上より失礼いたします。ソフィア殿でしょうか」

「ご指名をいただいたソフィアです。ソアとお呼びください」

「指名はソフィア殿…ソア殿おひとりと聞かされておりますが、そちらの御仁は?」

「わたしが同行をお願いしたかたです」

「ミスターと申します。ソアさんに同行させていただきます」

「それではお二人とも馬車にお乗りください。ミスター殿についてはソア殿がご自身で司令官殿にお話願います」


ソア一人を想定していたのか、立派な作りだが小型の馬車で、向かい合わせの座席ではなく、前方を向いたシートが一列だけの馬車であった。軍用の馬車らしく、快適さは重視されていない。シートは狭く、ソアと二人で座ると身体がぴったりと密着する。ノアならば大はしゃぎだろうが、ソアさんはいつもの凜とした姿勢を崩さず前を向いて座っている。動き出すと、馬がつぶれるのではないかと思うような速さで走り、揺れがひどい。左右に大きく揺れる度にソアに寄りかかってしまわないように身体を固くして耐えているのだが、ソアは揺れに身を任せて僕によりかかってくる。そんな時でもソアは目を閉じて無表情のまま前を向いたままだ。


依頼のことを考えているのだろうか…


途中の分岐で街道をそれ、馬車がやっと通れる狭い道を30分ほどすすむと前方に森が見えてきた。ザードの村にあったような小さな森ではなく、見渡す限り続く森である。草原はここで終わりだ。その森の手前で道はなくなり、今度は森に沿って進んだ。さらにひどい揺れに耐えていると軍用の大きなテントが3つ見えてきた。中央のテントの前で馬車が止まる。


「お疲れ様でしたソア殿、ミスター殿。到着です。テントの中で司令官殿がお待ちです。お急ぎください」

テントの前の警備兵が駆け寄ってドアをあけ、脇に寄って道を空けた。

僕が先に降りてソアに手をさしのべる。ソアは少し微笑んで僕の手をとり、馬車を降りた。


はずかしー、こんなことを自分が出来るとは思ってもみなかった…


「ソフィア殿お一人ではないのですか」

「司令官にはわたしが説明します。案内をお願いします」

「はっ!」

敬礼をすると僕らの前に立ってテントの中に入っていった。


「司令官殿、ソフィア殿が到着しました」

大きなテーブルの前で地図を広げて会議中のようだったが、明らかに司令官と判る軍服を着た軍人が顔をあげた。

「ソフィア殿、そちらは何者ですかな」

「わたしと同じパーティーの一員でミスターです」

「なぜ彼をここに、依頼には他言無用としたつもりだが」

「彼を同行させることが、わたしが指名を引き受ける条件です」

「それほど役にたつのか」

ソアはわたしの方を向くと、僕の目を見つめた。


わかりますよ、ソアさん。

話は合わせます…


かるく頷くと、ソアが司令官に言った。

「彼はこの森に詳しいのです。森の中でオークを避けながら移動するには最適の人物です」


よく表情も変えずすらすらとデタラメを…


「ミスターと申します。森の中は僕の庭も同然です。お任せを」

「そうか、ソフィア殿の判断にまかせる。ミスター殿にもそれなりの報酬を支払おう」

「ありがとうございます」

「では状況を説明する。概略は依頼書に書いたが、この地図を見てくれ」

地図と言っても森の奥の方は空白だ。


司令官の説明によると、次のような状況だった。


ルキア森林は王国が支配するる森だ。貴重な薬草が多く自生している。定期的に軍が魔物を討伐し、その時に宮廷の薬師が薬草を採取しているのだ。今度もいつも通り魔物の討伐後に薬師が二人、5人の護衛に伴われて薬草の採取のために森に入った。しかし、そこで想定外の事が起こった。普段は森のはるか奥を縄張りとするオークの群れが移動を始めて薬師の採取場所の近くに陣取った。群れが分裂をしてその一方が新しい縄張りを探して移動してきたらしい。薬師たちは予定の時刻になっても戻らず、運悪くオークに遭遇したのではないかと思われる。しかし、軍の魔術師によれば、森に詳しい薬師ならば、もしも護衛が時間を稼いでくれれば身を隠すことに成功しているかも知れないという。軍の殲滅後も危険性の少ない小型の魔物は多数残っている。魔力感知では薬師たちと小型の魔物の区別がつかないことを薬師自身は知っているはずだ。だからどこかに隠れて生存している可能性があるのだと。そして司令官は、5人の護衛は命をかけて必ず薬師を逃がすはずだと断言した。


薬師たちが携行しているのはわずかな水だけなので一刻も早く救出しなければならない。大勢の兵士が森に入ればオークが活発化し、薬師が見つかってしまう恐れがある。そこでソアに森に潜入してもらい、隠れている薬師の位置を見つけてほしいというわけだ。そしてそれにはソアでなければならない理由があるのだという。


「ソフィア殿にはこれを持っていて欲しい」

司令官は曲玉のような形の石をソアに渡した。

「運良く薬師を見つけても、その場所を報告に戻る時間が惜しい。もしも薬師を発見したら、一緒にとどまり、この石をつかって位置を報告して欲しいのだ。この石で位置を報告するには回復魔法が必要なのだ。このあたりで回復魔法が使える冒険者はソフィア殿しかいなかった。それがソフィア殿を指名した理由だ」

「この石と回復魔法でどうすれば報告できるのですか」

「その石はギルド間で連絡を取り合う通信手段として開発されたものだ。意味のある通信をするには石の他に大きな装置が必要なのだが、そんな大きな物を持って森をうろつけん。しかし位置を報告するだけなら石だけで可能だ。その石に回復魔法をかけると理由は分からんが、魔力のパルスが発生するのだ。そのパルスをテントにある受信機で受ければ、位置を特定できる。パルスの到達距離は機密だが森の最深部からでもここまで届くということだけは言っておこう」

「つまり薬師たちを発見したらその場に一緒にとどまり、この石に回復魔法をかければ良いのですね」

「その通りだ。ソフィア殿たちはオークと戦う必要はない、いや戦ってはいかん。ソフィア殿、そしてそちらのミスター殿がいくら強くても二人だけではオークの集団にかなわん」

「護衛は探さなくても良いのですか」

「薬師の救出が最優先だ。薬師が救出できたら兵が森に入り、オークの殲滅と護衛の捜索を行う」

「護衛に生存者がいて薬師の前に発見したらどうしますか」

「その場所で救出を待つように伝え、薬師の発見を優先してくれ。同行させてはいかん。人数が増えればオークに発見される可能性が高まる。兵は命を捧げる覚悟を持っているはずだ。ミスター殿、軍の依頼を受ける以上お主にも覚悟は持ってもらう。もしも薬師を発見する前にお主たちがオークに遭遇したら、お主は命にかえてもソフィア殿を守るのだ」

★あとがき(撮影現場にて)★


今回は別の仕事でノアがいません。

と思っていたら…

ソア:「失礼します」

え、なぜここに…

ソア:「ノアから聞いたんですよ」

ソア:「ここに来るとロケ弁が余分にもらえるって」

あれは、たまたまですから…

ソア:「わたしの分はないと…」

ソア:「それでは、代わりにわたしをヒロイン枠にしていただくことで手をうちましょう」

ノアさんに知られると…

ソア:「大丈夫ですよ、ロケ弁与えておけば」

ソア:「では、わたしの真剣な演技をごらんになってくださいね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ