166 魔術師、はめられる
ベータの解析を聞いた翌日、朝食の後にボーマンからの使いがやって来て、伝言を伝えた。急なことなので書状はないと言い、口頭での伝言だった。
「どう思う、ベータ」
「ダンジョンの入り口前で待つというのが論理的ではありません。当該区域は立ち入り禁止区域として騎士団が警備をしています」
「騎士団や調査団には話を通してあるということだが」
「秘匿したい超能力を相手に示すのに、近くに警備の騎士がいる場所を指定するのは非論理的です」
「リヒトのパーティーの件もあるからな、用心が必要だ」
僕はトールたちを呼んで、これまでの経緯を話した。アリサは絶対に罠だから行くなと言い、ノアは一緒に着いていくと言う。
結局、アリサやノアを説得し、僕とベータがボーマンの呼び出しでダンジョンに行っている間、トール以下全員でギルドに行ってギルマスに経過を報告してもらうことになった。僕は、僕とベータが戻るまでギルドに留まっているようにお願いした。ギルドにいれば口塞ぎに襲われることはないだろうという判断だ。警備の騎士団は信用出来ない。全員でギルドに行き、トールたちがギルマスの部屋に入るのを確認して、僕とベータはダンジョンに向かった。
「マスター、後をつけてくる者がひとりいます」
「ボーマンか?」
「否定。ボーマンより小さな反応です」
僕は空を見上げると、上空遙かな高さにテレポートし、少しずつ下降しながら後方を探った。つけてきたのはガーベラだった。
いったい、どういうつもりだ
まさか残念王女が姿を現すとでも思っているのか…
そのときの僕は、ガーベラが僕を護衛するつもりでつけてきたのだとは欠片も想像できなかった。つい忘れてしまうのだが、僕はガーベラが忠誠を尽くしている残念王女の伴侶なので、僕が危険を冒すのを黙って見てはいられなかったのだ。
「ガーベラだった。どんなつもりか分からないけれど、敵対することはないだろう。無視しておこう」
「ボーマンと闘いになった際の不確定要素として考慮しておくことを進言」
「わかった、考慮しておく」
しばらく歩き、ダンジョンに入り口の近くまでやって来た。前方に入り口を警備する騎士が2名、見えてきた。
「周辺に24名の騎士が存在」
ベータの警告に周りを見渡すが、入り口の見張り以外の騎士は見えない。熱感知をすると、ベータの言うとおり、24名とまでは分からないが、人間らしき複数の熱源が確認できた。
入り口を警備している騎士が僕たちの姿を見て誰何してきた。
「冒険者だな。何をしに来た、ここは立ち入り禁止区域だ」
「ハンターのボーマンさんから話が通っているはずですが。ボーマンさんはおられますか」
ベータが僕に小声で警告する。
「ダンジョン内の入り口近くに強い反応。ボーマンと推定」
「そんな話は聞いていない。許可無くダンジョンに入ろうとする者は誰であろうと拘束する。抵抗すれば無事ではすまんぞ」
そういうと、見張りの騎士の後ろから12人の騎士の一団が。そして僕たちの後ろからも12名の騎士が姿を現した。
「ボーマンは動いていません」
どうやら、騎士たちと闘わせて僕やベータの力を探ろうというつもりのようだ。
「殺傷を許可する。レーザーだけでやれるか」
「肯定」
ボーマンの指示で、僕らを殺すつもりだ。遠慮する必要は無い。
ベータが前に進んで前方の騎士たちと相対する。僕は後ろの騎士たちの相手をしようと振り返ったが、騎士たちは混乱の中で6名がすでに倒れていた。僕とベータに注意を集中していた所を、後ろからガーベラに奇襲されたらしい。予知能力のなせる技なのか、騎士たちの剣をことごとく躱し、騎士の剣は空を切る。そしてガーベラが剣を突き出したところに、まるで自分から突きを受けに行くかのように飛び込み、、喉や脇の下など、鎧の隙間に剣を突き立てられ、騎士たちは僅かなうめき声だけを残して次々に絶命していく。
前方の騎士たちは、後方から襲うはずの仲間があっという間に全滅するのを見て驚いている。そこにベータの両手の指先からの10本のレーザーが襲う。しかし倒れた騎士は2人だけだった。倒れた騎士は、たまたまフルフェイスの兜の眼の部分の隙間にレーザーが飛び込んだのだ。しかし、他の騎士の場合は、なんとレーザーが反射されてしまった。
この騎士たちの鎧は装飾のためか、揃って表面が鏡のように磨き上げられていた。そうでなければ、金属の盾や鎧といえども貫通するだけの出力のレーザーだ。
「敵防御能力を修正」
ベータの両腕が湾曲した刀の様な形に変形していく。その隙に、生き残りの騎士の剣と槍がベータを襲う。また2人の騎士はベータでは無く、僕に向かって突進してきた。
ボーマンが観察している
どうやって騎士の対処をしたものか…
槍や剣の攻撃ならば、僕の見えない障壁で完全に防げる。ベータの身体を構成する物質も似たような性能を持っている。結果、すべての攻撃は僕たちの寸前で完全に止められた。その隙に、ベータの両腕が左右に数回振り回され、高価な鎧や盾も紙のように切り裂かれ、ベータに斬りかかった騎士たちはひとり残らず倒れた。
僕に斬りかかってきた騎士は、僕が剣を抜くと、素速い動きでひとりは盾で、ひとりは剣で受けようと防御の形を取った。剣で防御しようとした騎士を僕の剣が最初に襲う。横に構えた騎士の剣に僕の剣が上から振り下ろされると、僕の鉄剣が粉々にくだける。勝ったと思ったことだろう。しかし、その横に構えた剣を両断した僕の単分子の剣が相手の身体を鎧ごと袈裟懸けに切り裂いた。そのまま剣を下から振り上げ、もうひとりの騎士の盾を切り裂き、再度の振り下ろしで、その騎士も切り伏せた。
初見殺しの単分子の見えない剣はボーマンにバレてしまったな…
そう思いながらベータの方を見ると、鬼神のように動くベータによって、残りの騎士たちもすべて切り伏せられていた。
後ろからガーベラが近づいて来て、ベータの変形した両腕を見ながら言った。
「なに者なのでしょうか、ベータさんは」
ダンジョン内から観察していただろうボーマンは、その答を知ったことだろう。闘いは避けられない。
★★ 167話は7月8日00時に投稿
外伝を投稿中です(休載中再開未定)
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王女と皇女の旅 ~魔術師は魔法が使えない 外伝~




