163 魔術師、ボーマンの力を知る
「礼儀を知らんようだな。断りもなく他人の力を探ろうというのは褒められたことではないぞ」
1メートルほどまで近づいて、ボーマンが話しかけてきた。干渉魔法の射程よりも短い距離だ。つまり、ボーマンは自身の魔力を沈静化できる、すなわち魔法が使えるって事だ。
「なんのことでしょうか。僕やベータにそんなことはできませんよ。ふたりとも魔力が無いも同然なのは、あなたも感知出来るはずです」
「とぼけるのは止せ。魔力以外の力が存在することを知らないとでも思っているのか」
「確かに魔法とは違う力は存在しますね。ボルグ同様にボーマンさんも何か特別な力があると思っていますよ。それがどんな力なのか教えて欲しいものです」
「知りたいのか。俺と手合わせをすれば分かるかも知れんぞ」
「いやいや、ハンターと手合わせなど、恐れ多くて出来ませんよ。ボルグとの闘いで死にかけて、心底懲りましたから。倒せたのは幸運としか言いようがありません」
「俺も貴様たちの力に関心がある。そこでだ、闘うのが嫌ならば、お互いに魔法以外の特別な力を見せ合うというのはどうだ」
「僕の力を知りたいというのですか」
「貴様とそこのメイドの力をな」
「それは人目のあるところでは出来ませんね。人目の無いのを良いことに、そのまま始末されてしまわない保証がありませんよね。バルドのパーティーも人目のないところで命を落としたんじゃないんですか。死体を見ましたが、騎士との闘いで死んだとは思えませんでした。誰がやったのか、容易に想像がつきますね」
「ならば…訓練のためと言って、ギルドマスターに立ち会いを頼もう。あれでも一応はギルドマスターだ。守秘の契約をしておけばいい。まさかギルドマスターまで口封じをするなんて思わないよな。そんなことが起こったら帝国全土のギルドが黙ってはいない。俺たちもギルドを敵に回すつもりはないぞ」
僕はボーマンの誘いに乗ることにした。万一、本気の闘いになったとしても、人目が無いところならこちらも全力でいける。ベータと2人がかりなら勝てないはずがない。ギルマスが正当防衛の証人になるだろう。
僕が承諾の返事をすると、ボーマンは僕たちに少し待つように言い、ギルマスの部屋に入っていった。受付の従業員が止めようとしたが無視されてしまった。
すぐにギルマスを連れて、ボーマンは戻ってきた。
「それじゃぁ、町の外まで一緒に行こうじゃないか」
そういってボーマンはギルマスと一緒にギルドを出た。僕たちも後に続いた。
外にでると、遠くで様子をうかがっていた冒険者が走って遠ざかっていく。僕たちとボーマンの話を聞かれたわけではないが、なぜ様子をうかがっていたのか気になるところだ。
町を出て街道を少し歩くと、ダンジョンに向かう岐路がある。ボーマンは街道をそれ、ダンジョンの方に向かった。ギルドマスター、そして僕とベータが後に続いた。
岐路に入って最初の丘を前にしてボーマンが足を止めた。何事かと思って見ると、丘の上に数人の冒険者が立って居た。ボーマンが誰何する。
「何物だ。俺に何か用か」
冒険者のひとりが答える。
「俺たちはバルドの知り合いだ。義理や恩があるわけじゃあねぇが、何度かは生死を共にした中だ」
「それがどうかしたか」
「バルドたちは警備の騎士程度にあっさりやられるような奴らじゃぁねぇ。やったのはあんたじゃねぇのか、ハンター様よ」
「そうだとしたら」
「仇をとらせてもらう。冒険者がなめられたらおしめぇだ。俺たちは町を逃げ出した臆病者とはちがうぞ」
この言葉を合図に、周りに隠れていた男たちが姿を現した。総勢20人ほどか。
「後ろのギルドマスター、それにメイド連れということは、ダンジョンの化け物を倒したって冒険者はあんたのことか」
僕は黙って頷く。
「そいつの味方をするんじゃ無ければ、ちょいと離れていてくれ。用があるのはハンター様だけだ。あんたたちに危害は加えねぇ」
ギルマスは慌ててボーマンから距離を取る。僕とベータもギルマスの所まで後退した。
「なんだ、一緒に闘ってはくれんのか」
「あなたに義理はありませんから」
「しかたないな、ギルマスと一緒にちょいと待っててくれ。すぐに片付けるから」
ボーマンは自信満々の体で、丘を昇って行く。その周りを冒険者が取り囲んだ。
ノアと知り合ったばかりのころ、魔術師と剣士の闘いについて話を聞いたことがあった。複数の魔術師を相手にしたらひとりでは絶対に勝てないと。ボーマンは魔法も使えるだろうが、魔法を使ったら干渉魔法に対して無防備になる。相手の魔術師が一斉に突進してくれば、敗戦必至だ。つまり魔法は使えない。多人数を殲滅できる魔法が使えないとなると、いくら剣技で勝っていても数の力を覆すのは難しい。
「ボーマンは必ず何らかの力を使うぞ。観察して分析するんだ」
「肯定です」
最初に話しかけてきた男が剣を抜いた。
「アダマンタイトの剣を持っているのはハンター様だけじゃぁないぜ」
男が手にしている剣は、独特の暗い輝きを放っている。
「アダマンタイト製」
ベータが早速分析したようだ。
「どんな剣でも、肝心なのは持ち手だ。貴様には過ぎた剣だな」
「ハンター様が強いのは良く知ってるよ」
そういうと男は剣を上にボーマンに向けて水平に構えた。
それを合図に、周囲を取り囲んでいる冒険者が、ナイフ、ダガー、短槍などを一斉に投げ始めた。加えて数人の冒険者が魔力を高め始めた。魔法の一斉攻撃だ。接近戦をせずに、勝負を決めようという狙いだろう。
ボーマンは驚くべき素早さで、ナイフや槍を躱し、たたき落としている。ナイフと槍の雨を躱しきったところに、いくつもの火球が降り注ぎ、爆発を引き起こした。熱い爆風が僕たちに吹き付けられ、小石が降り注いだ。ボーマンの姿は閃光と煙、土埃で見えない。
煙と土埃が納まると、まったく無傷に見えるボーマンが立って居た。よく見ると、ボーマンは煙も土埃もない空間に囲まれている。
「分析だ、ベータ」
「肯定です。観測開始」
「こちらの番だ」
ボーマンが相手の魔術師のひとりに向かって突進する。火球を魔法で防いだと思った魔術師は、逃げようとする素振りも見せず、干渉魔法を放つ。その干渉魔法が発動しないことに驚き、反応することもできず目の前に接近された魔術師は、とっさに手に持った杖を突き出すも、ボーマンは左手でその杖をつかみ、右手の剣で魔術師の胸を貫いた。致命傷だ。しかし、瀕死の魔術師が最後の力を振り絞ってボーマンに抱きついて来た。如何にボーマンでも、抱きつかれたままでは素速い動きは出来ない。剣は魔術師の胸に刺さったままだ。
最初に口を開いた男が好機と見て、間髪をいれず踏み込んで、剣を横に振るった。抱きついている魔術師もろとも両断しようという勢いだ。ボーマンは左手につかんだいる魔術師の杖で防ごうという体勢だ。
木製の杖でアダマンタイトの剣は防げない。振るわれた剣の勢いは尋常ではない。あの男も相当な剣技の持ち主だとわかる。このままでは杖ごと両断されるのは必至だ。
次の瞬間、驚いたことに、勢いのついたアダマンタイトの剣は細い木の杖で止められていた。
「観測終了。解析開始…解析完了」
ベータの報告が聞こえた。
★★ 164話は6月28日00時に投稿
外伝を投稿中です(休載中再開未定)
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王女と皇女の旅 ~魔術師は魔法が使えない 外伝~




