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162 魔術師、ボーマンを調べる

ボーマンのほうから仕掛けさせて正当防衛にするといっても、ベータの正体を明かすわけにはいかない。ボルグを倒したのは僕だと思っているだろうから、僕を対象にさせるのも手であるが、そうなるとノアが一緒に闘おうとすることは間違いない。それは避けたい。そうそういつも上手くいくとは限らない。そうなると、ベータに秘密があることを餌にするしかない。上手い手は思いつかないのだが、とりあえずボーマンに僕らの存在を意識させて出方を見よう。


僕はベータを連れてギルドマスターに会いに行った。ノアも来たがったが、適当な理由をつけて断った。ノアはさんざん文句を言っていたが仕方がない。


ギルドマスターに話しかける。

「掲示を見て冒険者たちが浮き足だっていますね」

「ええ、5人も死者が出ましたからね。禁止されているのにダンジョンに入ろうとするなんて、困ったことをしてくれたもんです」

「5人の遺体はギルドが引き受けたのですか」

「いや、ギルドには渡されていない。まだ調査隊の元にあるはずだ」

「引き渡すように要求しなかったんですか」

「名ばかりのギルドマスターなんだ、そんなことは出来ないよ」


要求などなくても、遺体なんかさっさとギルドに押しつけた方が面倒がなくて良いと思うのだが、遺体を調べられてはまずいということなのかな…


僕はギルマスと別れ、調査団のテントに向かった。昼は指揮官も宿ではなくテントの方にいるはずだ。調査団のテントにつくと、警備の兵士に指揮官と会いたいと伝えた。ダンジョンの怪物を倒したことになっているし、皇帝の命令書を届けたのも僕だ。入り口で待たされ、そのあいだに警備の兵士が中に入って指揮官と何か話をしている。すぐに面会の許可が出て、テントの中に案内された。



「今度は何の用だ」

指揮官はテーブルの上に広げられたダンジョン周辺の地図を見ながら、顔も上げずに僕に声を掛けた。皇帝の命令書で調査を中断させられたのは僕たちのせいだと思って根に持っているようだ。


まぁ、その通りなんだが…


「バルドのパーティーの件です」

「バルド?」

「立ち入り禁止を無視しようとして警備の騎士に殺された冒険者たちです」

「あいつらの事か。抵抗したのでやむを得なかった。それがどうかしたか」

「彼らの遺体は、まだ調査団が預かっているのですか」

「ああ、6体とも死体袋に入れて別のテントに置いてある」

「6体? バルドのパーティーは5人では」

「死体の数は6人だ。パーティーが5人というなら、仲間をひとり増やしたのではないか。そこまではこちらのあずかり知るとことではない」


6人目の遺体はボーマンを見張っていたリヒトの仲間に違いない


「遺体を見せてもらえますか。バルドとはあったことがあります。一応確認したいので」

「いいだろう。当番兵に案内させる」

指揮官はテントの外に声を掛け、警備の兵士に当番兵を呼ぶように伝えた。ほどなくして当番兵が来て、僕とベータを指揮官のテントから離れた小さめのテントに案内してくれた。


「死体袋に入れて中に寝かされています。小官は入り口で待ちますので、中で検分を願います。検分後は死体袋を元通りに閉めておくようお願いいたします」

「わかりました」

僕たちは中に入ると、6個の死体袋の口を開け、死体の傷口などを調べた。バルドであることの確認よりも、こちらが目的である。全員魔法でやられた様子はなく、剣の一撃でやられている。いずれも同じような傷口で、同じ相手にやられたことを示している。警備の騎士団との多人数での乱戦ならばこうはならない。リヒトとガフはともかく、他の4人は一緒にいたはずだ。その4人がひとりを相手にして全員一撃で倒されている。警備の騎士ではない。ボーマンがひとりでこの6人をやったのに違いない。


次に、それぞれの剣を調べる。特にこれといったことは見つからなかったが、最後の一番体格の良い男の剣は途中から折れていた。強い力で何かにぶつかり、それで折れたように見える。空振りをして岩にでもぶつかったのか…それともボーマンの剣で折られたのか…。


ボルグのことを探って貰ったときのアリサの報告では、ボーマンは魔法以外の特別な力の持ち主がいることを知っているように思える。それはボーマン自身が、何か特別な力の持ち主だからに違いない。その力が何なのか、手がかりでもあればと思って死体を調べさせて貰ったのだが、残念ながらボーマンが持っているに違いない特別な力が何なのか分からなかった。6人を倒すのに特別な力を使うまでもなかったのか、それとも痕跡が残らないような力なのか。


僕とベータが死体を検分したことは、すぐにボーマンの知るところとなるだろう。あとはギルドに戻って、何らかの方法でベータが特別な力の持ち主だと言うことを臭わせるか…いや、魔法に見せかけて力の一端を示せばいいかな。ボーマンならそれが魔法ではない何かの力だと理解するだろう。


死体を元通りに袋に入れて、僕たちはテントを出た。待っていた当番兵に礼を言った。そして別れ際に、小声で、しかし当番兵にははっきりと聞こえるように、「ボーマンかな…」と独り言をつぶやいた。当番兵は指揮官に報告に戻るだろう。そして僕がつぶやいた言葉も報告するに違いない。それはボーマンにも伝わることだろう。ベータと一緒にギルドに戻り、受付前のテーブルでボーマンの反応を待つことにした。


待つことしばし。ギルドの入り口近くにいた冒険者が急にいなくなった。あわてて隣接する宿に移動していった。その理由はすぐに判明した。入り口にボーマンが姿を見せたのだ。入り口で中を見渡し、僕とベータの姿を確認すると入り口に近いテーブルに陣取った。話しかけてくることもなく、僕とベータに視線を向けている。つい最近、同じようなシーンがあった気がする。そのときよりもボーマンの威圧感が増していた。


もうベータを目立たせないようにする必要はない。むしろ意識させる。

「ボーマンを可能な限り分析しろ。奴に気づかれてもかまわん」

僕よりもベータの分析能力の方が上ということもあるが、ベータに任せることで、ボーマンに感づかれた場合でも、僕ではなくベータの方に意識を向けるだろう。そのほうが好都合だ。

「肯定です。分析を開始します」

ベータがボーマンを直視する。それと同時にボーマンが眉をひそめた。ベータのスキャンに気がついたのだろうか。魔力による感知と異なり、ベータのスキャンは純粋に科学的なものだ。スキャン程度の弱さの電磁波を人間が感知出来るとは思えないが、あきらかに何かを感じ取ったのだ。ボルグのときはすぐに反応をしたが、ボーマンはじっと黙っている。

「スキャン完了。解析を開始…解析終了」

「報告してくれ」

「所持している剣はアダマンタイト製。防具は普通。骨格および筋肉の発達から、常人をかなり上回る筋力、耐久力、すばやさを有していることは確実。さらに魔力に関する臓器は常人よりかなり巨大」

「魔力が多いってことか」

「ノア様のそれは常人と同じくらいの大きさです。従って魔力量は臓器の大きさとは無関係と断定」

「では、何が違うのだ」

「ボーマンの特別な力、超能力に関係すると考えるのが妥当」

「どんな力か推論できるか」

「データ不足。推論不可」


僕とベータが小声で話をしていると、ついにこらえきれなくなったの、ボーマンが立ち上がってこちらに近づいてきた。



★★ 163話は6月26日00時に投稿


外伝を投稿中です(休載中再開未定)

https://ncode.syosetu.com/n3559hz/

王女と皇女の旅  ~魔術師は魔法が使えない 外伝~

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