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161 魔術師、誘惑に駆られる

この町の武器屋の品揃えは、いうまでもなく王都の武器屋とは比べるまでもない。ノアと見てまわるのは楽しいけれど、これはという剣などに巡り会うことはない。買うとしたら消耗品の投げナイフやダガーくらいだが、それさえも眼鏡に適う物はなく、僕やノアだけでなくアリサも何も買わなかった。ベータはこの世界の武器に関心はないようだ。しばらく店に滞在し、何も買わずに出ていく僕たちを店主が愛想のない顔で見ていた。


宿に戻り、夕食は皆と一緒に宿の食堂で食べた。そもそもこの町には、宿の食堂以外に食事ができる店はない。食事を食べ終わる頃、僕たちの席にひとりの男がやって来た。昨日、武器屋で僕たちを待っていた男だ。たしか、ガフといったかな。


「食事中にすまないが、俺のパーティーのリーダーがどこにいるか知らんか。昨日あんたと話をしたバルドだ」

男は僕に向かって話しかけてきた。

「どういうことだ」

「昨日のあんたの態度で、バルドのやつはあんたは俺たちと一緒に調査団と交渉する気がねぇと判断したらしい。あんたたちと別れた後、パーティーの仲間と一緒に調査団の指揮官に会いに行ったんだ」

「あなたは一緒に行かなかったんですか」

「俺はバルドのパーティーでは新参者の下っ端でな、宿で留守番さ。ところが、バルドたちが待てど暮らせど戻っちゃあこねえんだ。そこであんたなら何か知ってるかと思って聞きにきたってぇ訳だ」

「すまないが、僕は何も知らない。昨日会ったきりで、あの後は姿も見ていない」

「そうか…、どうも何かやばい気がするんだ。俺たちのパーティーの取り分の金貨を先に用意してもらえねぇかな、なんなら俺の取り分500枚だけでもいい」

「明日の朝でよければ用意するが」

「すまねぇが頼む。俺は金を受け取ったらこの町からおさらばするつもりだ。できりゃあ、朝一番で町を出たい。間に合うか?」

「分かった、まにあわせよう」

「ありがてぇ。それじゃぁ、明日の夜明け前にここで会おう」


皇帝からもらった金貨は荒れ地にある共和国の屋敷に運んである。テレポートで取りに行けば、500枚くらいは余裕だ。十分に間に合う。僕はその夜、500枚の金貨を用意してから寝た。



翌朝、ガフは姿を見せなかった。


宿の受付に聞いても知らないという。リーダーのバルドばかりかガフも含め、バルドのパーティー全員の姿が消えてしまった。



昼になって、僕のところにリヒトが尋ねてきた。トールとゴードが気を利かせ、リヒトと入れ替わりに部屋を出て行った。


「まだ公になっていないが、今日の内にギルドマスターが公にする情報がある」

開口一番リヒトが言う。

「情報というのは」

「昨夜、冒険者のパーティーが立ち入り禁止を無視してダンジョンに潜ろうとして監視の騎士団に見つかったらしい。逃げようとして抵抗したらしく、見張りの騎士に皆殺しにされたという話だ」

「ばかなことをしたもんだな」

「やられたのはバルドという男のパーティーだ。5人全員が死んだ」

「ガフという男もか」

「俺の仲間が調べたところでは、そうだ。全員だ」


僕はリヒトに、バルドが調査団の指揮官に会いに行ってから行方不明になったこと。ガフとは昨日会って話をし、今朝には町を去るつもりだったことをリヒトに伝えた。

「怪しいな。つまり、バルドたちは何らかの理由で騎士たちに消されたってことか」

「おそらくな。かなり怖がっていた様子だったぞ、ガフは」

「実は…昨日から俺の部下もひとり行方不明になっているんだ。ボーマンを見張っていた奴だ。最後の報告ではボーマンがダンジョンに向かっているので後をつけると言っていた。ハンターまで関係してるとなると、あぶなすぎる話だ。俺は残った仲間をつれてすぐに町を出るつもりだ。あんたから王女の居場所を聞き出そうと思ってこの町に来たんだが、とんでもないことに巻き込まれちまったようだ」

言い終わるとリヒトは別れの挨拶もなく、急いで部屋を出て行った。



リヒトたちが町を去ったすぐ後で、ギルドの掲示板に羊皮紙が貼られた。書かれている内容は、もちろんバルドのパーティーの件だ。この情報で、冒険者たちに動揺が走った。漏れ聞いた話では、バルドの実力は騎士団レベルの相手にあっさりとやられるようなものではないという。言葉には出さないが、誰もが調査団と一緒にいるハンターを思い浮かべたことだろう。命知らずの冒険者たちだが、ほとんどのものが町を出る気配を漂わせていた。先日の交渉で僕から金貨の配分を受け取ることになっていたが、僕の所に金貨の話をしに来る冒険者はひとりもいない。町を出ることしか考えられないようだ。冒険者が騎士団を恐れるようなことはない、冒険者を怯えさせているのはハンターのボーマンだ。



バルドは調査団との交渉の手段のつもりで、ダンジョンの秘密を知っているような素振りを見せたのかも知れない。秘密が漏れることを恐れた指揮官がボーマンに依頼してバルドたちの口封じをしたのだろう。欲を出しすぎたってことだな。


ギルドの受付がある部屋の隅のテーブルで、僕たちは掲示板に群がる冒険者たちを眺めていたが、突然、冒険者たちが掲示板の前からいなくなって騒がしかったギルドの受付が閑散とした空間になった。


部屋の入り口を見ると、ボーマンが立って居た。冒険者がいなくなった部屋を見渡し、僕たちがテーブルに座っているのを見ると、ボーマンは無言で僕たちから一番遠いテーブルに座った。


皇帝直筆の命令書を届けたのは僕たちだ。直に正式な命令書も届けられるだろう。何もしなければバルドたちのように、いきなり口封じということにはならないだろう。しかし、皇帝にはベータの正体については内密にするよう頼んだ。命令書にもベータの事は触れられていないはずだ。したがって、命令書があってもボーマンが僕やベータに手を出さない保証はない。もう様子など見ていないで、さっさとテレポートで姿をくらますのが最善かも知れない。しかし、ダンジョンの安全の確保が確認されないと安心できない。


問題はボーマンだ。ハンターの能力には未知な点がある。ボルグの時間停止も予想できなかった力だった。たとえハンターといえども、ベータの仲間たちを破壊することは不可能だと思うが、万一の心配でテレポートで逃げることに踏み切れない。


いっそ、隙を見せてボーマンから仕掛けさせ、正当防衛としてボーマンを排除してしまうのが良いのかも知れない。ベータと組めば、たとえボーマン相手でも負けることはないだろう。


危険な誘惑に駆られそうになってきた…




★★ 162話は6月24日00時に投稿


★★ 都合により、162話のアップを明日25日に延期させていただきます。m(_._)m


外伝を投稿中です(休載中再開未定)

https://ncode.syosetu.com/n3559hz/

王女と皇女の旅  ~魔術師は魔法が使えない 外伝~

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