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160 魔術師、金貨を渡す

「だいたい、新しい通路がふさがれて入れなくなっちまったのも、あんたたちが怪物を倒したと言って戻ってきた後だ。始めからあんたたちがからんでるんだ。何か秘密があるにちがいねぇ」

「中は行き止まりで、何もなかった。カイルも証言している通りだ」

「あんたたちが奥の怪物を倒す前にカイルたちはダンジョンから出ている。怪物を倒した後何があったかは見ていねえはずだ」

「僕たちが何か発見していれば、ギルドに報告している。遺物の類は何もなかったし、奥への通路もなかった。俺たちが戻った後、なぜ通路がふさがったのかは知らん。調査隊が何かしたんじゃないのか」

「調査隊は昨日まで中に入ろうと作業をしていたんだ、通路を塞いだはずがねえ」


ベータの正体はもちろん、ダンジョンの奥に埋まっているものの正体について明かすわけにはいかない。どうしたものかと思案していると、ノアが何かに気がついたようだ。

「丘の向こう、100メートルほどに誰かひとりいる」

熱感知を試みるが、丘で遮られているのと、そもそも距離がありすぎて僕には感知出来ない。

「ベータ、正体がわかるか」

「80%の確率でハンターのボーマンと推測」

僕たちが連れ出されたことに気がついて様子を見に来たのかもしれない。ボーマンに観察されているとなると、うかつにベータの力を発揮させるわけにはいかない。


「黙りこんで何を考えてやがる。言いたくなければ俺から言ってやろう。あんたたちは何かとんでもない遺物を発見したのにちがいねえ」


たしかにベータはとんでもない発見だ…


「昨日になって隠しきれねえと観念して、調査隊に報告したんじゃねえのか」

「…」

「返事がねえのは図星ってことか」


勝手に誤解を始めてるな。もう少し言わせておこう。


「おそらく見つけたのは魔道具の類だな。それも帝国が欲しがるようなものだ。ただの金目のものだったら、こんな大げさな真似はしねえ。強制的に買い上げて終わりだ。秘密にしなければならないような魔道具…強力な兵器になるようなものかもしれねえ。それなら調査隊が冒険者を閉め出したってのも納得できる。そんな遺物を他にも俺たち冒険者が見つけ出したら帝国も困るからな」

「それで…そうだとしたら僕たちにどうしろと言うんだ」

「俺たちは一山当てようとやって来てるんだ。お宝を前にして手ぶらじゃあ帰れねえ」

「それで…」

「あんたたちも冒険者だ。お宝をただで帝国に引き渡したなんてこたぁねえはずだ。帝国の調査隊が周辺を立ち入り禁止にして独占をしようってほどだ。結構な金になったはずだ。帝国もギルドも、その点じゃ信用出来る。冒険者から買いたたくようじゃあ、みんな王国に逃げちまうからな」

「これだけの人数に分配しろって言うのか」

「40人たらずだ。平らに分けても十分な額になるはずだ」

「帝国がそんなに出すと思ってるのか」

「ふつうの遺物でも、数年は遊んで暮らせるほどの額で売れるんだ。帝国が乗りだして独占しようってことなら、ここにいる全員が一生遊んで暮らせる額でもおかしくねぇはずだ」


さて、どうしたものか。以前の和平交渉の時に皇帝が嫌がらせのつもりで僕に持たせた金貨20000枚は手つかずで保管してある。これを分けてやればひとりあたり500枚は配れる。この金額で納得するだろうか。一生遊んで暮らすのは無理でも、相当な大金であることは間違いない。荒事になって、ベータが力を発揮するところをボーマンに見られるよりはましだ。それ以外にもドラゴンの素材やら何やらの売却で金なら十分にある。それを加えても良い。


「金貨20000枚だ」

僕たちを取り囲んでいる冒険者から、一斉に声が漏れた。大金に驚いているのか、ひとり当たりの枚数を計算して不満を訴えているのか、どちらだろう…


こんなことなら、皇帝が最初に言ったように100000枚貰っておけばよかったな…


「安売りしたようだな」

「金に困っていないのでね。帝国と揉めたくはない」

男は他の6人のリーダーと小声で相談すると、ふたたび提案してきた。

「あんたのパーティーとあわせて、8パーティーだ。平らに分ければパーティー辺り2500枚。とりあえずはそれで手を打とう」

「パーティーの人数の違いはいいのか」

「ギルドの依頼も報酬はパーティー単位だ」

「了解した。金貨は数日で用意する。なにしろ大量だ。持ち歩いてはいないからな」


とんでもない強請だが、ベータの正体がばれなければ良い。トールたちも、あの20000枚は僕が好きに使って良いと言っている。


「分配の話はこれで終わりだ」

「まだ何かあるのか」

「あんたたちは金に困ってねぇと言ったが、俺たちは違う。金はいくらあっても困るこたぁねえ。どうだ、俺たちと一緒に帝国の調査団と交渉しねぇか。俺たちが一緒ならあんたも強く出られるだろう」

「どういうことだ」

「ダンジョンから閉め出しを食ったんだ。まだお宝が眠ってるかも知れねぇってのによ。はいそうですかって、ただで言うとおりにする訳にはいかねぇだろう。ダンジョンを諦める見返りを頂こうって訳だ」

「強欲だな」

「あんたたちのように金が余っちゃいねぇからな。稼げるときに稼ぐ。冒険者なら当然だろ」

「考えておこう。返事は金貨を渡すときで良いか」

「かまわねえよ。良い返事を期待しているぜ。言い遅れたが俺はバルドシュタット、仲間からはバルドと呼ばれている。何かあったら宿の受付に伝言をしろ。こちらから連絡する」


男が手を振ると、周囲の冒険者は四方に散って姿を消した。目の前の7人の男も僕たちの脇を通りすぎ、町の方に戻って言った。


「20000枚もくれてやるの、強請じゃん」

「金で済めば御の字だ。何しろボーマンの奴がこっちを見ている。争いになったらベータの力を知られてしまう恐れがある。あいつらはともかく、ハンターは油断できないからな」

「一緒に交渉するの、調査隊に」

「するわけがないだろう、交渉なら勝手にやらせるさ。皇帝とは交渉したばかりだ。もう会うのはたくさんだ。今のところ上手くいってるが、あの皇帝はハンター以上の難物だぞ」


「ボーマンと推定される機体が知覚範囲外に離脱」

ベータの報告を聞いて僕は言った。

「さぁ、ようやく武器屋で一緒に買い物ができるな、ノア」

ノアが満面の笑みでうなずいた。



誤字脱字のご指摘に感謝します。


★★ 162話は6月24日00時に投稿


外伝を投稿中です(休載中再開未定)

https://ncode.syosetu.com/n3559hz/

王女と皇女の旅  ~魔術師は魔法が使えない 外伝~

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