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153 魔術師、誘いを断る

ベータが両手を治安部隊に向けた。治安部隊の魔術師が間髪を入れず反応する。


「だめだ、攻撃するな、ベータ!命令だ!」

「肯定です」

僕の言葉にベータは攻撃を中止した。しかし、治安部隊の魔術師の攻撃は止まらなかった。


魔術師の放った火球がベータに命中する。しかし、何も起こらない。爆発も閃光も、音すらしない。火球はベータに触れた瞬間に消滅した。別の魔術師が手を前に出し、魔法を放つ構えだ。狙いはベータではない、声を上げた僕だ。

「脅威を排除します」

ベータがその魔術師の方に顔を向けた。


止められないか…


「脅威の排除を確認」

ベータは攻撃をしなかった。どうやら僕の命令は受け入れられたようだ。そして、治安部隊の魔術師の火球も放たれることはなかった。火球は発生せず、魔術師が驚愕している。


信じられないといった表情で、治安部隊の兵士たちは一瞬固まっていたが、すぐに前衛が剣を抜き、僕らの前に迫って来た。僕は両手を広げて攻撃の意思がないことを示しながら、ベータの前に出た。アリサがベータの隣にやって来て並んだ。魔法を放つ構えに入ろうとしたノアは、ソアによって止められていた。


「抵抗する気はない。正当防衛だ。店の者が見ていたはずだ」

店の入り口から怖い物見たさで顔を出している店員を横目で見て、僕は治安部隊の兵に向かって言った。

「指揮官はどなたでしょうか。僕はミスターと申します。指揮官とお話がしたいのですが」



僕たちは治安部隊の詰め所に連行された。詰め所と言っても町の外にある軍用の大型テントだ。調査隊は宿にある大広間を詰め所に使っている。兵士はつらいものだ。そこで尋問を受けた。


今回は店員という目撃者がいるので、連中を倒したのは僕だと言い張ることはできない。店員の証言と食い違いが出るとまずい。

「冒険者たちが先に絡んできたというのだな」

僕が代表して答える。

「その通りです。店の前で女性がひとり絡まれていました。僕の知人で、冒険者ですが、商家の使用人のような格好をしています」

「うむ、ガーベラと言っていた女であるな。その女がギルドにやって来て、男たちに乱暴されそうになったが、メイドを連れた冒険者に助けて貰ったと言ったのだ。助けてくれた冒険者があぶないので、なんとかしてくれとな」


助けたというか、僕らに連中の注意を向けさせて逃げたんだが…


「それで兵を連れて駆けつけたら、あの場面だ。奴らを始末したのは誰なんだ。見ていた店員の話では、そこのメイドが両手を向けたら男たちがばたばたと倒れたと言っているのだが」

「その通りです。パーティーの仲間のベータです。ちょっと変わった魔法を使えるのです」

「変わった魔法というのは?」

「それは申しあげられません。切り札をさらすような冒険者はいませんよ」

「我々の魔術師の魔法を防いだのも、ベータとやらの魔法か」

「それはお答えできません」

「何か魔道具を隠し持っているのではないか」

「身ぐるみはいで調べますか」

「いや、そこまではせん。そもそも魔法無効化の魔道具など、持ち歩けるようなしろものではないからな」


残念王女の発明品はまだ秘密だ

ノアの持っている魔道具を見せればベータの力を隠せるが…


「ベータとやらの話をもう少し聞きたいのだが、良いか」

「ベータは仲間であると同時に僕の使用人でもあります。主の権利として使用人への尋問はお断りします。聞きたいことがあれば主である僕にお聞きください」

「お主が権利を主張するというならば、我々も治安維持の権限を行使して、全員を拘束してもいいんだぞ」


これまでの経験では、治安部隊は冒険者のトラブルに関しては比較的無関心で、一般人に被害がおよばない限り、死人が出ても正当防衛で無罪放免だったが、この司令官は少々厳格すぎるようだ。


どうしたものかと思案していると、テントの入り口からボーマンが入ってきた。


「失礼するよ、指揮官殿」

「ボーマン殿か、何用ですかな」

「この者たちは俺の知り合いでな、問題がないことは俺が保証する。釈放してもらえんだろうか」

言葉はきつくないが、断れそうもない威圧を発していた。


ボーマンのおかげで拘束されることなく、僕たちは治安部隊のテントを出て宿に向かった。まだ武器屋に行ってはいないが、買い物をする雰囲気ではない。


「ハンターになれば面倒なこともなくなるぞ。別に帝都に住まなきゃならんという決まりはない。冒険者として活動をつづければいい。どうだ、ハンターにならんか」

「考えておきましょう」


ボーマンは断りの回答と受け取ったようだ。

「そうか…その気はないか。残念だな」

ボーマンが去って姿が見えなくなると、ノアが言った。

「冒険者が続けられるのなら、ハンターになってもいいじゃん。あちこちで便利そうだし」

「ハンターになったりしたらボーマンの思うつぼだぞ」

「思うつぼって?」


ボーマンは一見すると、鷹揚で穏やかな人物のように見えるが、ガーベラへの行動で好戦的な異常さを示してしまった。気配を絶ったまま近づいたガーベラが不注意だったとはいえ、命中させるつもりで本気の指弾をいきなり撃つなど普通ではない。ガーベラでなければ命中していただろう。


「ハンターになったりすると…奴に挑戦されるんじゃないかな」

「どういうこと」

「ハンターが普通の冒険者と揉め事を起こせば称号を剥奪される。では、ハンターどうしの揉め事ならどうだ。犯罪とかなら別だろうが、ただの決闘ならばたぶん称号の剥奪はない。おそらく、ボルグを倒した僕と闘ってみたいけれど、ハンターの称号は失いたくないってとこじゃないかな」

「そういうことね。じゃ、ハンターを断っていれば大丈夫ってことね」

「そういうことだ。しかし、ベータは別だ。正体がダンジョンの奥にいた怪物でしたなんてことがバレたら、ボーマンが真っ先に狙ってくる」

「ボーマンの方が強い?」

「どうだ、ベータ。ボーマンと闘ったら?」

「識別名称ボーマンの機体の能力のデータが不足。対象機体のスキャンデータを加えて推論。当機体ベータが勝利する確率は97.8%」

「問題ないじゃん」

「問題大ありだ。そんなことになったら帝国中のハンターがダンジョンの怪物、つまりベータの討伐に乗り出すぞ。僕たちだって同類扱いされかねない。それに推論はあくまで推論だ。理屈だけなら僕の障壁だって、この世界で破られるなんてことはあり得ないはずだったのに、そうじゃなかったからな」



宿に戻ると、ガーベラが一人で食事をしていた。

「ミスター様、ご無事で何よりです」


ご無事でなによりじゃぁないよ

奴らと闘いになるように仕向けたのはガーベラじゃないか


「ベータさんのご活躍はうわさになっていますよ。ベータさんとはもっとお近づきになりたいものです」


ガーベラはベータを見ただけで化け物と言った。その理由を知りたい。ベータの異常さは出来るだけ隠す必要がある。



★★ 154話は6月4日00時に投稿


外伝を投稿中です

https://ncode.syosetu.com/n3559hz/

王女と皇女の旅  ~魔術師は魔法が使えない 外伝~

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