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152 魔術師、ベータに救われる?

この世界の人間から見れば、確かにベータは化け物以外の何物でもない。しかし、それが分かるかどうかは別の話だ。ベータはガーベラの前で何の動きも見せていない。外見だけから人外であることが分かるとは思えない。


「化け物というのはベータのことか。ただのメイドだぞ。とはいえ、その辺の冒険者では手も足も出ないのは事実だ。そういう意味では化け物と言えるかも知れないな」

「そんなことではない。わたしなら、見ただけで一目瞭然だ」


ガーベラが予知のような力を持っていることは間違いないと思う。世界は彼女にはどのように見えているのだろう。彼女の世界では、ベータはどのように見えるのだろう。


「あなたがそう言うならば、そうなのでしょう。しかし、ガーベラさん、あなたも十分化け物だと思いますよ。ボーマンもあれが避けられるとは思わなかったでしょうね。それに、あなたが冷静で良かった。反撃していたらボーマンとの闘いになっていたかも知れない」


残念王女が一緒ではない今、ガーベラが僕に敵対的にならないとは限らない。エンダーの弟子であったことを忘れてはいけない。ここはガーベラが好戦的でないことを褒めておいた。


「王女は僕を追って帝国にきたのですか」

「わかりませんが、その可能性はあると思っています。当分はミスター殿から離れず行動させてもらいます。エイダ様が姿を見せるかも知れませんから」

「じゃぁ、さ、王女が見つかるまであたしたちと一緒にいようよ」

「それは遠慮いたします。エイダ様以外のことで面倒ごとに巻き込まれるのは避けたいと存じます」


今の僕たちの状況を、ある程度は把握しているようだ。ガーベラは丁寧に頭を下げると、宿の外に出て行った。どこで泊まるつもりなのだろう。この町に宿はここしかない。


それにしても、リヒトも言っていたが、残念王女とクレアが帝国に来ているとは…


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


湯の町から遠く離れた土地。森林と荒れ地との境界に二人の少女がいた。


背の低い少女が、クシュンとかわいいくしゃみをした。

「だれか僕たちの噂話でもしているのかな…」

背の高い少女がつぶやく。

「あれほど駄目と言ったのに…」

「責任は、つべこべ言って従わないやつらにあったと思うぞ」

「だからと言って、これはやり過ぎよ」

「僕のせいじゃないぞ。これは事故だよ。不幸な事故だ」

「これ、どうするのよ。依頼は盗賊の捕縛だったのよ、それなのにアジトごと消し飛ばして…」

「起こってしまったことは、しかたがないじゃないか。これもドラゴンの仕業にすればいい。そう、突然ドラゴンが現れて…」

「とにかく、誰か来る前に逃げるわよ。ギルドになんて報告したらいいのよ」


二人の少女が慌てて去って行く。その後ろには、森林が数10メートル四方に渡り草木一本も残さず焼き払われて、煙を上げる黒い大地がむき出しになっていた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


ボーマンが去り、ガーベラが去った後は誰も僕たちに近づいてくる者はいなかった。食堂では、ノアやソア、それにアリサを見て、いつもなら酔っ払いが声を掛けてくるののだが、先ほどまでボーマンが放っていた威圧のせいかも知れない。話しかけてくるどころか、これだけ冒険者で混んでいるのに誰も口を開かない。食堂を沈黙が支配していた。


その沈黙をノアが破った。

「ねぇ、ミスター。一緒に武器屋に行こうよ。昨日約束したよね、後で一緒に行くって」

「昨日行ったばかりなのに、また行くのか」

「昨日はミスターが一緒じゃなかったじゃん」

「わたしも一緒に行きたいですね」


結局、僕とノア、それにソアで店を見てくることになった。エマは必要ないと断り、トールとゴードは例によって酒盛りだ。アリサとベータは何も言わないが、当然のように僕についてくるだろう。ノアがもう席を立って、宿の入り口まで行って、僕たちをせかしていた。



宿を出て、町の入り口近くにある武器屋に向かうと、店の前でガーベラが冒険者らしき男たちに囲まれていた。連れのいない女冒険者が男たちに絡まれるのはめずらしいことではない。僕たちが近づいてきたことに気づくと、ガーベラはこちらに向かって走り出した。両手をひろげて止めようとした男を、まるで何もないかのようにすり抜けて僕の所までやって来た。

「後はおまかせします」

そういって、そのまま僕たちを置いて、宿の方に戻って行ってしまった。


脇をすり抜けられた男は、どうして捕まえられなかったのか、信じられないという顔をしていたが、すぐに僕の方を向き、遠ざかっていくガーベラを見ると、僕に向かって言った。

「てめぇ、それだけ女を連れていて、まだたりねえってか」


何にも言ってはいないのだが…

それに、僕たちが来なければ、ガーベラに皆殺しにされてたかもしれないんだぞ

感謝して貰いたいくらいだ


ガーベラを囲んでいた他の連中もやって来て、腰の剣に手を掛けていた。


どうやって穏便にすまそうかと思っていたら、ベータが僕の前に出てきた。

「マスターへの敵意を確認いたしました。マスターに対する脅威の排除は最優先課題と判断いたします」

止める間もなく、男たちに近づいて行くベータ。武器は何も持っていない。


「さっきの姉ちゃんより別嬪さんだな。あんたが相手をしてくれるのかい。そういうことなら、あんたのご主人様には手は出さねえよ」

ベータが両手を男たちに向けて、手の指を広げた。

「排除を開始いたします」

次の瞬間、男たち全員がその場に崩れ落ち、微かに肉の焦げる臭いが漂った。

「排除完了。マスターへの脅威の消滅を確認」


ノアは目を見開いている。ソアがつぶやいた。

「何がおこったのでしょう」


ベータの指先から、微かな光が発せられたように見えた。本来レーザーは目に見えないが、真空中と違って大気中ではわずかに錯乱される。高出力のレーザーに間違いない。容赦がないのはアリサの人格を複製したからか。ベータの能力ならば、相手に怪我すらさせずに撃退することも容易だったろうに…警告すらなしで、最短時間で確実に排除したと言うことか。


ソアが倒れている男たちをひとりひとり確認した。男たちの額には小さな穴が穿たれている。

「即死ですね。どんな魔法を使えばこうなるのでしょう。ミスターの光の魔法と同じような傷に見えますが、わたしには何も見えませんでした」


後ろから誰かが叫んだ。

「全員動くな、我々は治安部隊だ」

ベータが反応する。

「マスターへの脅威を確認。排除いたします」


★★ 153話は6月2日00時に投稿


外伝を投稿中です

https://ncode.syosetu.com/n3559hz/

王女と皇女の旅  ~魔術師は魔法が使えない 外伝~

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