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147 魔術師、足止めされる

「町を出ちゃあならねぇってのは、いったいどういうことなんだ」


トールはギルマスに、声を荒げて問い詰めていた。ギルドマスターと言えば、それなりに実績のある冒険者だった者がその地位についてるものだが、ここは隣町のギルドの出張所扱いのギルドで、宿屋の亭主がギルドマスターを務めている。トールの迫力に負けている。


先に到着した帝国の調査隊も、閉じてしまった通路には手も足も出ず、予想通り皇帝直属の調査隊がやって来ることになったようだ。それを予想して僕たちは、直属の調査隊が到着する前にさっさと町を出ていくつもりでいた。しかし、出発の準備をしているときに、ギルドマスターからの呼び出しを受け、こうしてやって来ていた。そこで町から出ることは許可できないと告げられた訳だ。


「こちらに向かっている皇帝直属の調査隊から、ダンジョンの怪物を倒したトールさんたちから直接話を聞きたいと連絡が入ったのです。どうか新たな調査隊が到着するまで当宿に留まるよう願います」


現在調査にあたっている隊の指揮官は、閉ざされてしまった通路がどうしようもないと判断すると、カイルたちや僕たちに通り一遍の聞き取りをしただけで、帝都におざなりの報告をしたようだった。当然、そのような報告で帝国が満足するはずもなく、あらためて調査隊が送り込まれてくることになる。来るのは皇帝直属の調査隊である。おそらく指揮官も隊員も有能なものばかりだろう。カイルや僕たちもあらためて尋問されるに違いない。特に僕たちだ。なにしろ未知の怪物を倒したというのだから。できればベータには会わせたくない。何か気づかれるかもしれない。


出発しようと思えば、ここのギルマスに僕たちを止める手立てはない。しかし、そんなことをすればギルドに手配書がまわされる。この先、まともな旅が出来なくなる。ここは従うしかない。トールと僕は、やむなく宿の部屋に戻り、ノアたちに事の顛末を告げた。



新しい通路の話が広まっているのだろう。閑古鳥がないていたギルドに冒険者の姿が増え、宿のレストランは活気づいていた。商売繁盛で結構なことだと思ったが、宿としては冒険者があつまるとトラブルも増え、普通の旅人からの評判が悪くなるので痛し痒しというところのようだ。僕たちがそろって食事をしていると、そのトラブルがやって来た。


僕たちは、あらたにベータを加えて総勢8人だが、ひとつのテーブルを囲んでいた。食事のときはアリサとベータには席について一緒に食事をとるように命じたが、食事が済むと二人は席を立って、僕の座る席の後ろで控えている。ちなみにベータは食事を摂取する必要はないのだが、普通に食べていた。体内で分解して処理をしているのだろう。


僕たちのパーティーにはソア、ノア、エマと、ただでさえ珍しい女性の冒険者が3人もいる。加えて、メイド姿のアリサとベータがいる。目立たないはずがない。


トラブルが着いてきそうな冒険者がひとり、自分の席を離れ、僕に近づいてきた。

「メイドを2人も連れて、いい身分じゃないか。あんたは貴族様の冒険者か」


アリサもベータも冒険者なんだがな…

貴族という点では、僕については間違いではない

名ばかりとは言え、貴族にされてしまったからな


トールが横から答える。

「みんな冒険者だ。メイドはいねぇ。俺がリーダーだ」

「そんな格好でメイドじゃねぇって言ってもな。あんたがリーダーか。そっちのメイドが付き添っている兄さんが貴族様かなにかで、あんたのパーティーが冒険者ごっこのお守り役ってとこかい」

「そいつにお守りは必要ない。俺のパーティーの一員だ。それで何の用で話しかける」


ベータが僕に話しかけてきた。

「そこの名称不詳の機体は何の目的でマスターに接触を図っているのでしょうか。話が論理的ではありません」

これを耳に挟むと、男がベータに絡んできた。

「名称不詳ってえのは、またなんてぇ言いざまだ。てめぇこそ名乗りやがれ」

「わたくしの識別用の名称はベータでございます。正式名称は機体番号…」

「彼女はベータ。隣がアリサ。僕はミスター。ふたりとも僕と同じで、そこのリーダーのパーティーに属する冒険者だ。服装は…まぁ気にしないでくれ」

「そんな格好で冒険者と言っても通用するかよ。いざというとき、どうやって闘うんだ」


その台詞を言い終わるや否や、アリサの姿がぶれ、男は首筋にダガーを突きつけられていた。

「こうやって闘うのでございます。この男、いかがいたしましょうか、マスター」


唖然として身うごきできない男は冷や汗を流し始めている。隣のテーブルでは男たちがそれぞれの得物に手を掛けて立ち上がっていた。この男の仲間たちであろう。ただひとり、席に座ったままだった男がゆっくりと席を立ち、僕に近づいてきた。


「騒がせてしまい、済まない。リーダの僕が代わって謝罪しよう。どうか許してくれ給え、お嬢さん。僕はリヒトシュタインという。なんでも由緒のある名前らしいが、長いのでリヒトと呼んでくれたまえ」


「いや、こちらも少々やり過ぎたようだ。アリサ、ダガーをおさめて戻って来てくれ」

「仰せのままに」

アリサはダガーを仕舞い、僕の後ろに戻ってきた。


「アリサ嬢と言いましたか。たいしたものだ。その格好で良く動けますね」

アリサは返事をせず、代わりにトールが再び口を開いた。リーダーと名乗った以上、無視されてそのままにしてはおけないのだろう。

「それで、あらためて聞くが何の用だ」

「ダンジョンの怪物を倒し、行方不明だった冒険者を助け出したのは、あなたのパーティーではありませんか」

リーダーに対してなのだろうか。アリサや僕に対したときよりも口調が少し丁寧になった。

「トールだ。俺はトール。どこでそんな話を聞いたんだ」

「うわさですよ。女の冒険者がいるパーティーというのは珍しいですからね。今この町ではトールさんのパーティーくらいでしょう」

「そういうことか…確かに俺たちのことだ」

「やはりそうでしたか。そこでお願いなのですが、みなさんが倒したという怪物のことを詳しくお聞かせ願えないでしょうか」

「それについちゃあ皇帝の調査隊が到着次第調べを受けることになってるんだ。それが済むまでは誰にも話はできねぇな」

「それは残念です。調査隊に話した後ならばお聞かせ願えますか」

「考えとくよ」

「よろしく願います。それまで僕たちは、その新しい通路を閉ざしているという壁が破れるのか試して見ることにしましょう」


リヒトと称した男はダレルを連れて仲間の元に戻っていった。僕はちょっと不安になり、ベータに尋ねた。


「あの壁は大丈夫なんだよな」

「サンプル体No.1、識別名称アリサの記憶データによるかぎり、マスターのブラックホール以外では破れないと推定されます」

「アリサの知らない魔法があるかも知れんぞ」

「現在のデータでは、この星の生命体が持つ魔法のメカニズムは不明です。しかし、サンプル体No.3、識別名称ノアが使用した魔法の効果は通常のエネルギーによる効果でした」

「もし万一、未知の魔法効果によって破壊された場合はどうなる」

「壁を破壊できる攻撃は、警備用の機体も破壊できます。そのようなことはあり得ないと推定していますが、万一の場合は休止中のアルファ系の機体が起動します。アルファ系の機体はブラックホールによる攻撃も対処可能です」

「ベータと同じってわけか」

「それ以上です。アルファ系にはいくつかのタイプが存在し、143体の内の12体は戦闘に特化した機体です。その火力および耐久性はわたくしの比ではありません。アルファ系はこの星の知的生命の保護よりも宇宙船施設および母星の位置情報の保護を優先します」

「母星の位置データは起動の際に失われるんじゃなかったのかい」

「おっしゃる通り失われます。しかし、保護プログラムはシステムエリアに残っていて、その指示通りに行動します」


アリサの記憶にはハンターの能力についてはわずかしかないはずだ。

「もしも、あり得ないと思うが、アルファ系が破壊されるなんてことになったらどうなる」

「戦闘タイプのアルファ系には、自己消滅プログラムの他に自爆プログラムが存在します。外的要因で戦闘タイプのアルファ系が機能を停止した場合は、自動的に自爆プログラムが作動します」

「そうなるとどうなる」

「アルファ系の重力炉に含まれるブラックホールのエネルギーが解放され、この星が消滅すると推定されます」


リヒトたちが有能すぎないことを祈ろう

それと、皇帝直属の調査隊も有能すぎないことを…



★★ 148話は5月22日00時に投稿


外伝を投稿中です

https://ncode.syosetu.com/n3559hz/

王女と皇女の旅  ~魔術師は魔法が使えない 外伝~

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