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142 魔術師、ダンジョンに入る

「ちょっとー、何これー! 何でー! 出せー!」


ノアの叫びで目が覚めた。


隣の部屋で騒ぎがおきているようだ。

「あ、駄目よ、ノア。今出してあげるから、魔法は駄目だったら」

「早くー!」


何事かと、隣の部屋への扉の前で声を掛ける。

「おーい、何事だー。入るぞ、いいか」

扉を開けようとしたとき、扉が開いた。

「休息中に騒ぎをおこしてしまい申し訳ございません、マスター」

アリサが扉を開けたのだ。部屋に入ると、ソアがノアをシーツから出している最中だった。シーツから出されると、ノアがソアに噛みつく。

「誰がやったの!」

ソアがノアから顔を背けて返事をした。

「酔ってノアが自分でシーツにくるまったのではありませんか」

「そんな訳あるかー。ロープでくくってあったじゃん。あたしが自分で結べるはずがない!ソアでしょ。やったのは」

「あなたが酔っ払って暴れたのが悪いのです」


このままでは騒ぎが大きくなりそうだ。ここはノアの気をそらそう。


「取り込み中すまないが、ノア、ダンジョンに行ってみようと思うのだが、一緒にこないか」

「ダンジョン! 行くー」

「それじゃあ準備をしてくれ、準備ができたら、まずはギルドに話を聞きに行こう」



30分もたたないうちに、僕らは揃ってギルドの受付前にいた。ギルドは宿の1階部分の一角にあった。本来の町ではないのでギルドが支部を出すはずもないのだが、冒険者が多く集まることもあり、宿の責任者がギルマスとして委託され、最寄りの町のギルドの出張所扱いになっているようだった。


トールが受付の男に話しかけた。

「ダンジョンに入るのに許可とかは必要なのか」

「調査が終わっているので許可はいりませんよ」

「なら勝手に入ってもいいってことだな」

「でも、今日からダンジョンは封鎖され、立ち入り禁止です」

「そりゃ、どういうことだ」

「昨日ダンジョンに入った冒険者のパーティーが行方不明になって戻っていません」

「それって、カイルさんのパーティーではありませんか」

「ええと、はい、リーダーはカイルとなっていますね」

「行方不明ってどういうことなんだ」

「予定された時刻になっても戻らなかったので、職員が様子を見に行ったんです。戻ってきた職員の話によると、以前にはなかった通路があったというんです。職員は新しい通路には入らず逃げ帰ってきました。今は隣町のギルドに応援を頼んでいる状態です。応援が来るまでは立ち入り禁止にしています」

「すぐに冒険者に依頼して捜索隊をだすべきではありませんか」

「ええ…しかし、この通り今は依頼を引き受けてくれる冒険者もいなくて…」

「あたしたちがいるよー。カイルさんなら昨日知り合った仲だし、ダンジョンにも行きたかったから丁度いいじゃん。いいよね、トール」

「何か危険な様子はあったのか」

「具体的なことは何も…。そもそもギルドの職員といってもここでは宿の従業員が兼任で努めているだけで、冒険者でもなんでもありませんから、奥まで入って確かめるなんてできません」

「それじゃあ俺たちが行こうじゃないか。カイルたちも生きているかも知れん。隣町からの応援なんぞ待ってられるか」

「それでは、依頼をうけてくれるということでよろしいのでしょうか」

「ああ、依頼料はギルドの規定通りでいいぞ、その代わり、中で得た物は俺たちに所有権があるって事は保証して貰うぞ」

「もちろんですが、新たな遺物が発見された場合、遺物によっては帝国が口を出してくるかも…」

「そんなことは俺たちでなんとかするさ、ギルドは文句はないんだな」

「はい、所有権についてはおっしゃる通りです」

「ダンジョンの入り口まで案内はしてもらえるのか」

「様子を見に行った職員に案内させます。馬で1時間もかかりません」



「ということだ。カイルたちが心配なのですぐに出かけるぞ」

トールの言葉に僕たちはうなずき、そろってダンジョンへと向かった。



「ここがダンジョンの入り口です」

「新しい通路ってのは?」

「入って直進し、突き当たりを右に曲がればすぐです。見れば分かりますよ」

「入り口からそんなに近い場所の通路が今まで発見されなかったというのは変ではないでしょうか」

「そんなことをわたしに言われても…。とにかく行けばわかりますから」

ここまで案内してくれた職員は、そういうと逃げるように町へと帰っていった。

「何かを怖がっているのでしょうか」

ソアの言葉を聞いて警戒心が目を覚ました。

「ノア、魔力感知は?」

「ダンジョン内では何も感知されないよ。感知範囲外の奥の方はわからないけど…」

「すまんがダンジョン内では常に警戒していてくれ、頼むぞ」

トールがゴードに目配せをすると、ゴードが背中の盾を下ろして手で持ち、ノアの前に立った。

「それじゃぁ入ってみるか。俺が先頭に立つ。ゴードとノアは俺に続いてくれ。ソアとエマにはしんがりを頼む。ミスターとアリサはノアの後ろだ。離れるなよ」


入り口からは広くまっすぐの通路が続いている。床も壁も、そして天井も全て石で組まれている。石なのに驚くほど大きさが揃っていて遠目には煉瓦が積まれているようにしか見えない。途中からノアが杖の先端に魔法で光球を作りだし、周囲を照らしている。50メートルほどすすむと、突き当たりとなっていた。案内人の言った通りだ。突き当たりでは通路が広がって部屋のようになっていた。通路は突き当たりで左右に直角に別れ、丁字路のようになっている。冒険者たちが探し尽くした後だろう。あちこちの壁が壊され、土がこぼれていた。もちろん遺物などはない。


「右だったな」

そういってトールは右の通路に進む。すこし進んだところでノアが言った。

「ねえ、この壁、変じゃない」

「どこが変なんだ」

「だって…これ、石じゃないよ」


ノアの言うとおりだった。薄暗いのでわかりにくいが、障ってみると質感が違っている。トールが短剣を抜くと、壁に突き立てた。

「確かに石じゃぁないな。傷ひとつつかないぞ」

僕も剣を抜いて、壁を斬りつけてみた。偽装の鉄剣が砕けるのは想定内だが、見えない剣が壁で止められてしまったのは想定外だった。

「信じられないな、この剣が止められてしまった」

「土魔法も効きませんね」

ソアが魔法での破壊を試したようだ。

「とりあえず進もう。新しい通路ってのがあるはずだ」

トールは短剣をしまい、再び歩き始めた。


「止まれ。前方の壁に穴がある」

ノアが光球の明るさを強めると、前方の壁の側面に穴が開いていた。

「カイルさんたちが開けたのかな」


見えない剣でも歯が立たない素材だ。土魔法も効かない。そんな簡単に破壊できるはずがない。


「いや、破壊されて開いたようには見えない」


穴はまるで始めから通路になっているかのように、きれいに開いていた。


「カイルたちが来たときには開いていたんだ」

「これまで調査隊や冒険者が何人も来ても開いてなんかいなかったのに」

「理由は分からんが、そうとしか考えられない」


トールがノアの方を見ると、ノアが答えた。

「まだ何も感知されない」

「よし、入るぞ」

僕たちは新たな通路へと歩みを勧めた。


新たな通路も、未知の素材の煉瓦で組まれている。少し下り坂になっている通路を進んでいると、ノアが言った。

「前方に魔力感知。4人固まっている」

「カイルたちか、確か4人パーティーだったな」

用心しながらさらに進むと、前方が明るくなっている。ノアが光球を消した。


前方に部屋のような広い空間が見えてきた。通路はその部屋を突き抜け、さらに奥に続いている。

「部屋を抜けた通路の先、すぐのところにいるよ」

そう言って部屋に入ろうとしたノアの首筋をつかんで、トールがノアを引き戻した。

「よく見ろ、ノア」


トールが指さすその先、部屋の中央に、巨人が立って居た。



★★ 143話は5月12日00時に投稿


外伝を投稿中です

https://ncode.syosetu.com/n3559hz/

王女と皇女の旅  ~魔術師は魔法が使えない 外伝~

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