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14 魔術師、タルト氏と話す

明け方近くになってようやく寝られたと思ったら

「ミスター、朝だよー、起きてー」

ノアに起こされた。隣を見ると、ソアの寝袋はすでに片付けられている。なんとか寝袋から出て野営地の入り口を見るとゴードがたき火の後始末をしている。ソアとトールも一緒だ。タルトさんはすでに馬上にあり、テイトさんは御者席に座っている。空は白々としているが、日の出はまだのようだ。急いで自分の寝袋をたたむ。

「寝坊は僕だけですか、次はもっと早くに起こしてくださいな」

「あたしと一緒の寝袋なら寝坊しないよー」

「出発ですよ、ミスター。所定の位置についてください。ノアも先頭に行って。あなたが行かないと出発できません」

「朝は食事抜きですか?」

「昼頃には町に着くので、今回は抜きです」

「そうですか…」

「仕事中は一日二食が原則ですが、今回は仕事が昼までなので町で食事をします」

そういうことなら仕方がない。それに、ほし肉とパンよりは町でまともな食事をしたほうが良い。昨日と同じようにタルト氏の馬の横につく。僕の位置を確認したトールが出発の合図を出す。馬車が動き出した。


「おはようございます。ミスター様」

「おはようございます。タルトさん」

「ゆっくりお休みになられましたか?」

「いえ、寝付かれなくて…」

「そのうち慣れますでしょう」

「盗賊とかはよく出るのですか?」

「めったには出ませんね。町から町へと移動するときの護衛は、盗賊じゃなくて魔物が相手ですよ。盗賊が出ても荷をすてて逃げれば、だれも傷つけられませんから」

「戦わずに逃げたら助かったとしても、護衛の人は冒険者として終わってしまうのでは?」

「依頼主が逃げると判断したときは別です。終わってしまうのは戦って降伏した場合です。護衛が戦うのは自分たちが勝てるか互角と判断した場合だけです」

「トールさんの話と微妙に合わないのですが…」

「トールさんの話?」

「勝てそうもない盗賊に出くわしたら、ゴードさんと二人で戦うから、自分たちが死んだら僕に降伏しろって」

「そんなことを…。それはノアさんがいるからでしょうね。ノアさんはとても優れた強い魔術師です。ノアさんがいるパーティーならば、相手の盗賊がどれほど強力で多人数でもギルドは勝ち目があると判断するでしょう」

「逃げる選択肢はないと?」

「はい、このパーティーが護衛ならば、非情かもしれませんが、わたしでも商人として逃げる選択はしません。戦ってもらいます。トールさんのパーティーは特別なんですよ、ノアさんがいるので。しかしトールさんはノアさんを絶対に死なせたくないと思っているのでしょう」

「確かに…」

「依頼主が自分だけは助かるからと思って、いちかばちかで勝てそうもないのに護衛に戦わせたりしたら、ギルドの信用を失います。誰も護衛を引き受けなくなります」

「なるほど」

「護衛も盗賊も命がけですからね。無茶はしませんよ。町のスラムに巣くうギャングの方が恐ろしいです。女子供でも容赦ありませんから。殺される人の数は町中の方がずっと多いのです。大きな店の商人なら、町中を歩くときも必ず護衛をつけます。ミスター様も町の中だからといって油断はなさらないでくださいね」


歩きながら馬上のタルト氏と話をして、この世界の知識を仕入れる。しばらくすると、街道上で通行人とすれ違うようになった。行商人か農民か。ときどき冒険者と思われる集団とすれ違う。ノアとソアをみると一瞬驚くが、無言のまますれ違って行く。女性の冒険者が珍しいのだろう。


僕たち護衛は通行人が見える度に警戒を強めなければならなくて、のんびりとは出来なくなった。遊びの旅じゃなくて報酬をもらう仕事なのだから仕方がない。ノアの軽口もすっかり影を潜めている。


「ときどきすれ違う人たちはどんな人たちなんでしょうか」

タルト氏に尋ねる。

「少し前から街道に分かれ道があるのにおきづきでしょうか。町の外にある村へ通じる道です。荷物を担いだ人たちは、そんな村へ行く行商か、あるいは町からもどる村の住人と思います」

「冒険者風の人は?」

「おそらく魔物の討伐依頼を受けた冒険者のパーティーかと存じます」

「討伐依頼?」

「はい、街道を外れると魔物と出会うことも多くなります。町の外の村には農民が住んでいますが、魔物の数が増えると村人の犠牲者も増えます。そんな時は村で報酬を出して冒険者に依頼をだすのです。先ほどからすれ違う冒険者の方々は、その依頼を受けて依頼主の村へ向かっているのでしょう」

「魔物の犠牲者は多いのですか」

「多いですね。旅の護衛は冒険者の仕事のごく一部です。依頼の大部分はこういった村々からの魔物討伐依頼なのです。冒険者の犠牲も多いですよ。さきほどからすれ違っている方々も何人かは戻れないでしょう。街道沿いとは比べものにならない強さの魔物が多いですから」

「なるほど…」

「あまりにも魔物の被害が大きくなると冒険者ではなく、軍が出動します。軍は周辺の地域の魔物を殲滅します。村が滅びたら食料の生産や税収に響きますから」

「軍でも手に余る魔物とかはいるんですか?ドラゴンとか?」


だんだん異世界らしくなってきたぞ…


「ドラゴンですか…見たという話は聞いたことがあります。ドラゴンはともかく、軍でも手に余る魔物は希に出現します。そのときは軍がギルドに討伐依頼を出します。そんな依頼を受けられるのはハンターと呼ばれるごくごく少数の冒険者です。ハンターは冒険者の究極の到着点ですかな。貴族と同様な特権を有し、貴族の令嬢を妻とする者も多くいます。普通の依頼は受けず、さきほど説明した軍からの依頼や、貴族からの特別な依頼だけを受け、普段は町で貴族のような暮らしをしています」


貴族の令嬢か…

うん?、何か殺気が…


「ミスター様もハンターのような暮らしがお望みですかな」

「ハンターが討伐する強い魔物には関心がありますが…」

ここでちょっと振り返ってソアを見る。それから声を少しだけ大きくして

「貴族の令嬢というのは遠慮したいところですね」

と答えた。


殺気が消えた…

★あとがき(撮影現場にて)★


ノア:「ちわー、またきたよー」

もう、ロケ弁の配布を2個にしますから、こないでくださいよ。

ノア:「2個くれるの?もっときたら3個くれる?」

それはADさんにお願いしてください。

ノア:「ところで、このところ、何となくだけど、ソアがヒロイン枠に入ってきそうな雰囲気なんだけど…」

気のせいじゃないですか?

ノア:「そうかなぁ」

ほら、次のテイクがはじまりますよ。お待ちかねのノアさんの見せ場です。シリアスな演技をお願いしますね。

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