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131 魔術師、凱旋する

テレポートで元の位置にもどると、まさにノアがブレスに耐えている最中だった。魔力ゼロなので魔力では感知されないはずなのだが、出現と同時に氷竜は僕に気がついたようだ。ブレスを吐きながら、目が動いて僕の姿を捕らえた。氷竜までの距離は5mほど、間髪を置かず距離を詰めながら首筋めがけて剣を振り下ろした。


避けられるはずがないと思ったのだが、氷竜はブレスを中断して首を傾けた。僕の一撃は空振りとなり、氷竜の頭上を通り過ぎた。そのため、バランスを崩して僕は氷竜の目の前に飛び出る結果になってしまった。その僕をめがけて氷竜の手の爪が横から襲ってきた。


テレポートが間に合わない…


そう思った瞬間、視界がまぶしい輝きに覆われた。氷竜と僕を電撃が覆っている。氷竜の爪はそのショックで狙いがはずれ、僕の頭上を空振りした。


これは…ノアの魔法か…

障壁がなかったら僕まで黒焦げだぞ…


このチャンスは逃せない。障壁のおかげで電撃のダメージはない。僕は、のけぞった首筋めがけて下から剣を振り上げた。微かな手応えを感じながら、勢い余った僕の身体が一回転すると、そこに氷竜の尾の先端が横からたたきつけられた。その一撃で10mほどはね飛ばされ、僕は木の幹に激突した。空での闘いで受けたダメージと会わせて、僕の意識は途切れた…


……


目の前にノアの顔があった。その後ろでソアが回復魔法を使っている。対象は僕だ。意識を失うほどだった痛みが今は鈍い痛みしか感じない。以前の刺客に負わされた傷とは異なり、悪化することはないと思える感じだ。ノアの顔にも不安の色がない。


「すごい魔法だったな、ノア。障壁を纏っていなかったら僕まで黒焦げだったぞ」

「いつも闘うときは障壁を纏ってるじゃん。きっと大丈夫だと思っていたよ」


ノアさん、目が泳いでいますよ

絶対僕のことまで考えていませんでしたよね…

しかし、氷竜を倒せたのはノアのおかげに間違いはない


「ノアのお手柄だな。僕は跳ね飛ばされて意識をうしなってしまったけれど、こうしてるってことは、氷竜は倒せたんだろう」

「何言ってるのよ、やっつけたのはミスターだよ」

そういってノアが後ろを振り返る。ノアの視線を追うと、片方の翼を吹き飛ばされ、身体のあちこちが焼けただれている氷竜の巨体が地に伏せていた。ぴくりとも動かない。完全に死んでいるようだ。

「ノアの魔法でやられているじゃないか」

「よく見てよ、首、奴の首を」

視線をずらすと、長く伸ばされた首の先がなかった。きれいに切断されて、断面から血を流している。

「首はどこに…」

ふたたびノアの視線の向く方に顔を向けると、口を半開きにして目を見開いている氷竜の頭部が地面に転がっていた。トールが脚を掛けて牙を抜こうと奮戦していたので、おもわず声を掛けた。


「トール、すまんが牙はそのままにしておいてくれないか。その首はマークに持って帰るんだ。親父の仇をとった証拠として。来る前に約束したからな」

ソアも同じ意見のようで、トールに言う。

「牙のついた、そのままの形で職人に剥製にしてもらいましょう。マークへの良いプレゼントになります」

トールが残念そうな顔をした。

「いったい、いくらで売れると思っているんだ。あの小僧にただでくれてやろうってのか…」

「いいじゃん、あたしたちはお金に困っていないし、もしもあの子が売ってお金に換えたとしても気にしないよ、あたしは。それに頭部なしでも、相当な儲けになるよ」


「それもそうか。ところでもう一匹はどうなったんだ、ミスター」

「山の方に落下したと思います」

「仕留めたのか」

「とどめは刺せませんでしたが。首を半分ほど切断しました。致命傷だと思います」

「山の方か…。回収は難しいな」

「氷竜の生息地域ですからね」

「ねぇ、そこに死体が落ちていったら他の氷竜が仕返しに山から降りてこないかな」

「どうだろう…」

「その地域まで遠征して氷竜を討伐するハンターもいるんだ。大挙して何匹も殺したら判らんが、一匹やそこらでは大丈夫だと思うぞ。まぁ、そのときは今度こそハンター様に対処して貰おうじゃないか」


「そういえば、あのボルグって奴、あたしたちが氷竜の首を持ち帰ったらどんな顔をするだろうね。あたしたちが逃げ帰ってくると思ってるよ、絶対に。びっくりするところが見物だよ、きっと」

ノアの言葉にアリサが応える。

「驚くだけならばいいのですが…ボルグはとても攻撃的だと聞いています。面子をつぶされたと思われると…」

「でも、ハンターが冒険者と面倒を起こしたら資格剥奪っていってなかった?」

今まで黙っていたエマがノアに言う。

「多くの冒険者はハンターを出世の頂点と考える。だからハンター資格を失うような馬鹿なまねはしない。しかし、ボルグは違う。奴はエンダー、わたしの師匠と同じタイプだと思う。師匠より短気で攻撃的だが、本質は同じだ。強い相手と闘いたい、ねっからの武闘家だ。自分を差し置いてドラゴンを倒した者がいれば、必ず挑戦してくるはずだ」

「それなら、お仲間のハンターに挑戦すればいいじゃん」

「他のハンターには相手にされないのだろう。それに、まだ自分でもまだ先輩のハンターにはかなわないと自覚してるのだ。攻撃的だが馬鹿ではない。いずれは挑戦するつもりだろうが…」

「あれこれと、ここで話していてもどうにもならん。さっさとこいつを持って帰ろうぜ。ボルグのことはそれからだ」

トールに皆が同意する。


皆にここで少し待つように伝えると、ひとりで村の宿泊所にテレポートし、ギルドに行くとギルマスに事情を説明し、ギルドの裏の庭に氷竜の死体がおけるだけの場所を作って貰い、そこに基準点を設けた。その後、急いで皆のもとに戻ると、氷竜の死体、それに皆と一緒に裏庭までテレポートした。


話を聞いて、ギルマスはもちろんのこと、ギルドの職員が総出で僕たちを待っていた。


テレポートを見られちゃったな

ギルマスに頼んで口止めをしてもらわないと

もちろん、伝説の転移魔法ということにして…


僕たちと氷竜の死体が出現すると同時に、裏庭の周囲で輪になって待っていたギルドの職員がいっせいに駆け寄ってきて、口々に驚きと賞賛の言葉を発した。そんななか、裏庭に通じるギルドの裏口の脇で、ボルグが腕を組んで僕たちを睨んでいるのが見えた。


★★ 132話は4月20日00時に投稿


外伝を投稿中です

https://ncode.syosetu.com/n3559hz/

王女と皇女の旅  ~魔術師は魔法が使えない 外伝~

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