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130 魔術師、地上に戻る

ポケットの中の魔道具が、お試しの時と同じように熱くなって、目の前では氷のブレスが閃光を発しながら打ち消されている。ブレスの直前、目の前から消えたもう一匹の氷竜は、ミスターがテレポートで引き抜いていったにみたいだ。ここまでは予定通りだね。


トールはミスターに1分で戻れって言ってたけど、小型とは言えドラゴンを1分で倒すのはミスターでもきついと思う。あたしが頑張って1分以上もたせればいいだけだ。いや、あたしの魔法でこっちのドラゴンを倒してしまえば問題は何もない。次の魔法で地上にたたき落としてやる!


魔道具がブレスを防いでいる間に、できるかぎり強力な魔法を用意する。そう思って魔力を練り上げていった。


ずーっと続くんじゃないかって思えるほど長かったけれど、ようやくブレスが止まった。そのタイミングであたしが魔法を発動させる。ドラゴンに向かって飛んで言った光球が片方の翼の根元に命中して大きな音がして、稲妻のような電光がドラゴンの身体を包み込んだ。


電光がおさまると、ソアの弓がドラゴンの目を狙って飛来し、左右からトールとエマが剣と槍を持って飛び出してきた。


「まだ!トール、エマ、まだだめ!」

あたしは大声で叫んだ。


あたしの魔法の直撃を2度も受けたっていうのに、あいつはまだ落ちないで浮かんでいた。地上に落とす前に剣や槍で攻めたら、ドラゴンも尾を振り回したり、噛みついてきたり、手足の爪で反撃してくるじゃん。それってまずい。地上に落とすまでは魔法だけで攻撃しないと。


あたしの声が聞こえたのか、トールとエマが攻撃を思いとどまり、引っ込んだ。でも、ドラゴンが引っ込んでいくトールの方を睨んでいるよ、まずいね。魔力の練り上げを中止し、とりあえず速攻で撃てる火球を顔めがけて放った。命中はしたがダメージはない。でも、もう一度あたしに注意を向けさせることはできたようだね。ふたたびブレスの構えに入った。急いでもう一度魔力を練り上げなけりゃ…。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


はるかな高空、成層圏に僕と氷竜が出現する。奴の表面が凍っていくのが見える。しかし、やつの動きは止まらない。奴の尾が首の後ろにしがみついている僕に迫って来て、僕をはじき飛ばした。運動量さえ打ち消すはずの障壁なのにはね飛ばされる。どれだけの威力なのだろう。20メートルほど飛ばされたところで止まる。距離が開いてしまったために、奴を再度テレポートで転移させることができなくなった。当初の目論見では、2回目のテレポートで奴だけを宇宙空間に転移させてやろうと思っていたのだ。いくらドラゴンでも真空の宇宙で生存できるとは思えない。しかし、そう上手くはいかなかった。


1分もあれば…

ああ言ったのは、この作戦があったからなんだけどな…


しかし、背中に背負った単分子の棘つきの盾のおかげで、奴の尾の先端はぼろぼろに引き裂かれている。計画をはずされてしまったが、かなりのダメージは与えることができた。多くを望んでもしかたがない、全力の力押しでいこう。


僕から離れた奴は落下せずに自力で飛行している。こんな場所でも魔法で飛べるのかと感心してしまった。そして奴はブレスの構えに入った。この低温と薄い空気の環境で吐くブレスがどうなるのか、ちょっと興味を持ったけれど、それを見届ける暇はない。先手を打って攻撃だ。


ポケットから出した銅貨を使ってのレールガンもどきを続けざまに放つ。直撃すればいくらドラゴンでも無事には済まないだろう。5本のプラズマの放流が奴を襲い、そのうちの2本が右の翼と左の脇腹に命中した。開いた口の中の輝きは消え、放たれる寸前だったブレスは中断された。痛みを感じたのか、それとも怒りなのか、咆哮をあげている、しかし、薄い大気のなかでは大した音圧を感じない。マイクロブラックホールで追撃できれば確実に仕留められるが、動きが遅く避けられてしまうだろう。ポケットの中の銅貨も品切れだ。残る手段はこれしかない。


僕は剣を抜くと、もう一度首の後ろをめがけてテレポートした。


今度はしがみつくことはしない。そんな暇はない。ふたたび尾の一振りが僕に迫ってくる。あれほどの傷を与えたのに怯む様子はない。たいしたものだ。僕はそれを無視して単分子チェーンの剣を首めがけて思い切り振り回した。


奴は本能的に危険を感じたのだろう、首を前に傾けて僕の剣筋をはずそうとした。なんとか届かせようと、剣を持つ手をめいっぱい伸ばす。力を込める必要はない。触れれば斬れる単分子の刃だ。剣が奴の首に触れたかと思った瞬間、尾の一撃がふたたび僕を襲った。


今度の一撃は、奴も必死だったのだろう。最初の一撃にまさる力で、単にはね飛ばされただけではなく、障壁を破られそうになった。本来伝わるはずのない衝撃の一部が障壁を突き抜けて僕の脇腹に伝わった。痛みで息が止まる。そのまま吹き飛ばされるが、なんとか運動エネルギーを消滅させ停止した。身体をくの字に折り曲げ、痛みをこらえながら奴を見る。手応えはなかったが、剣は奴の首に届いていたようだ。首を落とすことは出来なかったが、太い首の半分ほどが切断され、千切れかけている。いくらドラゴンでも致命傷だろう。落下を始めた。


奴の落下先を見届けている暇はない。もう1分はたっていそうだ。ノアの元にもどらなければならない。やつを引き抜いた場所にもどるのは出来るが、出現した瞬間に攻撃される危険がある。深呼吸をすると、痛みをこらえながら両手で単分子の剣を構え、ノアが引きつけていてくれることを願ってテレポートした。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


前と同じように、二度目のブレスは雷のブレスだった。ブレスが吐かれる直前に、目の前に土の壁がせり上がってきた。ソアの魔法だ。その直後にブレスが吐かれた。せっかくの土の壁だったけれど、一瞬で粉々に吹き飛んじゃったよ。しかし今度もまた魔道具の効果で、あたしとゴードの目の前で閃光を発しながらブレスは消滅している。でも、ポケットの魔道具がますます熱くなってきた。氷のブレスだったら二度目も大丈夫だと思っていたけど、雷のブレスはもっと強力みたいだ。それによく考えたら、ブレスが続く時間だって氷のブレスより長いかもしれないじゃん。これはちょっとピンチだよね。魔道具が発動中はあたしも魔法が撃てないから…。


魔道具が火傷をしそうな程熱くなって、もう駄目って思った時、もう一匹がいた場所にミスターが出現した。さすがはミスターだよ、ちゃんと間に合ったね。ピンチのヒロインを助けるのはヒーローのお約束だよ。剣を構えているような格好だ。よく見ると剣の柄を両手で持っている。見えないけれど、タンブンシとかいう剣を構えているに違いない。

「ノア、大丈夫か!」

ミスターはブレスを吐いている奴に向かって行くと、首筋めがけて両手を振り下ろした。


氷竜の奴は、ミスターが出現すると同時に気がついたみたいで、ブレスを吐くのを止めて首を傾けた。予想以上に素速い動きで、ミスターの一撃は空を切らされちゃったよ。勢い余って奴の前に飛び出てしまったミスターをめがけて、奴の手が横から伸びる。このままじゃ、ミスターが鋭い爪で引き裂かれちゃうよ!


あたしの出番だね、ここは。ヒーローのピンチを救うのはヒロインと決まってるじゃん、お約束だね。そしてヒーローとヒロインは…。あ、夢を見てる暇なんかないんだ。あたしは魔道具を作動を止めると、氷竜めがけてめいっぱいの雷魔法を放った。


あっ!ミスターが巻き添えに…


★★ 131話は4月18日00時に投稿


外伝を投稿中です

https://ncode.syosetu.com/n3559hz/

王女と皇女の旅  ~魔術師は魔法が使えない 外伝~

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