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129 魔術師、空の闘い

ミスターからドラゴンの位置を聞き、あたしとゴードはそこに向かって進み始めた。飛竜と闘うときと同じように、あたしはゴードのすぐ後ろについている。ゴードは両手で大盾を持っている。飛竜の場合と違って、打撃を防ぐための頑丈な盾だ。ブレスを防ぐためではない。ブレスは魔道具で防ぐ。


あたしの魔法の射程は300メートルほどで、他の魔術師に負けてはいないけれど、魔力感知できる距離は100メートルで、他の魔術師とさほど変わりはない。実にバランスが悪い。感知出来る距離も射程と同じくらいならばいいのだけれど…。


今ここで、そんなことを言っても仕方がない。そろそろ射程内に入る頃だが、位置を感知せずに撃っても命中はおぼつかない。なんとか最初の魔法も命中させてダメージを稼ぎたい。

「ゴード、もう少し前にすすんで」

「…」

返事はないが、ゴードは前進を続けた。


森が少し開けた場所に出たところで、あたしの感知に2匹がかかった。最初の魔法は火の魔法にするつもりだ。氷竜というくらいだ、弱点があるとしたら高熱だろうと思う。


もうドラゴンもあたしたちを感知しているはずだ。早く魔法を撃ちたい気持ちをぐっと抑える。火球を放ってしまえば、最初に決めたコースで飛ぶだけで修正はできない。ドラゴンが火球を感知しても避けられないタイミングで撃つ必要がある。


そんなタイミングがあるのかって?

それがあるんだよ。


あたしたちを敵と認識したら、空中に上がってこちらに向かってくるにちがいない。飛竜と同じでドラゴンも魔法で空を飛んでいるんだ。翼じゃない。あんなでかい図体をあのサイズの翼だけで浮かすことなど出来るはずがない。その飛び上がるための魔法を発動させる瞬間が、そのタイミングだ。あたしは魔力感知に集中した。


2匹の魔力が増大し始めた。今がその瞬間だ。あたしは魔力たっぷりの火球を放った。放物線のコースで森を越え、火球が飛んでいった。前方で大きな閃光と爆発音がする。上空を見ると、豆粒のように小さく見えるミスターが両手で丸をつくっていた。どうやら命中したようだ。すぐにゴードの背中にくっついて、次の雷魔法のための魔力を込め始めた。トールたちも左右で用意をしているに違いない。


あたしたちの前方20メートルほどの空中に、2匹が現れた。一匹は軽傷ではあるが火傷を負って燻っている。その横に無傷のやつがいる。どっちが雌で、どっちが雄なんだろう。あたしには区別がつかないや。縦を持ったゴードの姿を見ると、2匹は空中で停止し、口を開けた。


最初に魔法で攻撃してあるので、たぶん向こうも最初はブレスで来るだろうと予測していたけれど、その通りになった。こちらの狙い通りだ。


2匹の口の中に光が生じる。氷のブレスだ。他のブレスも使えるのは前回の接触で確認できているけれど、どうやら氷竜は氷のブレスがお好みのようだ。というか、話は逆で、そういうドラゴンを氷竜って言うだけなのかな…


ブレスが来る、そう身を引き締めたとき、無傷のほうが消えていなくなり、残った一匹のブレスがあたしとゴードを襲った。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


上空で待機していると、2匹が動きを止めた。周囲に土埃が舞い、2匹が浮上を始める。そのとき森を越えて火球が片方のドラゴンに落下した。


良いコントロールじゃないか、ノア

命中だぞ


見ているかどうか判らないが、ノアの方に向かって両手を上げて大きな丸をつくって命中をしらせてやった。


爆発の閃光と炎、そして煙で2匹の姿が見えなくなったが、それも一瞬で、煙の中から2匹が浮上してきた。火球が飛んできた方向、ノアのいる方に頭を向けると、咆哮とともに飛んでいく。僕は上空からその後を追った。気づかれないように注意はしているが、2匹の注意は完全に魔法を撃ってきた敵に向けられているようだ。狙い通りだ。


後を追いながら、もっと強力な都市つぶしクラスの威力の火球を撃てば良かったのではと思ったけれど、あの浮き上がるタイミングで撃つには魔力を込める時間がたりないのだろう。あのタイミングでなければドラゴンに躱されて、直撃は望めなかったろう。


2匹は盾を構えたゴードを前にして空中で止まっている。思惑通り、ブレスの構えだ。僕は無傷の方の首の後ろに狙いを定めて、タイミングを計る。


口の辺りに光が見えたとき、テレポートして一匹の首の後ろにしがみついた。太すぎて腕を完全には回せないけれど、ごつごつした皮膚のおかげで身体の固定は出来る。しがみつかれた氷竜は気がついてもブレスの途中で対応が遅れる。もう一匹はブレスの目標、ノアとゴードに集中していて僕に気がつかない。僕はしがみついたドラゴンと一緒に、巣の方向、人の住む町や村が存在しない方向に上向き45度の角度で14km離れた位置にテレポートする。


以前の炎竜との闘いで、真上に10km上がれば成層圏に達するのは確認出来ている。斜め45度で10km上昇するには14kmと少々進めば良い。簡単な計算だ。ピタゴラス君に感謝。


あれ、斜め45度なら水平距離も10kmだが

それだと地平線の丸みの分で高度は14kmより高くなるじゃないか

丸みで地面が下がる分を考慮して…

ええい、今更計算し直している暇はない

きっと、誤差の範囲だ


当初の予定通り、14kmだけテレポートした。



一瞬の間で、僕と氷竜が成層圏に出現した。飛竜の動きを止めた低温と空気の薄さも炎竜にはそれほど効かなかった。こいつにも効果は期待できない。突然の環境の変化にも戸惑うことなく、首の後ろに張り付いている僕を長い尾が襲ってきた。




★★ 130話は4月16日00時に投稿


外伝を投稿中です

https://ncode.syosetu.com/n3559hz/

王女と皇女の旅  ~魔術師は魔法が使えない 外伝~

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