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127 魔術師、討伐に出る

今朝は早くに起きて帝都の外に向かいます。帝都に入るときと違って、何か事件でも起こっていたりしない限り、出るのは簡単です、小さな鞄一つだけなのを番兵が気にした様子ですが、特に何かを尋ねられることなく通してもらえました。


街道を進み、マスターに送ってもらった場所までやって来ました、ここでマスターを待ちます。20分ほど待つと、マスターが現れました。

「すまんな、少々遅れてしまった」

そうおっしゃって、わたくしの手を取りアルルの村へとテレポートしました。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「お帰りー」

僕とアリサが宿泊所の部屋に現れると、最初にノアが声を掛けて来た。すぐにでもドラゴン討伐に出かける気満々である。


「お帰りなさいアリサ、お疲れ様でした」

ソアが労りの声を掛ける。トールは気になっていたことを早速質問した。

「どうだ、ボルグの野郎のことは何か判ったか」


「そんなにせかさなくてもいいだろう、トール。朝食は済ませてるのか、アリサ」

「いえ、まだ頂いておりません、マスター」

「ちょうどいい、僕たちもまだなんだ。報告は朝食を取ってからゆっくり聞くことにしよう。いいだろ、トール」

僕の提案にトールも同意し、僕たちは連れだって食事に出かけた。



ギルドの近くにある店で朝食を取っていると、ボルグが店に入ってきた。僕たちに気づくと近くに寄ってきた。

「そういえばメイドもいたっけな…。しばらく見かけなかったが…何をしていたんだ」

「ボルグ様には関係のないことでございます」

「ごあいさつだな。ところで、今日は森には入るなとギルドからのお達しだが、ドラゴン退治には出かけようというのかな」

トールが食事をしながら横目でボルグを見て答えた。

「ああ、今出かけるつもりだ」

「お手並み拝見だな。ギルドで吉報を待っているぜ。全滅したときは俺が仇を取ってやるから、村や木こりたちの心配はしなくて良いぞ」

「あんたの出る幕はないからもう帝都に帰ったらどうだ。何もしないのは退屈だろう」

トールの言葉にボルグは一瞬顔をゆがめた。

「せいぜい頑張ることだな。犠牲者がでないことを祈っているよ」

ボルグは捨て台詞を残すと、ボクらの席からは遠い店の奥のテーブルにつくと、店員を呼びつけて食事の注文を始めた。



食事を済ませて宿泊所に戻ると、出発の準備をしながらアリサの報告を聞いた。ボルグが剣でも魔法でも一流だと言うことは聞かなくても判っている。ハンターの名前は伊達ではない。重要なのはボルグの戦い方だ。報告に寄れば縮地、それも異常に速い縮地の使い手だという。縮地そのものはちょっとした剣士ならば使いこなす技だが。ボルグのそれは普通の縮地と一線を画すものらしい。情報の出所は、アリサに寄れば帝都のボーマンというハンターだという。アリサが面と向かって動けなかったと言うほどの相手だそうだ。そのハンターが異常に速いというのだ、誇張はないだろう。そいつの見立てでは縮地のように見えるが、何かそれとはべつの力だという。


「別の力って…魔法か」

トールが尋ねる。

「ボーマンに依れば、魔法でも体術でもない何か未知の力だそうです」

「ミスターのあれ、ええと『トクギ』みたいなものか…」

「そうかもしれません」


僕のいた世界は科学の発達した世界だったが、超能力や魔法の概念はファンタジーとして存在していた。現実のものとしては認められていなかったが、超能力に関しては現に僕が使えた。秘密にしているだけで、僕のような力の持ち主は他にもいたのかも知れない。


一方、この世界では魔法が存在し、そのためと思うが科学技術は未発達だ。魔法はあまりにも便利で手軽すぎる。科学の概念が発達しないのも無理はない。この世界にも僕のような超能力者がいても不思議ではない。ただ、科学や超能力という概念がないために本人にも自覚できず、何か特別な、魔法のようなものとしか認識されていないのだろう。今にして思えば、あのガーベラの未来視というか予知能力も確率空間を認識できる超能力の一種なのかも知れない。


ではボルグの縮地はどんな力なのだろう。僕と同じテレポートのような力か…それとも…。可能性があるのは時間を止める力だ。時間が止まっている間に接近するわけだ。その場合、止めることが出来るのはほんの一瞬の間だけなのだろう。それこそコンマ何秒以下の短時間だ。もしも長時間、たとえ1秒であっても時間が止められれば接近するどころではない。そのまま倒してしまえる。最強になってしまう。いや、時間停止の間は他者に何か影響を与えることは出来ないのかもしれない。そうだとしても圧倒的に有利なのは間違いないから、ハンターの新参者に甘んじているはずがない。それと、ボルグ自身が自分の力を時間を止める力だと認識していない可能性が高い。この世界に科学的な意味での時間と空間という概念がないからだ。時間を止める力だという認識があれば、その応用は縮地だけに留まらないはずだ。おそらくボルグ自身も自分の力は縮地の特別なものだと思っている可能性が高い。つけいる隙があるとすればそこだ。


「ミスター、何をぼんやりしているんだ」

トールの声に我に戻った。

「何か対策でも考えていたのか」

「まあ、そんな所です」

「ボルグのこともあるが、それよりドラゴンが先だ。ミスターが最初の一匹をできるだけ速く始末するのが鍵だからな」

「わかっています」

「それじゃあミスターも出かける準備をすませてくれ。戻ってきて急な話だが、アリサもたのむ。アリサには俺たちがドラゴンの相手をしているときの周辺の警戒を頼むことにする」

「承知いたしました」



全員の準備が終わったところでテレポートしようとしたとき、扉がノックされた。エマが用心しながら扉をあけると、マークが立っていた。まだドラゴンではなく飛竜だと思っていた時に、飛竜退治を頼まれた子どもだ。


「ドラゴン退治にでかけるんだろ。おいらも連れてってくれ。親父の仇を討つんだ」


引き受けたのは飛竜退治だったが、ドラゴンとなれば話が違う。討伐はするが、この子は連れて行けない。前回は運が良かっただけだ。この子を守りながら闘う余裕はないだろう。


「マーク、あなたは連れて行けません。相手は飛竜ではなくドラゴンです。あなたがいては足手まといです。お父さんの仇は必ずわたしたちがとります。あなたはここで待っていてください」

ソアの説得に、唇をかみしめて下を向く。その足下に涙が落ちる。ソアの足手まといという言葉に反論できないのだ。僕も言葉を掛けようとしたとき、背中を見せてマークは掛けだし、姿が見えなくなった。


「足手まといはきついな…」

「そういわなければ彼は勝手に森にやって来てしまうかも知れません…」

トールが皆に呼びかけて気持ちを切り替えた。

「さあ出かけよう。さっさとドラゴンを始末してマークに首でも持ってきてやろうじゃないか」


僕たちはテレポートでふたたび森に転移した。



★★ 128話は4月12日00時に投稿


外伝を投稿中です

https://ncode.syosetu.com/n3559hz/

王女と皇女の旅  ~魔術師は魔法が使えない 外伝~

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